04
「素敵だわマリア。良く似合っているわ」
「ありがとうございます…」
裾が大きく広がった若草色のドレスに身を包んだマリアは恥ずかしそうにはにかんだ。
編み込んだ前髪をバラの花飾りで止めた姿は清楚で愛らしい。
夏の休暇に入る前、学園ではダンスパーティーが開かれる。
社交界デビュー前後の生徒が多く、その予行練習を兼ねるためドレスコードも正式の舞踏会に近いものになっている。
貴族と違ってドレスを持つ必要も、作る余裕もないマリアに、リリーのドレスを貸す事にしたのだ。
「リリー様もとても素敵です!」
「ふふ、ありがとう」
リリーは青のドレスを纏っていた。
長いプラチナブロンドは結い上げられ、白い項と背中が広く露わになったその姿からは大人の色香が漂っていた。
「ところでダンスパーティーといえば、『イベント』の宝庫よね!」
「リリー様…ですからそういうのは」
リリーが目を輝かせるのをみて、マリアはため息をついた。
マリア自身はもうこの世界がゲームの世界であるとは思っていないのだが、どうもリリーは違うらしい。
……ダンスパーティーのイベントではリリーがマリアに嫌がらせする場面もあったのだけれど。
それも再現したいのだろうか。
———小百合さんは結構ミーハーだなあ。
今度は心の中でため息をついた。
「私は端っこでこっそり過ごします…」
「あら、でも少なくともルカとは踊るでしょう?今日のパートナーなのだから」
今日のダンスパーティーではフランツがリリーのエスコートを務める。
そのため、社交の場に慣れないマリアのエスコートをルカに頼んでいた。
「…じゃあ一曲だけ…」
「他にもダンスに誘われたら踊るでしょう?攻略対象じゃなくても、誰か気になる人はいないの?」
「いません」
「せっかく可愛いのに。勿体ないわ」
「私はいいんです!」
二人で応酬を続けていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「リリー。準備できた?入ってもいい?」
部屋の外からルカが声をかけた。
「———へえ、二人とも綺麗だね」
扉を開き、中を覗いたルカは一瞬目を見開いた。
「フランツが来たよ。客間にいる」
「ありがとう。…それじゃあルカ。マリアのエスコートよろしくね」
「ああ」
「あの、ルカ様…。今日はありがとうございます」
リリーが出て行くのを見送るルカに、マリアは頭を下げた。
「私なんかをエスコートしていただいて…ご迷惑をおかけします」
「迷惑じゃないよ。パートナーを探す手間も省けたしね。君の方こそ、リリーに振り回されいるみたいだけど。迷惑かけてない?」
「め、迷惑だなんてそんな!リリー様には親しくしていただいて、とても有り難いです」
入学したての頃、平民というだけでマリアは細かな嫌がらせをよく受けていた。
だがリリーと一緒にいるようになってから、少なくとも直接的な被害を受ける事はなくなった。
「そう、なら良かった」
ルカはマリアに笑顔を向けた。
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