第12話 発 眠り狼
「あ〜、よく寝た。あれからどのくらい経ったんだ?」
ここがダンジョン内という事も忘れて、呑気に眠りこけてしまった。
冒険者として失格だろう。
安全地帯でもない、こんな通路の端で眠りこけるとは。
それというのも、きっと名も知らぬこの娘のお陰なんだろう。
とりあえずどうなったのか経緯を聞きたいが、いまだに眠っている。
よし、この娘には眠り狼ちゃんと名付けてあげよう。
そろそろ起こさないとな。
ずっとこの場にいる訳にはいかない。
いつ魔物が近づいて来るかも分からないのだ。
「眠り狼ちゃん、そろそろ起きな。おい、お〜い!!」
トゥバルは身体を揺さぶりながら、彼女の頭の上にちょこんと突き出た獣耳に囁く。
こんな所を魔物に見つかり、襲われれば一貫の終わりだ。早く起きてもらいたい。
「うみゅ〜」
何とも間の抜けた可愛らしい声を出し、目を擦る彼女。どうやら起きてくれるらしい。
「あ、ご無事だったのですね、冒険者様」
「おう、お陰様でな。俺はトゥバルっていうんだ。まずは君の名前を教えてくれるかい、眠り狼ちゃん」
「あ、あの、私はそんなに寝てましたか?」
「おう、俺は君の寝顔しか見てないぜ」
「はわわわ、お恥ずかしいです」
顔を真っ赤にして俯く眠り狼ちゃん。
ふむ、獣人族は人族から忌み嫌われていたが、どうしてなんだろうな?
よく見ると普通に可愛らしいが。
毛嫌いする意味が分からんな。
人族と容姿の違い等、それ程多くはない。頭の上からちょこんと突き出た耳とお尻の辺りからボフッと生えているフサフサの尻尾ぐらいだ。
「私の名前はテュカと申します」
「そっかテュカちゃんか、んで、何で奴隷のテュカちゃんが一人でダンジョンに?」
「それがですね、ご一緒していた冒険者様方に囮になれと言われてしまいまして」
なるほどな、大方手に負えない数の魔物にでも襲われたか。
逃げる為にこんな小さな子を囮に使うなんて、クズだな。
まぁ、奴隷の扱いなんて、そんなものか。
ホントに腐ってやがるよ、この世界は。
「まぁ、何だ、無事で良かったな、テュカ。とりあえずこっから出ないとな」
トゥバルはそう言いつつゆっくりと確かめるように立ち上がる。身体の方は大丈夫なようだ。あれだけやられてたってのに不思議なもんだ。
「はい、私もたまたま覚えたスキル、隠れ蓑で魔物をやり過ごしながら戻る途中でした」
テュカも立ち上がり、俺の隣に並んだ。一応周りを警戒しながら、
「それでくたばる寸前の俺を見つけてくれたって訳か」
「はい、腰のポーチから回復薬を拝借しまして」
「ん、この中にはポーションしか入ってなかったが?」
腰のポーチを確認したが、やはりポーション数本と干し肉が少々しか入ってなかった。
「その緑のポーションをふりかけたのですけれど……」
「いやいやいや、あんなポーション一つで治るような傷じゃなかったろ?」
「ですが、ふりかけた後にお身体がシュワシュワ〜ってなってゆっくりとですが、傷が塞がりだしましたよ?」
ふむ、よく分からんが不思議な事もあるもんだな。普通のポーションは裂傷や骨折ぐらいなら治るが、出血や欠損は治せないはずなんだが。
まぁ、彼女に聞いてもそれ以上は分からないだろうし。
「そっか、まぁ、大体の状況は理解した。よし、まずはダンジョンから出よう」
「はい、私、鼻は良い方なので、階段までご案内しますね」
テュカは両手で小さな拳を作り、頑張りますとアピールしている。
トゥバルは、そんなテュカの頭を撫でたのだった。
撫でらているテュカの方は、気持ち良さげに目を瞑っている。
トゥバルはそんな彼女の様子に、何だか心がホッコリした。
「で、どっちの方に行けばいいのかな?」
「こっちです」
と元気よく歩き出したテュカの後を追うようにトゥバルも歩き出した。
願わくば、何事もなくダンジョンから出れますように。
彼の願いは神に届くことはなかったが、不思議と魔物とエンカウントする事はなかったのだ。
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