07
リリーがフレデリックの婚約者に選ばれる事もなく———他の令嬢が決まる事もなく、時は過ぎ、十四歳の秋を迎えていた。
リリーの視線の先、王宮内に作られた訓練場の中央では二人の青年———フレデリックとルカが剣を構えていた。
先に動いたのはフレデリックだった。
飛び込むように打ち込まれる剣を払い、相手から距離を取るように下がったルカが握りしめた左手が光る。
広げられた掌から放たれた光の玉が襲いかかるのを剣で薙ぎ払うと、フレデリックはすかさずルカへ剣を振るう。
しばらく剣と光を交えた攻防が続いていたが、一瞬の隙を突いたフレデリックがルカの腕に切りつけた。
「———っ!」
吹き上がった真っ赤な血飛沫にリリーは声にならない悲鳴を上げた。
「大丈夫。すぐ治すから」
リリーの隣で見ていたロイドがそう言うと訓練場に向かって歩き出した。
膝をついたルカの腕を取り、口の中で何か呟くと、傷口が淡い色の光に包まれた。
「ルカ!」
リリーはルカの側まで駆け寄った。
「だ、大丈夫なの…?痛みは…?」
「平気だよ、ロイドの回復魔法はすぐ効くからね」
ルカは笑顔でそう返したが、魔法でも消せない、切り裂かれ血で染まった服を見てリリーの顔がざっと青ざめた。
「リリー…大丈夫?」
フレデリックはリリーの顔を見て、困ったように眉を寄せた。
「ごめんね、怖かった?」
「う、ううん。驚いたけど…見たいって言ったのは私だし…」
この世界には魔法がある。
使えるのは限られた人間のみだが、前世での記憶を思い出した後にゲーム内でのリリーも魔法を使っていた事を———それは主にヒロインに嫌がらせをする為のものだったけれど———思い出し、期待したのだが。
現実のリリーは全く魔法が使えなかった。
双子のルカはかなり魔力が強く、攻撃能力も高いというのに。
せめてこの目で魔法が使われるのを見たくて訓練を見学させてくれるよう頼み込んだのだ。
「リリーには血の刺激は強すぎたな。次は魔法だけでやってみようか」
フレデリックとルカを見てロイドが言った。
「…それは私が不利だろう」
「フレッドはすぐ剣に逃げるだろ。魔法も使えないと」
「…じゃあ魔法縛りで」
立ち上がると、ルカはフレデリックの耳元に口を寄せた。
「ただし火の魔法は禁止」
「…何故?」
「何でも。リリーの前で火は使うな」
他の者には聞こえないように、けれど強い声でそう言って、ルカはフレデリックの肩を叩いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます