07
黒い魔方陣の中から二人の人影が飛び出してきた。
「リリー?! フランツ!」
リリーを抱いて床に着地すると、フランツは周囲を見渡した。
「ここは…魔王城か?」
「…ルカ!」
駆け寄ったルカにリリーは飛びついた。
「無事なの?怪我は———」
『紫ノ姫ヨ』
響いた声にハッとして顔を上げたリリーを背中に隠すように、ルカは影との間に立ち塞がった。
『オ前ノチカラヲ取リ込メバ…実体ヲ持タズトモ、我ハ真ノチカラヲ発揮デキル』
リリーへと覆いかぶさるように黒い影が広がった。
「させるか!」
フランツが叫ぶと同時に青い光の柱が立ち上り、影を跳ね返した。
『…ホウ、実ニ上等ナ魔力ダ。オ前ヲ依代ニスレバ良カッタカ』
影は愉快げに声を上げた。
「フランツ様…っ」
思わずリリーはフランツの腕を掴んだ。
「…ルカ、状況は」
「———依代は倒した。だが本体まで封じきれなかった」
「封印しきれなかった?」
フランツは眉を顰めた。
「———もしかしたら…」
マリアが口を開いた。
『〝好感度〟が低いから…力が足りなかったのかも……』
フランツとリリーを見て、日本語でマリアは言った。
「あ…」
「———そういう事か…?」
フランツとリリーは顔を見合わせた。
ゲーム内での戦闘能力は攻略対象の好感度に左右され、特にフレデリックの好感度が高くなければ魔王を封じる事が出来なかった。
しかしマリアとフレデリックの間には恋愛感情といったものはなく———そのせいで魔王を封じるだけの力がないというのだろうか。
そして今、フレデリックが好意を寄せているのは———
『紫ノ姫!』
影の声と共に激しい冷気が吹き抜けた。
立っていられないほどの吹雪が荒れ狂う。
「ぐっ…」
「きゃああ!」
耐えきれずに飛ばされかけたリリーの身体を誰かが抱きとめた。
「…フレッド」
「大丈夫?リリー」
フレデリックは腕の中のリリーを覗き込んだ。
「ルカ、杖を渡せ!」
杖を受け取るとフランツはそれを床に突き立てた。
杖を中心に波紋のように青い光が広がる。
まるで青い炎が燃え上がるように部屋全体に光が立ち昇ると吹き荒れていた風がふいに止まった。
『オノレ…』
「リリー!君の力を彼に!」
フランツの声にリリーは頷くと、フレデリックを見上げた。
『我がマナよ———』
掌が熱くなるのを感じると、リリーはそっとフレデリックの胸に手を当てた。
『我が力、王子フレデリックに授けん———』
掌から紫の光が強くあふれると、フレデリックの身体へと吸い込まれるように消えていった。
「これは…これがリリーの…」
フレデリックは信じられないといった表情でリリーを見た。
「フレッド、魔王を…」
リリーの言葉に頷くと、フレデリックは———やや名残惜しげに身体を離した。
聖剣を構えると影を見据える。
「マリア!もう一度君の力を」
『聖なる光よ、闇を照らし魔を浄め給え!』
先刻よりも強い光が聖剣を包み込んだ。
フレデリックは影にむかって走り出した。
『人間メ!』
影が黒く燃え上がるとフレデリックへ襲いかかったが、躊躇わず炎の玉を薙ぎ払う。
剣が触れた部分が白く凍った。
『ガ…』
白い氷がみるみる広がっていく。
フレデリックは再び剣を振ると更に炎を斬りつけた。
ガシャリと音を立てて氷の塊が落ちた。
「これは…?」
氷の塊の中に、赤い光らしきものがあるのが見えた。
「その赤いものが魔王の魂です。それを聖剣で刺していただけますか」
氷の塊に聖剣を突き立てると、近付いたマリアが剣の柄に手を添えた。
『———邪悪なる魂に永き眠りを与え給え』
言葉と共に聖剣が白く光る。
光は流れ落ちるように剣先へと集まり———
一際大きな光が塊を包み込んだ。
光の消えた後にはただ小さな黒い石があるばかりだった。
「———これで魔王の魂は封印されました…」
ほう…とマリアは大きく息を吐いた。
「これで本当に終わったのか…」
「良かった……」
「マリア!」
その場にへたり込んだマリアにリリーは抱きついた。
「良かった———良かった…」
「———リリーさまぁ…」
リリーを抱きしめ返すマリアの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
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