第147話 蓮と凜と恋

 



 そんな私にとって衝撃的だった出来事の後もさ、仲良く3人で遊んでたんだ。


 でも……ツッキーに対する感情がそれまでとは違うってのは感じてた。

 なんかね? 顔見たり、面と向かって話すのが妙に恥ずかしくなっちゃってさ。絶対ツッキーにはおかしな奴だと思われたに違いないよ。

 ホント、あの時の私ってば……無知だったよねぇ。だってさ、それが恋だなんて微塵も思わなかったんだよ? でも、それがハッキリとしたのは、そのすぐ後……


 家に帰る前日だった。


 あの時の事は忘れもしないよ? てか忘れられない。だってさ、あのワガママ1つ言わない凜がいきなり、


『私帰りたくない。蓮君と一緒に居たい。遊びたい』


 って言い出したんだ。

 それ聞いた瞬間、私もだけど皆固まっちゃってさ? それでも時が動き出したかの様に皆一斉に笑い出して、


『何言ってるの?』

『そうだぞ?』


 なんて言ってけど、凜の表情は真剣なまま変わらない。そして、話す言葉も……変わらなかった。


『嫌。蓮君と居たい。もっと居たい。お家には帰りたくないっ!』


 私はさ、そんな凜の姿1度も見た事なかったんだ。そんな凜が初めて自分の感情を、ワガママを言った。 ……それが、


 ツッキーと一緒に居たい


 本当に最初は驚いたよ。でも繰り返す凜の言葉聞いてたらさ? なんだか胸キューって、あのジャングルジムの上で感じた様に締め付けられたんだ。そして思った……


 居たい? 蓮とずっと? 待って? ずるいよ? 私だって……蓮と……蓮と……一緒に居たいよ。


 でもさ? それを口に出すことは出来なかった。おかしいよね? いつもだったら言いたい事ズバズバ言うのに。けど、その時は言えなかった。

 凜が自分の気持ち話して、驚いたってのもあるけど……それと同時に、そんな凜の気持ちを邪魔しちゃいけないって思ってさ? 

 だって凜の初めてのワガママだよ? それ位……叶えてあげたかったんだ。姉として、大好きな妹の為に……なんちゃってね? 当時の私はそう言い聞かせてたけどさ、本音はそれを言うのが恥ずかしかったんだ? ただ……それだけ。


 まぁ、そんな感じでさ。なぜかママパパも、そんな凜の成長に狂喜乱舞しちゃって……叔母さんと叔父さんも根負け。それで、凜は高梨凜になった。1人少なくなった家は、寂しいのは寂しかったけど……それこそ毎週叔母さんの家にお泊り行ってたから、そこまでって訳でもなかった。

 今考えると、これもママ達が私達の為に結構考えてくれてたんだよね? 


 そんな計らいのおかげで、週末になると3人で遊んでたんだ? でも、私はさ? やっぱりツッキーの事気になっちゃってた。遊ぶ毎に……どんどんホントの自分が出せなくなってきちゃった。

 それとは対照的に、凜はすっごく明るくなってね? とっても楽しそうだった。いつの間にか、ツッキーの事呼び捨てで呼んじゃったりしてさ? そんな自分と真逆な様子を見るのが、その場に一緒に居る事が……辛くなった。


 それは嫉妬だと思う。仲良くできない自分と仲良くなってく凜。それはあの日の時点で分かっていたはずなのにさ? でも、どうしようもなく切なくて悲しくて……だから私はツッキーと一緒に遊ぶのを辞めた。


 それでもさ、気持ちは変わらなかった。こっそり凜と遊んでるツッキーの姿見たりさ? 中等部に上がって携帯買ってもらったら、遠目から写真撮ったり? 凜のアルバム勝手に開いて、写真を写したり……完全にストーカー。

 ふふっ、隠れてサッカーの試合も見に行ったっけ? でもその度に……どんどん大人びていくツッキーを目にして、記憶に残るだけで幸せだった。


 ……そう、それだけで幸せだったんだよ? なのになのにっ! あの入学式の前日、こっそりクラス表見に行ったらさ? あったんだよ! 月城蓮の名前がっ! めちゃめちゃ焦ったし、なんでなんで? って疑問だらけ。

 同姓同名だよ。そうに決まってるっ! なんて自己暗示を掛けながらも、入学式当日の朝早くここに来て……何度も深呼吸したんだ。そして、学園に戻ろうとした瞬間……


 あなたに出会った。


 顔を見た瞬間、すぐに分かった。いつも遠くから見ていた姿、画像で何度も見た姿……忘れる訳ないもん。

 心臓バクバクでさ? ちょっとあんた? なんて、無意識に出た女の子らしくない言葉を必死に否定しようとドタバタだった。

 でもさ? なぜかツッキー、奇声上げて走って行っちゃって……それはそれで助かったかも。おかげで冷静になれたもんね? しかしながら冷静になったらなったで、


 クラス表に書かれた名前は同姓同名の別人ではなく、月城蓮本人確定。

 しかも同じクラス。

 出合い頭にぶつかってしまうという、恋愛物で用いられる最高の出会いをした。

 にも関わらず、第一声がちょっとあんたぁ?

 完全にそっち方面の女だと思われた。

 そしてダッシュで走り去られる。

 第一印象最悪。

 しかも恐らくこの体勢……パンツをガッツリ見られた。


 ……その全てを理解した瞬間、後悔と恥ずかしさと嬉しさ爆発してさ? もう顔から火が出る位熱くなっちゃったんだ。なんとか学園まで辿り着いたものの、フラフラで保健室行ったもんね?


 それから平常心作るの大変だったぁ。ベッドに横になって、先生からアイスノンあるだけ借りて顔乗っけてさ?


 教室の前で、平常心、最初が肝心、むしろ引いたら負けっ! って何度も呟いて、そして……


 私とあなたはクラスメイトになった。


 でもさぁ、全然目合わせてくれないし。話し掛けようとしたら逃げちゃうし。完全に入学式のあれで嫌われたって、がっかりしたなぁ。

 そんな時、なぜか先輩が新聞部に連れて来て? 一緒に取材っ!? ちょっ、ちょっと待ってよー! って怒涛の展開のオンパレードで驚きっぱなしだったけどさ……嬉しかった。ツッキーに嫌われてたとしても、それでも近くに居られるだけで幸せだった。


 いきなりマリンパークで倒れた時はめちゃめちゃ焦ったけどね? 必死に起こそうとしたけど、全然ビクともしなくて……その時さ? 久しぶりにツッキーに触ったんだよ。がっしりした筋肉にドキドキしちゃったとか、寝顔を永遠と見て居たかった……なんて口が裂けても言えないわぁ。


 ふふっ。今考えたらさ、あの時が私にとって第2のターニングポイントだったんだよね? だって、まさかツッキーが女性恐怖症だなんて思いもしなかったんだもん。でも、安心もしたんだ。だって別に私が嫌いだから避けてた訳じゃないって分かったんだよ? それだけで十分……だったはずなんだけど、私はさ?


 もっとツッキーの事知りたかった。


 ちょっと意地悪だったけど、顔近づけてさ? 女性恐怖症克服するの手伝ってあげるー! なんて言っちゃって。


 ツッキーに近付く口実ゲットだよ。

 にししっ。顔近付けるのめちゃめちゃ恥ずかしかったぁ! でも……そのおかげで、いっぱいツッキーと居られて、話も出来て、ツッキーって呼べるようになって……


 ますます、好きになっちゃった。


 今思えば、とっても幸せな時間だった。

 幸せ過ぎる時間だった。

 まるで夢の様な位……


 でも、そろそろ夢から覚めなきゃ。そうでしょ?



「バイバイ! 月城蓮ー!」


 ふぅ、これでもう……


「いっ、いきなり人の名前叫ぶんじゃないよっ!」


 全ての事を忘れる様に思いっきり叫んだ余韻を、かき消すその声は忘れようのない声。けど、その人物はここに居るはずがなかった。


 うっ、嘘? なんで?

 そんな焦りと、少しの……嬉しさを胸に秘めて、私はゆっくりと後ろを振り返った。するとそこには、確かに誰かが居たけど……その顔だけが月の光に照らされてる。


「それにバイバイってなんだよ。今来たばっかだってのっ!」


 その照らされた顔は、いつも以上に格好良く見えて……


 その言葉は、いつも以上に温かく感じて……


 私を優しく包み込んでくれる……



 大好きな人でした。



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