06
放たれた黒い炎をルカは杖で弾き返した。
「あいつの攻撃は僕とロイドで何とかする。フレッドはただ心臓を狙え」
「防御の術は幾つかかけたが相手の力量が不明だ。即死はするなよ」
「———ああ」
ロイドとルカの言葉に応えると、フレデリックは聖剣を抜き、マリアを振り返った。
「マリア、君の力を」
『聖なる光よ、闇を照らし魔を浄め給え!』
マリアの言葉に反応するように剣から強く白い光が放たれた。
「始まったな」
宮殿の図書室で本を選んでいたリリーは、フランツの声に顔を上げた。
「え?」
「魔王に接触した」
「…分かるの?」
「ルカに持たせた杖に私の魔力を込めておいた。強力な邪気に触れたのを感じる」
「…大丈夫…よね…?」
「マリアは〝ゲーム〟の経験者だし、魔王の倒し方も分かっている。そう心配しなくとも良い」
「———どうか無事で……」
リリーはぎゅっと自分の手を握りしめた。
先よりも大きな黒い炎が放たれた。
すかさずルカが杖を振るうとさらに大きな炎が上がり、黒い炎を飲み込んだ。
重ねて炎を放つと塊となった火の玉が魔王へ襲いかかる。
だが魔王の目の前で何かに当たったように火の玉は消散した。
「結界か」
ロイドの杖が光を帯びた。
溢れ出した光が幾つもの玉となり、魔王へと向かって行く。
だが先程と同じ場所で光の玉は弾け飛んだ。
そこへルカが光の矢を打ち込むが、同じように弾き返されてしまった。
「そんな魔法では破れぬぞ」
魔王は嘲笑うと再び手を振り上げた。
「くそっ」
「あの結界が解ければ…」
黒い炎を防ぎながらルカが呻いた。
「私がっ!」
マリアが叫んだ。
『聖なる力よ!穢れし障壁を祓い給え!』
白い光が魔王の周囲を丸く覆うと、まるで氷のように破片となって剥がれ落ちていった。
ルカが杖を高く掲げた。
「雷撃!」
杖の頭に嵌め込まれた黒い石が輝くと、激しい光と共に稲妻が放たれた。
結界を失い雷の直撃を受けた魔王の身体がグラリと揺れる。
「今だ!」
隙を突いてフレデリックが魔王へと飛び込んだ。
聖剣が魔王の心臓を貫いた。
地響きのような咆哮と共に魔王の身体が白く光る。
光が消えるとやがて魔王は仰向けに倒れ落ちた。
「…これで終わったのか…?」
聖剣を引き抜くとフレデリックは倒れた魔王を見下ろした。
見開いたままの眼からは赤色が失せていた。
「…っ離れろフレッド!」
ルカの叫びにフレデリックが飛び退くと、人型に似た黒い影が倒れた男の身体からゆらり、と立ち昇った。
「これは!」
「あの時見た影か…!?」
「そんな…」
『…弱イ人間ノ身体ハ使エヌナ』
影の中から現れた、2つの赤い目が光った。
『ダガ人間ノ身体ナド使ワズトモ…アノチカラサエ手二入レレバ我ハ———』
宙に黒い魔方陣が浮かび上がった。
「っ!」
突然全身を駆け巡った寒気にリリーは息を飲んだ。
「なに……」
「リリー?」
異変に気付いたフランツがリリーの肩に触れると次の瞬間、リリーの足元に黒い魔方陣が現れた。
「リ…」
フランツがリリーを引き寄せようとしたが、そのまま二人は魔方陣に吸い込まれていった。
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