第二章 黒の帝国
01
「うーん…やっぱり気になるわ…」
ベッドの上で枕を抱え込みながらリリーは呻くように呟いた。
明日から学園生活が始まる。
前世でも経験した新しい環境への不安と期待はあるが、それ以上にリリーを悩ませる事がある。
学園は、あのゲームの舞台でもあるのだ。
いくら現実の人間関係はゲームの世界とは異なっているとはいえ、全く無関係ともいえない気がする。
ただヒロインが誰かと恋愛するだけならいいけれど、万が一その先のストーリーまであったなら…。
大きく息を吐くとリリーは改めてゲームのストーリーを思い出した。
ゲームの舞台は王立ローズ学園。
貴族の子女の為に作られた学園だが、特に才能を認められた一部の平民も入学を認められる。
学問に優れた特待生として、平民であるヒロイン・マリアが入学する所からゲームは始まる。
メインヒーローは第二王子のフレデリック。
平民だからと嫌がらせに遭うマリアを助ける内に、彼女に惹かれるようになる。
学園で出会う他の攻略対象は、ルカとロイドの二人。
フレデリックとの好感度がある程度上がり、招かれた王宮で出会うのが「騎士団副隊長イーサン・ブラウン」。
実際のイーサンとの面識はないが、フレッド達の話を聞く限りではゲームと同様、頼れるお兄さんタイプらしい。
ちなみにゲーム内でのリリーは婚約者としてフレデリックとの、姉としてルカとの間を裂こうとする悪役だ。
———実際のところ、ヒロインが誰とくっついてもリリーは構わないのだけれど。
問題は「隠しキャラ」とそれに続くルートだ。
ゲームでプレイするのは入学してからの一年間。
いくつものイベントをこなしながら攻略対象からの好感度を上げ、終業式の日にMAXになった相手からの告白を受け、結ばれればゲームクリア。
けれど四人全員の好感度をある程度上げながら、誰とも結ばれないルートを選ぶと二年目が始まり、隠しキャラが登場し———
それまでの甘い女性向けの恋愛ゲームから雰囲気も内容も一転してしまうのだ。
隠しキャラは隣国シュヴァルツ帝国からの留学生、フランツ・クライン侯爵子息。
けれどそれは偽名で、正体は帝国の皇太子。
シュヴァルツ帝国は大国ながら血生臭い噂が多く、フランツも帝位争いから身を守る為に身分を偽り、ローズランド王国へとやってくる。
上手く彼との好感度を上げられればフランツは帝位継承権を放棄してヒロインと共に生きる道を選ぶ。
だがゲームプレーヤー達から人気があったのはもう一つの———RPGモードと呼ばれるルートだった。
皇帝の座を狙うフランツは、古に封印された魔王の封を解き、自らがその依代となるよう契約してしまう。
それと共にマリアは聖女の力に目覚め、他の攻略対象者達と共に再び魔王を封印する戦いへと旅立つのだ。
この魔王との戦いのパートは同じゲーム制作会社の人気RPGゲームのスタッフが参加しているらしく、とても難しい。
それまでのイベントで手に入るアイテムが装備として重要だったり、攻略者達の戦闘力はマリアが聖女として目覚めるまでの好感度の高さに比例するなど、伏線がいくつも張られている。
その難易度やストーリーの緻密さから、隠れたRPGの名作とまで謳われていた。
RPGで遊んだ経験のない小百合は、兄の力を借りてようやくクリアできたのだ。
「あれはゲームだったから楽しめたけど———魔王復活は困るわ…」
ゲームの中では何度でもリセット出来るけれど、現実で魔王の封印に失敗したら……その結果は恐ろし過ぎる。
それにルカやフレッド達が魔王との戦いに行くなど———考えたくもない。
「———まずは明日。ヒロインがいるか確かめよう」
隠しキャラが登場するのは一年後。まだ時間がある。
そう思い直してリリーは枕元の灯りを消した。
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