05

どれくらいの間抱きしめられていたのだろう。


「私を…憎んでいるか?」

リリーの体を解放すると、フランツは口を開いた。


「憎む…?」

「私は小百合を殺した」

顔を上げたリリーと視線を合わせて、苦しげに唇を歪ませる。



「……いいえ…あれは…お兄ちゃんだけが悪いんじゃないわ」

リリーは緩く首を振った。


「私は———怖かったの。私も…お兄ちゃんの事を好きになっていたから」

視線を逸らさずそう告げると、目の前の瞳が大きく見開かれた。


「でも、好きな気持ちよりも……好きになっちゃいけないと思う気持ちの方が強くて。兄妹なのに。お父さんやお母さんが悲しむと思って…」


だから拒む事しかできなかった。

樹の気持ちにも、自分の心にも気づかないように、目を逸らし続けて。



———私も、好きだったんだよ。


最期の瞬間小百合はそう告げたかった。




「…そうか」


長い沈黙の後。そう呟くと、フランツはリリーの頬に手を添えた。


「それで、今は?」

「え?」

「〝リリー〟は私の事が好きか?」


ふいに自分がさっき言ったのは告白の言葉だった事に気付き、リリーの顔に一気に血が上った。



「す、好きって……この姿で会ったのは初めてで…」

「私はずっとリリーに会いたいと思っていた」

目の前の熱い視線に、耳の先まで熱がこもるのを感じながら、リリーは肝心な事を思い出した。


「あ、あの!そう、お兄ちゃんの名前…フランツ様…?」


「ああ」

「シュヴァルツの皇太子殿下?隠れキャラの…」

「隠れキャラ?———ああ、そういえばそうだったな」

「この世界…昔一緒に遊んだゲームと似てるけど、違う所も多くて…どうしてか分からなくて…」


リリーが言いたい事を読むように、フランツは思考を巡らせた。


「そうだな———あのゲームは、未来の予想の内の一つなんだろう」

「未来の予想?」

「ゲームでは決められた選択肢の中からしか選べないが、今は別の道を選ぶ事ができるし結果、未来も変わる。現に私もリリーを妃に迎える為に色々やってきたからな」


「妃?!」

「———今度こそ、君を手に入れる事が私の望みだ」

手に力を込め、身体を引き寄せるとリリーの顔を間近に覗き込む。


「今度は逃げないで」

「…フランツ様———」



「また明日…おやすみ、リリー」

軽く触れるだけの口づけをして。


闇に溶けるようにフランツの姿は消えた。

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