05
「王子様は大変だな」
ダンスの熱気に包まれるホールを見渡せる中二階のラウンジへと、群がる女生徒達からようやく逃れてきたフレデリックを見てロイドが言った。
「…まあ、仕方がない。これも役目だ」
飲み物を受け取りながらフレデリックは答えた。
ダンスパーティーにはほぼ全生徒が参加する。
普段顔を合わせる機会の少ない王子に少しでも近付きになろうと、上級生を含む多くの女生徒が集まってくるのを適度に相手をし、ダンスをこなすフレデリックの顔には、しかし疲労の色は見えなかった。
「ロイドは踊らないのか?」
「面倒くさい。興味ない。———女子の目つきが怖い」
「ああ…それはあるな」
同意するようにルカは苦笑して頷いた。
フレデリックだけでなく、見た目も家柄も良い彼らもまた格好のターゲットだった。
…いくら美しく着飾っても、獲物を狙うような目でギラついていたら逆効果だろうに。
「ルカだって踊ってないだろう」
「最初に一曲踊ったよ、パートナーの子と」
「パートナーとしか踊らないというのも、誤解されるんじゃないのか?」
「そうかな。まあ別にいいけど」
「…まさかお前」
「マリアはリリーに頼まれたからエスコートしただけだよ」
興味なさそうな表情でルカは答えた。
「ルカ。———リリーは今日、あの留学生にエスコートされて来たのだろう」
フレデリックの視線の先には、談笑するリリーとフランツの姿があった。
「そうだよ」
「どういう事だ」
「どうって、そういう事だよ」
振り返ったフレデリックとロイドを交互に見てルカは答えた。
「父上も公認だ」
「エバンズ侯爵も?」
「……ルカは?」
「リリーが望んでいるし、僕が反対する理由もない」
「———へえ、意外だな」
「何が?」
ルカはロイドを見た。
「ルカは反対しないんだ」
「リリーの為になる事なら反対はしないよ」
「あの留学生とくっつく事がリリーの為になるのか?」
「ああ、そうだよ」
ルカは視線をリリーのいる方へと移した。
「———リリーがシュヴァルツ帝国に行ってもいいのか?」
「いいよ」
僕も一緒に行くだろうし、と心の中で続ける。
ヴィオレットの血統が続いていた事は、未だフランツ以外には皇帝陛下しか知らない事だった。
今後リリーが『紫の姫』である事を明らかにするならば、彼女を護る為にも後ろ盾として、ルカを家長にヴィオレット家を再興させる必要があるという。
ルカとしてはリリーを近くで護れるならばヴィオレットの名を名乗る事に——それはエバンズの名を捨てて帝国の皇子となる事にもなるのだが——異存はない。
「———それがリリーの幸せになるならね」
自分はただ、それだけを望むのだから。
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