第148話 月城蓮
「私と……付き合って下さい」
真剣な表情で、俺を見つめる凜。
それは多分嘘なんかじゃなくて本心なんだと思う。そんな凜を見てるとふと思い出す……あの夏祭りの日。まさにあの日、俺は……目の前の凜みたいに告白したんだ。
でもダメだった。その理由はさっき聞いたけどさ。
もしあの時、恋が携帯電話を忘れてなかったら?
凜は携帯を見なかった。
もしあの時、凜が恋の携帯を見てなかったら?
恋の気持ちを知る事はなかった。
もしあの時、凜が恋の気持ちを知らなかったら?
多分、あの夏祭りの日に……俺の告白を受け入れていた。
なんて、それを聞いても……過去が変わるもんじゃない。
まぁ、決してそれが無駄だとは思えないよ。だってさ? 少なくとも幼馴染の関係を越えられなかった訳じゃないし、それ分かっただけでもちょっと気分は晴れたのかも。
けど、ただそれだけ。
だって俺はさ……今、こうしてこの場所に立ってる。
鳳瞭学園2年3組、鳳瞭ゴシップクラブ所属の……月城蓮として。
凜からの告白。好きって言葉は素直に嬉しいよ? それは今も変わらないし、あの時聞けたならどんなに嬉しかったんだろうって思う。けどさ、今の俺は……
「ごめん」
それに応える事は出来ない。
うっ! いってぇ……
その言葉を凜に向けた瞬間、胸にズキッと痛みが走る。それは初めて告白されて、初めてそれを断ったからこそ……知った事だった。
これって……そうかぁ。告白を断られる方も傷付くけど、告白を断る方も滅茶苦茶心が痛いじゃん。
もしかして、あの日……凜も、こんな風に心が痛くなったのか?
なんて胸のズキズキに耐えながら考えてたけど、
「そっか……」
悲しげな表情を浮かべる凜を目の前に、それは一瞬で消えてしまう。
だって、その姿にあの時の自分を重ねる事なんて容易だったんだ。
俺は……あの日の凜と同じ事をしてる。もしかしたら凜は俺の様に傷付いて、落ち込むのかもしれない。でもさ? 凜がそうしないといけなかったみたいに、俺にも理由があるだよ。
俺は……俺は……
恋の事が好きなんだ。
それに凜。お前さっき自分の全てを話すって言ったよな? 何自分だけスッキリしてんだよ。だったら俺だって全部さらけ出しても……いいだろ?
明日になったら京南帰っちゃうんだし、丁度良い機会だ。どうせならお互い思ってる事全部吐き出して、腹割って話してさ? ……ケリつけようじゃないか。
「凜の事嫌いとかそういう訳じゃない。そりゃあの日以降は顔も見たくなかったし、話しもしたくなかったし、声も聞きたくなかったし、近くに居たくもなかった」
「……ははっ、随分厳しいなぁ」
厳しい? これでもマイルドにしてやってんだよ。
「仕方ないだろ? ぶっちゃけ俺はほぼほぼ付き合えると思ってた。それがまさかの空振りだったんだぞ? しかもその後あんな噂まで……」
「ごめん。でもさ? これだけは信じて? 私……蓮を振ったなんて誰にも言ってないよ?」
まぁ、その辺は今までの話聞く限り不透明な部分ではあったな?
「じゃあ、なんであんな噂が?」
「本当に分からないの。あの後色んな人に聞かれたんだ? 蓮となんかあったの? って。でもさ? 私何もないよっていつも通り答えたんだよ?」
聞かれはしたけど……いつも通りの返事かぁ。でも確かに考えてみれば、変な事言って噂立てるのはリスク高過ぎじゃないか?
桜ヶ丘中の奴らなんて、ほとんど小学校からの馴染みのメンバー多かったし。下手したらバレて皆から総攻撃くらうんだぞ? そもそもそんな噂流れたら真っ先に疑われるのは自分。
当時の俺はガッツリ信じてたけど……そんな馬鹿な事、凜がする必要ないんだよなぁ。
「なるほどなぁ。それでも当時の俺はガッツリ信じてたんだ。凜が誰かに言ったんだってな?」
「……あの時の空気で、そう思うのは仕方ないよ」
けど、冷静に考えれば考える程……凜が発信源になる理由は見当たらない。だとすれば……急に話とかしなくなった俺達の状態を、誰かが面白半分に? その可能性は捨てきれない。
ふぅ。でも、冷静になって凜に面と向かって聞けたのは良かった。別に真相に辿り着いた訳じゃない、けどなんだろう……気持ちが軽くなる。
「まぁいいよ」
「いいの? でもその後、苦しむ蓮に何も出来なかった」
「いいんだよ。多分あの状態で凜に何されたって、信用できなかったし、そもそもそんな状況にさえさせなかったと思う」
疑心暗鬼プラスお陰様で女性恐怖症も併発してたんだ。多分あの状況じゃ、凜が何をしようと関係なかったよ。
「でも……」
「別に凜が噂広めた訳じゃないんだろ? それに告白断ったのだって理由は分かった。なんか聞けば聞く程……俺、凜の事なんも知らなかったんだなって実感したわ」
「蓮……」
でもさ? それでも……
「けど、それはもう過去の話。いくら後悔したって、今が変化する訳じゃない。もちろん話聞いてスッキリした部分だってあるよ? でもだからって劇的に状況は変わらない。俺は鳳瞭学園の2年で、凜は京南女子の2年。それ位凜だって分かるだろ?」
「分かるけど……」
「それにさ? 凜みたいな頭良い奴なら……他にも分かるだろ? ……俺の気持ちも変わる事は無いって」
「……」
ごめんな凜。色々あったけどさ? やっぱりお前は俺にとってかけがえのない存在なんだよ。大事で、大切な幼馴染に変わりはない。でも、だからこそ……俺は嘘ついて、曖昧な返事でお前を傷付けたくないんだ。だから……だから……本音をぶつけるっ!
「俺、恋の事が好きなんだ」
その言葉を口にした瞬間、凜は……ゆっくりと笑みを浮かべると、
「やっぱりね」
そう言って、俺の方をじっと見つめた。
それは……それこそ、そんなの前々から知ってるよって表情で、なんか安心した様な、落ち着いた様な……そんな雰囲気さえ感じられる。
その顔……やっぱ知ってたんじゃないか。しかもどの段階で? もしかしてそれ知りながら、好きとか……意味深な行動してたのか?
「やっぱ知ってたんじゃないか」
「まぁね。だってあからさまだったもん」
「あからさまって……いつからだ?」
「そりゃもうすぐにね? だって、あんなに楽しそうにしてたらねぇ?」
たっ、楽しそう? 待て待て、周りから見てもそんな感じなの?
「はっ、はぁ?」
「当本人達は気付かないもんなんだよ? 多分周りの人達なら仲良いなあって思ってるし、勘の良い人ならそういう雰囲気すら感じ取ってると思うよ?」
まっ、マジかよ? そんなに……? ちょっとストップ! 最後の勘の良い人って滅茶苦茶気になるんですけど? 思い当たるのが1、2、3人は居るんですけどっ!
「それにさ? まるであの頃……公園で遊んでたみたいに楽しそうだったよ?」
あの頃かぁ……確かに、なんか恋と居ると自然と明るくなる。それこそ、何も考えずに騒いでた昔の様な感覚なのかも。
「ふふっ。はぁ……なんか自分の言いたい事言ったらサッパリしたっ!」
いっ、いきなりなんだよ。
「サッパリって……」
「だってさ? 言いたい事言って、昔の自分に戻れた。蓮の思ってる事も聞けてさ? 好きな人の本音聞けるのって、とっても嬉しい事なんだよ? だから私ね? 今……とっても幸せ」
「凜……」
「それにね? 蓮と恋ちゃんはさ相性バッチリだと思うよ? どっちも、明るくてみんなに好かれるタイプなんだけど……ちょっとだけ違うんだ」
いやいや、急に相性良いとかって……褒められても反応に困るんですけど?
「恋ちゃんは、本当に明るくて皆を引っ張って照らしてくれる……太陽みたい。そして蓮はね? 人の心にそっと手を差し伸べてくれて、その優しさに自然と周りに人が集まって来る……そう、月みたい。太陽だって毎日照らしてたら疲れるでしょ? だから夜には月にバトンタッチ。そんな感じでさ? いっつも明るい恋ちゃんの心に手を差し伸べて優しくしてくれるのが蓮。そんな蓮を、いつでも引っ張ってくれて楽しませてくれるのが恋ちゃん。ねっ? 2人って相性バッチリなんだよ? 悔しい位に」
「おいおい、恋は良いとして俺の所は買い被り過ぎだって」
「そんな事ないよ? だって、私が好きな人なんだよ? 自分の事好きな人の事……信用してよ?」
だっ、だから良くそんな恥ずかしい事言えるねっ! 俺なら絶対無理だよっ!
「いやぁ……」
「蓮? ありがとう」
「はっ?」
「今日ここに来てくれて本当にありがとう」
次から次へと……突拍子もない事言うなぁ。付いて行くのがやっとなんですけど?
「いやっ、俺も聞きたい事あったし……来て良かった」
「ふふっ、本当? じゃあさ? 最後にお願いしてもいいかな?」
お願い? 何だろう? 嫌な予感しかしないんですけど?
「無理難題は受け付けないぞ?」
「もぅ、私そんな意地悪じゃないよ? ……聞いてくれる?」
「……なんだ?」
「あのね……?」
暗い夜道に、等間隔に立てられた街灯。時折通る車の音だけが、しばらく響く位……静まり返った学園へと続く道路。
―――恋ちゃんの所、行ってあげて?―――
そんな凜のお願い。その意味を考えながら、俺は1人ゆっくりと歩を進める。
行ってあげて? 普通に考えたら明日だって恋には会える。けど凜は明日とは言ってない。つまり、今日? でも最早寮の部屋の中だろ? スマホで呼び出せって事か。でも、それなら尚更明日でもいい気はするけど……
どういう意味だ? って聞こうと思ったんだけど……凜の見せた笑顔は、
蓮なら分かるでしょ?
って言ってる様で……口には出せなかった。
だからこそ、あのお願いには何か理由がありそうだった。けど、その明確な答えは浮かんでこない。
なんだろう……ん?
そんな俺の前に見えてきたのは……思い出深い曲がり角。
そいえば、恋と初めて……って違うんだよな? 久しぶりに出会ったのはこの曲がり角。あれ? なんだろこの感じ?
そんな妙な気持ちを感じながら、ゆっくりと曲がり角へと近付いていく。
そいえば、今年だって入学式の時に曲がり角で恋とぶっかったじゃないか。だったら、もしかしたら……
そんな淡い思いを胸に俺は1歩足を踏み入れる。
そしたらさ、突然の衝撃と右腕に柔らかい感触が……見事になかった。
「はぁ……」
そんな都合良くあるわけないよなぁ。
溜め息と共に、一瞬でガックリ。もちろん、その曲がり角の先にも誰の人影もなくってさ? 街灯だけが虚しく付いてる……だけだと思ったんだ。でもさ?
あれ? あの街灯だけ点滅してる?
先に見える街灯が1つだけ、点滅してた。まぁ普通だったら気にも留めないんだけど、でもさ何故か妙に気になって……自然と足が向かっていた。なんの理由もなくただ無意識のまま、その街灯の前まで来るとさ? その横にあったんだ。
長い階段が。
それは見覚えのある階段。
少しの長めで、周りに遮る物がない階段。
そして、
『ふふふ。あっ、この階段上ったらすぐだよ?』
恋の秘密の場所へと続く階段。
正直、全然考えもしなかった。でもそれは、まるで何かに誘われる様にここに来て、まるで何かに導かれる様に見つけた。
もしたしたら、ただ偶然かもしれない。けどさ、そんな偶然を目の前に、淡い期待をする自分が居る。
もしかしたら、もしかしたら……この先の秘密の場所に、
恋が居るんじゃないかってさ?
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