第150話 2人の月日
「……えっ?」
「俺は……嫌いだ噂好き、陰口が好き。集団行動大好きで、最終兵器はその涙」
「知ってる様なその口ぶりと、全てを見透かした様なその素振り」
「無駄に明るくて、声が大きくて、人が嫌がる事を平気で行えるその性格」
「誰に対しても隔てなく、優しく接するその姿と……その思わせぶりな態度」
「本当なのか偽物なのか、本心なのか嘘なのか」
「知る術のないその……笑顔」
「あぁ……俺は……俺は……」
「大嫌いだ」
「ツッ、ツッキー?」
「でもさ、その位女の人が嫌いだった俺を、変えてくれたのは……紛れもなく恋。君なんだ」
「えっ……」
そうだろ? 恋。俺の目の前に居る、日城恋はそういう人なんだ。
「そりゃ最初はさ? 入学式の時の出来事のせいで脅されるかも。なんてビクビクしてたし、それ以上に凜にそっくりな顔見るだけで寒気と動悸止まらなかった」
当たり前だろ? 平穏平和な高校生活求めて鳳瞭来たってのに、いきなり遭遇してさ? しかもトラウマの元凶に顔がソックリで、挙げ句の果てにパンツガン見。さらにクラスまで一緒ときたら、もはやお手上げ状態だったよね。
「それに、葉山先輩に連行されてゴシップクラブの部室に入った瞬間の恋の顔。まさに追い討ち状態」
「そっ、そんなひどい顔してないよっ!」
ははっ、どうかな? なにパンツ見て逃げてんのっ! って、詰め寄る気満々だった気がするけど?
「しかも、マリンパークで女性恐怖症治すの手伝ってあげるっ! って言い出して、グイグイ来てさ? 本当俺の学園生活はどうなる事かと思ったよ」
「あっ……ごめん」
まぁ、ぶっ倒れる位豆腐メンタルだった俺が悪いよな。そのおかげで恋に迫られて、恐怖症の事暴露しちゃってさ……でも、あれがなかったら恋はあんな事言わなかったんだよ。
「でも、今なら分かるよ。あの時、恋に女性恐怖症の事言って良かった。恋に手伝ってあげるって言われて良かったって」
「ほっ、本当?」
だってさ? 恋、君は……その言葉通り、俺を引っ張ってくれた。
「俺、結構嫌そうにしてたと思うんだ。でもそんなのお構いなしに引っ張ってくれてさ? 俺がゆっくり歩いてたら、立ち止まって待ってくれて……そして隣で一緒に歩いてくれた」
「やっぱり、馴れ馴れしかった……よね?」
馴れ馴れしい所か、あまりにも最初と態度が違い過ぎて驚いたけどね。あの鋭い眼差しの遠距離攻撃は、超至近距離の直視線! 一撃必殺の毒針単語は、呼吸すら許さない永遠と打ち続けるジャブになっちゃって、一体どうしたんだ? って。 もちろんダメージ的には後者の方があったよ。でもさ?
「そんな恋の行動にさ? 最初は嫌で嫌で仕方なくて、絶対裏あるとかって思って疑ってたんだ? でもさ、いつの間にかそれが当たり前のように感じて……気付いたら隣には恋が居て。普通にごく普通に……笑って話せるようになってた」
そうだよ。嫌だったはずなのにさ? 恋に無理矢理連れられて、取材とか、烏山忍者村とか! その度に、恋はテンション高かった。適当に応える俺に、これでもかって位しつこく、明るくて……気付かない内にさ? そうなってた。
「まぁ、栄人とか早瀬さんとか仲良い友達が居たからってのも大きいのかもしれない」
うん。目立たないって目標を早々に打ち砕いたのは奴だったな。おかげで副委員長やらされた。しかも恋も学級委員だったからお先真っ暗。
それに見事に体育祭やら文化祭やら……よくも陽の目に当ててくれたな? でも、結果として恋と一緒にいる時間も増えたし、やっぱり感謝しとくべきか。あと、早瀬さんは言うまでもなく女神様っ!
「葉山先輩に連れられて、同じ鳳瞭ゴシップクラブに入ってさ? 桐生院先輩と4人で新聞作れたってのも大きいかもしれない」
第2の元凶ヨーマ。全くもって俺が悪いんだけど……それを餌に脅すとは恐ろしいっ! まぁその通り毒しか吐かないけど、ほとんどは正論。色々勉強になりましたよ。あとさ、桐生院先輩と言う緩和材無しには、鳳瞭ゴシップクラブはまとまらなかったでしょう。ありがとうございます! でもまぁ、そんな部活だけどさ?
「体育祭の特集、たい焼き論争に皆で行った宮原旅館。クリスマスイブパーティーなんて葉山先輩の家でやってさ? 滅茶苦茶楽しかった」
良い意味でも悪い意味でも、その思い出はハッキリと記憶に残る物ばかりなんだよ。
「うん……楽しかったぁ」
そして、そんな思い出には、
「でもさ? そんな時必ず……恋が居たんだ」
「ツッキーが……居た」
そう言って、笑顔を浮かばせながら俯く恋。この行動が何を意味するのか……どっちなのかは分からない。でも、そんなのどうでもいい。
「おかしいよな? あんなに嫌だったのに、気付いたら近くには恋が居て、思い出の中では常に恋が隣に居てさ?」
そうだ。気が付けば隣にいつも恋が居てさ? 普通に世間話して、冗談言って、笑ってる恋の顔が可愛いって思うようになった。
「それが普通になって、当たり前の様な感じになって……その内さ? 求めるようになった」
より近い関係を。
「2人で結構遊びにも行ったじゃん? クリスマスの時やスイーツ店巡りとかさ。あの感覚を常に求めるようになってたんだ」
「ツッキー……」
「どうしてなのか、いつからそう思うようになったのかは分からなかった。でもさ、その理由は案外すぐ分かったよ。だってさ? 恋が近くに居る時心臓が張り裂けそうになるんだ」
本当に焦ったよな? だってその時は女性恐怖症の症状なんて綺麗サッパリなくなってたんだぞ?
「滅茶苦茶焦ったよ。ぶっちゃけ治ったと思ってたし。それでも凜が交換学習で来た時は寒気とかして、流石にトラウマ目の前にしたらダメだぁなんて考えたけど……それだけ。動悸に似た症状は出ない。じゃあなんで恋だけ ……それはさ?」
俺、こういうの鈍感だって凜に言われたけどさ? さすがに……気付いたよね? もちろん滅茶苦茶恥ずかしかったけど、そう考えると今までの自分の気持ちとか行動とか、辻褄合ったんだ。だからこれは間違いないんだよ。
「俺、恋の事が好きなんだ」
その言葉に、俯いたまま動かない、何も言わない恋の姿。それはあの夏祭りの日の……トラウマを植え付ける前の凜の姿に……瓜二つだった。
ヤバい……
そんな雰囲気に心は揺れる。でも、自分の口から本音がこぼれたのは事実だった。
なぁんてね? 冗談だよ?
なんて言えたら、どんなに楽だろう。だけどそれは自分に嘘付いて、逃げるだけ。
あの時の俺は、逃げなかった。
結局、振られてあんな感じになっちゃったけど……自分の思いを伝えたんだ。
だったらさ? 負けてられないじゃん。過去の自分に負けるなんて格好悪いじゃん?
凜じゃないけどさ?
俺は……
俺は……
あの頃の自分を……越えたいんだっ!
「なぁ、恋。笑わないでくれよ? 俺はさ……常に皆の中心で笑ってる。時々ムスってふてくされる。冗談言われて焦ってる。何か企んでニヤニヤしてる。色んな恋の姿見てきたよ。でもさ、その全てが俺にとっては……何よりも大切な物なんだ。だからさ、それ……離したくないんだ。そばに居て欲しいんだ!」
「自分でもさ? 気持ち悪いって分かってる。でも、これが俺の本音だから? 恋に対する本音だから。全部、伝えたかった」
「俺、恋の事が好きなんだ。だからさ、だから……」
「俺と……付き合って下さい」
その言葉を口にしてから、一体どの位の沈黙が流れたんだろう。俺にとって、それは果てしなく長い気がした。恋の言葉に全神経が集中して、ゴクリと生唾を飲み込んだその時だった、その時は……突然訪れる。
「ずるいよ……」
えっ、ずるい?
「ずるいよ……ツッキー」
「えっ、ずるい?」
「本当にずるいよ。また自分の言いたい事ズバズバ言ってさ?」
また? ……えっと、それってあの文化祭の時の話? 凜の事惜しげもなく恋に暴露した? あれ? それってつまり心情的にまずいって……感じ!?
「その……」
「ホントにずるいし、ヒドイよ……」
うぅ、これは……
「だってさ……」
最悪な……
「凜とどんな関係になってようと、私が言いたかった事なのに……」
はっ、はぁ?
そう言って、顔を上げた恋は……優しい笑みを浮かべていた。
笑ってる? あれ?
「あぁーあ、ツッキーに先越されちゃったぁ」
さっ、先って!?
「はっ、はぁ? それって……」
「ねぇ、ツッキ……うぅん。蓮。」
なっ、なんだよ? てか、初めてじゃないか? 俺の事名前で……
「私、日城恋も……あなたの事が好きです。この12年間ずっと大好きで、これからもずっとずっと大好きです。だから……」
「お付き合いさせて下さいっ!」
こっ、これ……聞き間違いじゃないよな? 幻聴じゃないよな?
「ほっ、本当なのか?」
「あっ、当たり前じゃん! てっ、てか! OK貰った直後の言葉がそれっ!?」
はっ、ヤバッ! うっかり本音が……
「いっ、いや」
「もぅ! 雰囲気台無しだよぉ」
「ごっ、ごめん!」
たっ、確かに雰囲気ぶち壊しだよな? でも、恋の返事はOK……OKだぞ? 告白受け入れられたんだぞ? 動揺しない訳が……
「ふふふっ、ツッキー?」
トンッ
その瞬間、胸の辺りに感じる優しい感触。そして脇の下辺りが引っ張られて、体が……柔らかい何かに包まれた。
何が起こったか最初は分からなかった……けど、じんわりと体が温かくなってくる内に、今がどんな状態なのか自然と……理解できた。だからこそ、俺も恋を……
力強く抱き締める。
そんな幸せな時間がどの位続いた時だろう、
「ツッキー?」
そんな恋の声が聞こえて、俺は腕の力を緩めると……ゆっくりと視線を向ける。
その先にあったのは、少し薄目で、何かを求めるような……寂しそうな表情の恋。
それを見た途端、俺はゆっくりと顔を……近付けた。
お互いの息遣いが分かる程の距離。
そして触れ合い。感じる温かさ。
そう、その唇は……一瞬でとろけてしまいそうな位……
柔らかかった。
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