05

「この先は二手に分かれています」

先鋒の騎士隊長が振り返った。


不気味な赤い光で照らされた長い通路は、突き当たりで左右へと伸びていた。


「どちらもその先は罠だわ」

マリアの声に一同は振り返った。


「正解はここに…」

マリアは正面の壁にある小さな赤い石に手を触れた。

指先が白く光ると、ゴトリ、と重い音がして壁が動いた。


「隠し扉…?」

「———魔王のいる玉座の間へ辿りつけるのはこの道だけです」

現れた通路を指してマリアは告げた。



「マリアは玉座の場所まで分かるのか?」


城に入ってからここまで幾つもの分岐点があった。

その度にマリアが道を示し、一行は無駄に彷徨う事もなく進んでいた。


「…はい……見えるんです」

———本当はゲームで何度も挑戦したからだけど。

そんな事を言えるはずもなく、ロイドの問いにマリアはそう答えた。


あのゲームの魔王との戦いはクリアするのが難しく、何度も迷路のような道を抜け魔王のいる玉座へ通わなければならなかったから、すっかりルートを覚えてしまったのだ。

…まさかそれがここで役立つとは。




通路を抜けた先には、大きく開けた広間があった。

高い柱に彫り込まれた装飾、フレスコ画が描かれた天井から下がる大きなシャンデリア…そのどれもが豪華ではあったが意匠は禍々しく、不安を煽るものであった。


「ここは…」

「———大広間です。玉座の間はあの正面の扉の向こうに」


「しかし、いやに静かだな」

見渡してフレデリックが言った。

静まり返った大広間には、人間達以外の気配がなかった。


「いや…杖が反応してる」

ルカが口を開いた。

「…いる」


ふいに黒い床が歪んだように見えた。

歪みとみえたそれはいくつもの影で———湧き上がるように獣へと形を成した。


「出たぞ!」

「くっ…多い!」

魔物が一斉に襲いかかってきた。

剣や魔法で応戦するが、次から次へと魔物は湧き上がってきた。


「これではキリがないっ」

「ここは我らが!」

「殿下達は先へ———」


「…分かった」

騎士達の声にフレデリックは頷いた。

「ロイド結界!ルカ、マリア!走れ!」


ロイドが杖を振ると銀色の光が四人を包み込んだ。

広間を駆け抜け、奥にある扉へ手をかける。


重い音を響かせて扉がゆっくりと開いた。






黒い石で作られた玉座に、黒い服を纏った男が座っていた。


「———エリック・バーナードだな」


「その名は捨てた」

フレデリックの問いに口端を吊り上げ、傲慢な態度で男は答え、立ち上がった。


「私は魔王の力を手に入れた。兄であろうと王族であろうと私を止められぬ」

玉座から見下ろす眼は赤く染まり、その面貌は人間らしさが失せていた。



「果てるがいい、人間ども———」

上げた男の指先に黒い炎が上がった。

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