04
「王宮でお茶会?」
リリーの熱もすっかり下がり、元気を取り戻してしばらく経った頃。
家族揃っての夕食後のお茶を飲みながら、父親から切り出された話に首を傾げた。
「———第二王子がな。お前達と同じ歳だから仲良くなれるだろうと」
何故かため息をつきながら父ルイスが応える。
「三日後に来るようにと…まったく、せっかく免れたと思ったのに」
「貴方ったら」
不機嫌そうなルイスとは対照的に、母ライラは優美な笑みを浮かべて目を細めた。
「いつかはそういう時が来るのだし、悪いお話ではないでしょう」
「しかしリリーはまだ十歳だ。早すぎる」
「王家が相手なら早くはないわ」
ああ———
暗号のような両親のやり取りに、リリーはゲームの事を思い出した。
「…つまり私は殿下のお妃候補になっているのね」
あのゲームの中で、リリーは王宮でのお茶会で初めて出会った第二王子に一目惚れをし、侯爵家の権威を使い強引に婚約者の地位を手に入れていた。
確かそのお茶会はリリーだけでなく他の貴族令嬢達も出席していた、いわば集団お見合いだったはず。
「お妃!?」
「ち、違う!リリーは妃になどさせない!」
「まあ、さすがリリーは察しがいいのね」
慌てる男性陣を横目で見やり、ライラは楽しそうに微笑む。
「本当は五日ほど前に他のご令嬢と一緒のお茶会に出る予定だったの。でもリリーは熱を出していたでしょう。だからお断りしたのだけれど、身体が良くなったのなら是非来て欲しいと王妃様にお願いされたのよ。今回はあなたとルカの二人で来てねって」
「…その五日前のお茶会でお相手は決まらなかったの?」
「そうねえ。年頃の女の子がいる中ではエバンズ家が一番家格が高いから、あなたに一度も会わず決めるのもおかしいでしょうという事ね」
それはつまり、リリーが候補者として可能性が一番高いという事なのだろうか。
確かに家格を考えればそうなのだろう。
公爵家にはほど良い年齢の令嬢がいなかったはずだし、侯爵家の中ではエバンズ家が一番家の力が強い。
だがそうすると強引に婚約者になったというゲームの設定とはまた異なってくる。
けれども結局ゲームの通りに、王子の婚約者になってしまうのだろうか?
「リリーは…お妃になりたいの?」
考え込んでしまったリリーの耳元で声が聞こえた。
振り向くとルカが真顔で見つめていた。
「んー…分からないわ。殿下がどういう方なのかも知らないし…」
「嫌だったら僕、邪魔するよ」
「えっ?」
「リリーには嫌な思いをして欲しくないんだ」
ルカの強く光る瞳は、それが真剣である事を伝えてくる。
「ルカ…それは…」
「ルカ。気持ちは分かる、よく分かるが喧嘩は止めてくれ。今回のお茶会はお前の顔合わせでもあるんだ」
「僕?」
「ゆくゆくはお前も侯爵として王国を支えていく立場だが、それ以前に同じ歳の友人として殿下と付き合って欲しいというのが王家からの願いなんだ」
「ふーん…。でも僕はリリーが一番大事だよ。もしも殿下が嫌な奴だったら仲良くなんか出来ないからね」
「ルカ…」
迷いのないルカの言葉に、今度は父親と一緒になってリリーもため息をついた。
リリーが火事を見て倒れて以来、ルカのリリーに対する態度がすっかり変わってしまった。
それまではまだやんちゃで幼さの残るルカを、落ち着きのあるリリーの方が姉として見守るような関係だったのが、今では過保護ともいえるくらいにルカがリリーを気遣い、いつも側から離れようとしない。
「まあ、ルカはリリーの
母親だけが楽しそうに笑っていた。
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