05

「エバンズ侯爵子息、ルカ・エバンズと申します」

「リリー・エバンズです」


「ようこそ。噂通りの可愛らしい双子さんね」

見目も声も美しい王妃はそう言って目を細めた。


王宮の奥、国花でもあるバラが覆い尽くすように咲き誇る庭園の一角に今日のお茶席は作られていた。

花の香りと紅茶の香りが混ざり合い、なんともいえない優華な空気に包まれる。


「本当はもっと早くに会いたかったのだけれど、エバンズ侯爵が会わせてくれなくて。きっと愛娘を取られるのが嫌だったのね」

「まあ王妃様…申し訳ございません」

「仕方ないわ、本当に可愛らしいお嬢さんなんですもの」

挨拶もそこそこに始まった王妃と母ライラの話を聞き流しながら、リリーは目の前にいる二人の少年を見やった。



第二王子フレデリック・ フェリックス・ローズランド。

金髪碧眼の、太陽のような眩しさを感じさせるその容貌は、恋愛ゲームのメインヒーローにふさわしい、まさに王子様といえるものだった。


「フレデリックだ」

笑顔で無造作に手を差し出す姿はまだ年相応の少年だけれども。



うーん…一目惚れはないかな。


リリーは心の中で呟いた。

前世の記憶のせいで精神年齢が大人に近いリリーからすると、子供過ぎるように見えてしまうというのもあるけれど。

好みとしてはキラキラした王子様よりも、もっと落ち着きのある…とふいに懐かしい面影が過ぎり、やはり心の中でため息をつく。


あの人はここにはいない、〝小百合〟の———なのに。



「彼は僕の友人、ロイドだ」

フレデリックは隣に立つ少年を示した。

「ロイド・ウィリアムズです」

その名を聞き、思わず動揺したのを悟られないように丁寧に頭を下げて挨拶を返す。


———王子は覚悟していたけれど、まさか今日、もう一人の「攻略対象」と会う事になるなんて。



ロイド・ウィリアムズ 。


父親は神官長で本人も学園入学時にはすでに神官の地位を得ていた。

頭脳明晰で冷淡な性格。テストでヒロインに負けた事がきっかけで言葉を交わすようになり、やがて冷たい態度を取りながらもヒロインの事を気にかけるようになる、いわゆるツンデレタイプ。


今リリーの目の前にいるロイド少年からは、そんな冷たさなど感じられず、ダークブロンドの間から覗く明るい水色の瞳は興味深そうに目の前にいる双子を眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る