第5話 序 ただ都合が良かっただけ

「ベルンよぉ、あいつほっぽりだして良かったのかよ?ちょっと勿体なかったんじゃねぇか??」


「仕方ないだろ、あの奴隷のせいで俺達が危険な目に合う可能性があったんだ。それにせいぜい金貨二枚程度の奴隷だぞ。今回の稼ぎで、また買えるだろう」


ベルンの言う事は最もだった。あの狼人の奴隷のお陰か、サクサクと魔物を発見しては倒していったので、稼ぎはかなりのプラスになっていたのだ。やはり気配感知持ちの奴隷は便利である。これがローグ系の冒険者を雇うとなると、いいところで収支がトントン、悪ければマイナスである。まぁ、稼ぎの話は置いといてっと、ブラウはベルンを肩を引っ掴み、耳打ちする。


「っていうかお前、本音は抱けない身体だからだろ?分かってんぞ、あの貧相な身体じゃあ立つモンも立たねぇしな」


「ちっ、流石にお前にはバレバレか」


「いやいや、ニードの野郎にもバレバレだっての。サテュロスの奴もお前が興味のなさそうな女の奴隷ばっかをわざわざ買ってくるんだもんな。笑っちまうぜ」


「サテュロスの嫉妬には困ったもんだ、俺がカッコ良過ぎるのが罪か」


「んなアホな事言ってねぇで、さっさとズラかるぞ」


そう言いながらブラウは先頭を歩く。来た道を急ぎ気味で戻っているので、それ程警戒は必要ない。なんせ先程魔物を倒しながら来た道だからだ。後ろではサテュロスがニードに折角良い奴隷買ってきたのに!とか言ってご立腹のご様子。また新しい奴隷買いに行かなくちゃ等と言っている。ベルン好きなのは良いが、貧相な奴隷だと俺やニードも発散出来ないし、全く困ったんだ。

 ブラウがそんな事をぼやきつつ、後ろを振り向くと、ベルンがサテュロスに今度はもう少し戦えそうな奴を頼むとかお願いしていた。

 サテュロスが前にムチムチの戦闘奴隷を買ってきた事があったのだが、ダンジョン探索の仮眠中に、ベルンはサテュロスの目を盗んでその奴隷とやったのだ。目敏いサテュロスはそれに気付いてしまった。それ以来サテュロスは、抱く気が起きないような貧相な子供の奴隷ばかりを買ってくるようになった訳だ。ベルンのアホ、節操なし。お前のせいで、俺達のお楽しみまでも奪われたんだぞ。お前が責任を取れと言いたくなる。

 ブラウがベルンを睨んだ時、ガチッと足元で音がした。


「ん?」


ブラウが足元を見ると床が体重によって下に押し込まれていた。


「まずっ!?」


そう叫んだ瞬間足元に魔法陣が展開され、オルトロスの爪の全員が、今居たエリアから一瞬にして姿を消した。

 最後に聞こえたのは、クソッ、転移罠かよ!!というブラウの囁きだった。


 この日、オルトロスの爪というパーティーは、炎魔の住処というダンジョンで姿を消した。その後、彼らの行方を知る者は、ついぞ現れなかったという。



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 私は狼人族のテュカです。自分の迂闊さを恥じ入るばかりです。パーティーリーダーのベルン様にお褒めの言葉をいただき、警戒が疎かになってしまい、その責任を取らされ、一人魔物の群れを惹きつける役回りを仰せつかりました。現在、炎魔の住処というダンジョンの深層にて、猛省中です。

 しかし、私の反省はもう無意味かもしれません。すぐ近くまで魔物の気配が迫ってきているからです。最早逃げる体力さえなくなり、その場で座り込んでしまった私は、後数秒後には魔物達に食い殺されてしまうでしょう。その瞬間が刻一刻と近付いています。もうすでに視界は涙が溢れて不鮮明になっています。最後に思い出されるのは、やはり父と母と過ごしたあの家の事でした。強く逞しく誇り高い父と私に甘く優しかった母、二人の笑顔。それを思い出すだけで涙が止まりません。二人の子に生まれて本当に良かったと思います。お父さん、お母さん、どうか親不孝者の私を、そして先立つ不幸をお許しください。大好きだった二人に祈りを捧げ終わった私は、目を瞑り、どうかどうかこのまま魔物達が通り過ぎてくれますようにと、静かに神さまにお祈りました。

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