第3話 序 初めての探索

私がサテュロス様のパーティーに加入した次の日から、首都ティガリオンの近くにあるダンジョン、炎魔の住処への探索が始まりました。私は気配感知を発動させながらパーティーの先頭でドンドン進んでいきます。


「あ、こちらに魔物の気配があります」


「おっしゃ、テュカ、ナイス。金の匂いがする、行くぞ、ブラウ!」


「おう!」


ブラウ様が私が感知した魔物、火鼠の方へと走っていき気を引きます。ニード様がバフデバフを掛けると魔物の動きが急に悪くなり、ベルン様の動きが良くなりました。ブラウ様が火鼠の攻撃を盾でそらすとベルン様が高速で火鼠を切り付けます。そこにサテュロス様の水魔法が突き刺さり、火鼠はあっという間に倒されました。


「お疲れ様です。火鼠があっという間に、皆様、凄くお強いのですね」


私がそう感想を述べるとベルン様は、


「まぁ、火鼠ぐらいで梃子摺ってるようじゃ、このダンジョンの深層には行けねぇからな、ガハハハ」


と笑いながら余裕の表情を見せて下さいました。このダンジョンは、経験値効率というものが良いそうで、深層に近づく程に肉体レベルが上がるそうなんです。何でも魔物の生体エネルギーを吸収するとか何とかおっしゃってましたね。狼人の私にはよく分かりませんが。つまりは魔物を倒せば倒す程、肉体的に強くなるのが早くなるという事だそうです。私も強くなれますでしょうか?


その後も何度か火鼠や火蜘蛛、火トンボ、火トカゲ等を倒しながら、ダンジョンを降りていきました。今のところ、危ういと思うような魔物は居ないので、探索はドンドン進みます。ベルン様によるとこのダンジョンの中層までは、余裕だそうで、深層からは魔物の強さが変わるとの事でした。なので私の役割としましては、深層からは単独で徘徊する魔物を探すように言われています。深層の魔物が複数相手だと流石のオルトロスの爪の皆様も苦戦されるようですので、注意が必要ですね。私も頑張って魔物を探しましょう。


どうやらこの階段を降りるとそこからは深層のようです。その前に休憩をとるために階段手前の広場で携帯食を頂きます。硬めの干し肉との事ですが、私にはそれ程硬く感じませんでした。美味しいです。お肉、ウマウマ〜。


「さてとっ、こっからは気抜くんじゃねぇぞ、テュカ!」


「はい、皆様の足手纏いにならぬよう頑張ります」


ベルン様が私を気に掛けて下さってるようでしたので、私も元気良くお返事をします。


私を先頭にして、ゆっくりと階段を降りていきます。パーティーの先頭なんて、何だかカッコいいですよね、行くぞ、皆ぁ〜なんて、言いたくなりますね。


階段を降りきると雰囲気が一変しました。ピリピリとした緊張感が伝わってきます。強そうな魔物の気配が、そこかしこから感じられます。


「こちらに一匹だけの魔物が居ます」


「よっしゃ、行くぞ!」


ベルン様が気合いを入れるとブラウ様と連れ立って魔物の方に近付いていきます。あれは何という魔物でしょう?


「こいつは火猿だな、パワーはあるが攻撃パターンは単調で御しやすい魔物だ」


ブラウ様が火猿を挑発し、こちらに引き連れてきました。挑発されたのが分かったのか、火猿は目を怒らせてブラウ様に腕を振り下ろしましたが、ブラウ様は上手く盾でいなしました。それでも怒りの鉄拳攻撃が何度か続きましたが、全て盾で防がれ、火猿は肩で息をしています。そこへブラウ様がシールドバッシュを打ち込み、火猿が体制を崩しました。すぐさまベルン様が斬り込み、サテュロス様の魔法も炸裂します。ヘロヘロの死に体になった火猿は、それでも腕をブンブンと振り回します。火猿と言いましても、体長は三メートル程と大きいので、攻撃が当たれば私なんてひとたまりもないでしょう。皆様、ホントにお強いです。


「ケアッ、ケアッ、ケアッ!!」


火猿が大きな声で喚き散らしています。その声を聞いてベルン様は、


「こいつは仲間を呼ぶぞ、テュカ、感知怠るなよ!」


「はい、分かりました」


どうやら今の火猿の咆哮は、仲間を呼んでいたようです。確かに気配感知には少しずつ近付いてくる魔物が数匹引っかかりました。


「ご注意下さい。そちらから魔物が三匹来ています」


「分かった、サクッとこいつ仕留めて一旦引くぞ」


その後、ベルン様やサテュロス様の活躍もあり、火猿はあっという間に倒され、階段の方に一度撤退しました。


「まぁ、火猿が何匹来ようが倒せるだろうが、念には念をだな」


「ホントベルンは慎重派だよな。サテュロスのバインド系があれば、何匹来たとしても一匹ずつ狩ればいいさ」


「馬鹿言うんじゃないよ、魔法だって魔力使うんだから、ホイホイと使えないのよ」


ベルン様とブラウ様の話に、サテュロス様が入って文句を言われてます。魔法を使うにも魔力が必要なのですね、私も使えれば良かったのですが、獣人には魔力がないようなのです。魔力があるのは、人族のみで、それも獣人族への差別を助長しているようでした。獣人族が持つのは技力のみで、魔力がないのは常識のようでした。ちなみに私以外は皆様人族なので、魔力をお持ちです。ですが、ベルン様とブラウ様は技力の方が多いそうで、技力を使ってスキルを発動させるタイプの方は技力が育ちやすいそうです。私も技力が増えると良いなぁと思いました。


その後も何度か単体の魔物をブラウ様が挑発してきて、こちらに呼び込み、パーティーで連携して倒すという事を何度か繰り返しました。これを釣り狩りと呼ぶそうで、安全に魔物を狩るやり方だそうです。私が皆様のお役に立てているそうで、私も何だか嬉しいです。

それとは別にもう一つ嬉しい事がありました。釣り狩りを何度か経験しましたら、身体の奥からドバ〜っと力が溢れてくる瞬間がありました。サテュロス様にお伺いすると、それは肉体レベルが上がったんだという事でした。私は戦っていないのに肉体レベルが上がるなんて、何だか申し訳なく思います。

皆様のレベルが一通り上がったところで、中層の大部屋まで戻り、そこで仮眠をとるとの事でした。見張りは交代で行い、私の番は最後だそうです。ちゃんと起きられるかな?

皆様、お先に失礼致します。お休みなさいませ。

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