第3話 入学式

 4月5日、とうとうこの日が来てしまった、俺の高校生活に平穏な日常は望めそうにない、ただ無事にやり過ごしたい。

  俺はあらたと家を出る、母の見送り付きだ、高校まで歩いて20分、足取りは重い。

 新が俺の様子を見て

   「元気がないなー、さては緊張して寝れなかったな。」

原因の片割れが言う、俺は

   「そんなことはないよ。」

適当に返すと、瀧脇たきわき高校の校門が見えてくる。

 校門には教師の他、見知った顔がいる。

 若宮静香わかみやしずか相馬克樹そうまかつきである、克樹は扱いに不満そうである、拉致らちされてきたのだろう。

 静香が近寄って来る

   「たまる、おはよう、今日から一緒に頑張がんばろうね。」

   「おはよう、克樹も一緒?」

   「相馬君、昔、新さんと会ったことあるって言うから連れてきたの、見逃さな

    いように」

いやいや、それ違うでしょ、俺があっても今の新を分からなかったのだから、克樹に見分けることできるわけないでしょ

俺が心の中でツッコミを入れていると一緒にいる新は

   「こちらが静香さんでいいのね。」

と確認する、静香が応じる

   「あなたがそうなのね。」

二人はにらみあう校門の前で、俺はそぉっとその場を離れようとするが、二人に左腕をがっしりつかまれている、逃げられない。

 克樹を見ると両手を合わせるとそそくさと門の中に入って行く、俺がどうするか悩んでいると教師が

   「君たち何している、早く中に入りなさい。」

と注意する、おかげで無事に門の中に入ることができた。

 俺の右側に新、左側に静香が並んで歩く、そして校舎の入り口前にクラス分けの表が張り出されている。

 俺は、都合の悪い時にしか祈らない神様に願った、3人ばらばらのクラスになりますようにと必死に

そんな俺に神様は冷たかった3人同じクラスだった、新は俺の右腕に抱き着いて喜び、静香は俺の左腕に抱き着いて喜ぶ。

 両腕から女子の胸が当たるやわらかい感触が伝わってくるが、俺には楽しむ余裕は全く無かった。

 そこへ、克樹がやって来て同じクラスであることを告げる、俺にとっての唯一の救いだった。

 4人揃って1年1組になった、4人でクラスへ行くと席順は決められており、幸い、静香、新共に隣同士になることはなかった。

 新は、直ぐ教室を出て行った、克樹が話しかける

   「合格発表の日に見たきれいな女の子、新だったんだ、昔と全く違うから分か

    らないよな。」

   「俺も家に来た時、あんな美人さん見たことなかったんで、どちらさんで?

    て聞いて母親に殴られたよ。」

突然、静香が会話に割り込む

   「新さん、美人で良かったわね。」

俺は凍り付き、克樹は自分の席へ戻っていく

   「再開した時、顔が分からなかったという話をしていただけだよ。」

言い訳をすると

   「私なんかより、美人の方がいいんじゃないの?」

と追及してくる、俺も男だから美人に惹かれるのは仕方ないが今は何とか逃れたい

   「君の方が可愛いよ。」

はぐらかして答えるが、静香の目は獲物えものを狙う猛獣もうじゅうの目をしている。

 すると突然、背後から両腕をまわされ素中にボリュームのあるやわらかい胸の感触がする。

 さらに甘酸っぱい良い香りがしてくる、俺は新だと直ぐに分かった。

   「お・ま・た・せ」

と新は言う。

 静香は驚いたように目を見開き、標的を俺から新に変更する

   「あんた、何しているのよ。」

語気荒く新に言う

   「再開のハグよ。」

新が答えると静香は怒る

   「ここは教室よ、さっさと離れなさい。」

俺は静香と新に挟まれ逃げ出せない、新が放してくれないからだある、せめて胸の感触を味あおうとする。

 そこへ克樹が助けに来た。

   「入学式が始まるから廊下に整列せいれつだ。」

と言って俺を助け出してくれる、俺に親友の有難ありがたさが身にみる。

 俺は入学式だけは無事に過ごせると思いリラックスする、しかし、神様は俺に七難しちなんを与えたいらしい、それはやってきた

   「入学生宣誓せんせい!1年生総代 間瀬新ませあらた

   「はい!」

新が席を立ち、壇上だんじょうに立つ。

 俺はえっと思った、宣誓は入学試験1番の者がすると聞いていた。

 会場内は美人の登場に男子生徒たちがざわめく、斜め後方では静香が

   「なんであの子が」

怨嗟えんさの声を発するのが聞える。

 しかし、新がりんとした声で宣誓を始めると静けさを取り戻す。

 これで、新は校内の有名人である、俺の高校生活のハードルが上がった気がする。

 入学式を終え、教室に戻ると新は女子生徒に囲まれている。

 教室の廊下には、新を見ようと他のクラスの男子が集まっている。

 廊下が静かになり、担任が教室に入って来る、そして、一人ずつ自己紹介することになる。

 俺は無難ぶなんに自己紹介を終えたつもりでいる、新の番が回って来る

   「間瀬新です、そこにいる間瀬たまる君とは将来を誓い合った仲です。」

えっ、いきなり爆弾発言かーーー、担任、クラスメートの視線が痛い

担任は、咳払せきばらいをすると

   「次」

と言った、とりあえず無視することにしたようだ。

 俺はもう一つ地雷が埋まっているのを知っている、静香は新を睨みつけている。

 そして静香の番が回って来る

   「若宮静香です。そこにいる間瀬たまる君の彼女です。」

やっぱり爆弾発言がきた、担任、クラスメートの視線が険しくなっている、特に担任の表情は厳しいものになっている、見逃してはくれないだろう。

自己紹介が終わると担任の橋本先生は

   「間瀬たまる、間瀬新、若宮静香は私と一緒に来なさい。」

と言って、教室を出て行く、俺たち3人が担任について行くと、そこは生徒指導室だった。

 橋本先生は言う

   「君たちふざけているのか、どういうことか説明しなさい。」

新と静香が同時に話始める

   「本当のことを言っただけです。」

   「いいえ、この女はうそを言ってます。私が彼女です。」 

   「この子は後からシャシャリでてきただけです。2号さんです。」

   「2号ってなによー、昔の約束でしょ無効よー」

橋本先生は二人を止める

   「やめなさい、私が質問する。」

   「たまる、新君と将来を誓っているのか。」

   「はい、ずっと一緒にいると約束しました。」

   「じゃぁ、静香君が彼女と言うのは本当か。」

   「はい、本当です、付き合っています。」

担任は頭をかかえる、きっと厄介やっかいなものにかかわったと思っているのだろう。

 新が発言する

   「先生、私は、たまる君の両親に認めてもらっています、本当に付き合ってい

    るのは私です。」

静香が噛みつく

   「あんた、たまる君の親に取り入っているの、ずーずーしい。」

   「もういい、とにかく君たちは問題を起こすな!」

橋本先生は問題を放置することにしたらしい。

 俺たち3人が教室に戻るとクラスメートに囲まれる。

 特に男子たちは俺に厳しく追及する

 俺は仕方なく大雑把おおざっぱな説明をする

   新とは、昔の子供の頃ずっと一緒にいると約束をした

   静香は中3の時、告白して付き合っている

と男子たちは二股かとうらやましがる、女子からは何か汚い物でも見るような目で見られた。

 初日からこれでは俺の高校生活はずっと荒波にもまれていきそうである。

 そして、今日は授業がないので午前中で終わりである、随分と長く感じたのだが…

俺と新は帰宅の途につく、なぜが静香がついて来る、俺は尋ねる

   「静香の家こっちじゃないだろ。」

   「たまるの家に寄ろうと思って。」

なっ、俺は叫びそうになった、新は

   「家にあなたの居場所はないわよ。」

辛辣しんらつに言う

   「お母様に挨拶するだけよ。」

静香は平然と言う、俺は嘆いた、中3の頃の奥ゆかしい静香さんはどこ行ったんだーーー

家に帰ると母が出迎える、そして静香に気づき

   「このかわいい子は誰?」

と言うと、静香は前に進み出て

   「初めまして、私、若宮静香と言います、たまる君とお付き合いをしていま

    す、よろしくお願いします。」

   「うわさの彼女さんだね、これからも息子をお願いします。」

母は嬉しそうに答えた。

 挨拶を済ませると静香は帰って行く。

 新は黙っていたが、顔がむくれていた。






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