第146話 日城恋
見下ろせば、そこにはいつもと変わらない光景が広がってる。
中等部の時、偶然見つけたこの場所……そしてこの夜景。
それを一目見た時から、私はここが好きで好きで仕方がない。
そう……あの人の様に。
バカだなぁ私。あのまま言っちゃえば良かったのに。
バカだなぁ私。巡りに巡ってきたチャンスなのに、あと一歩足を踏み出せなかった。
バカだなぁ私。
『行ってらっしゃい、ツッキー』
なんであんな事言っちゃったの? 行ってしまったら戻ってこないって分かってるのに。なんで笑顔で見送ったんだろう。
……今頃2人は、こんな風に夜景を見ながら良い感じなんだろうな。そうだよね? 結ばれるべくして結ばれたようなものだし、多分運命ってやつなんだよ。
「ふぅ」
でもね、1年と半分ちょっと……近くに居れてよかった。
とっても楽しくて、とっても笑って。ちょっと泣きそうな時もあったけど、後で必ずそんなの消えちゃう位の明るさと優しさで包み込んでくれたよね。
本当……あの時の気持ちのままに、過ごせて……良かった。
懐かしいなぁ。あの時……そう、ツッキーと初めて会ったあの日から、私がこうなるのは決まってたのかもしれないね。
ママがいきなり、
『叔母さんの家に泊まりに行くよー』
って言い出した時は正直嬉しかったぁ。その理由も深く考える必要もないし、とりあえず叔母さんの家に行けるのが楽しくて仕方なかったよ。
だって、他のお家にお泊まりってテンション上がるじゃん? それ位の事しか考えてなかったんだよ。当時の思うがままに自由に生きてた私はね?
そんな私と対照的に、凜は大人しくて少し人見知りだったっけ。でもとんでもなく優しくてさ? 私がせっかくのおやつ落っことした時なんて、わざわざ自分のを半分こしてくれたり、ウキウキセットのオモチャ気に入らなくてムスッとしてたら、交換してくれたり? なんか常に笑顔でさぁ。たまに私が理不尽な事言っても、笑顔でたしなめたり、誕生日プレゼント何が良いって聞かれても必ず、
『恋ちゃんの色違いが良いなぁ』
だったよね? その当時は、なんだ凜も同じやつ欲しかったんだぁ。さすが双子っ! なんて感心してたけどさ、 今考えたらそれって……物凄く有り得ないよね? 凜は静かで優しい。でもさ、自分の意見とか要求とか……言った事なかったんだ。
ところが、そんなのなんにも察する事が出来ない私はさ? 自分ならまだしも、保育園の友達の言う事にも笑顔で答えて、断れない凜を守らなければっ! なんて使命感に燃えてた訳なんだよねぇ。まぁ、こんな性格だし2人で並べばよく、
『顔も髪型もそっくりだけど、性格は正反対だね』
って言われてたし、私は別に良かったんだよ。私はね? でもその影響はモロに凜に降りかかったんだ。
よく1人や2人や3人は近くに居るじゃん? 悪巧み大好きな人ってさ。そいつらに狙われたんだよね。私と間違えられて。
私にコテンパンにやられたから、その腹いせに凜を狙った。もちろんその言い訳は、
『恋だと思って』
そんなの嘘に決まってるし、大体いつもの様子見てる奴らが、私と凜を間違える訳ないんだ。でもそれが悔しくて……凜に申し訳なくって……だから私はさ? 髪をバッサリ切ったんだ。
顔は似てても髪型が全然違う。これだったら見間違える訳ないでしょ? おかげで奴らがそれを言い訳に凜をイジメる事もなくなったし、私はその髪型も相まってより一層男子顔負けな性格になってさ? ……あっ、勿論凜イジメた奴らはもう1回コテンパンにしたけどね? にしし。
そんな性格の私が、あの日あの公園でツッキーと出会った訳。同じ位の年のオ・ト・コ・ノ・コが自由自在にブランコに乗り、ドヤ顔で自己紹介だよ? その瞬間すぐ様感じ取ったね。こいつはそんじょそこらの男の子とは違うって。だからさ? 何事も最初が肝心じゃない? ……つい見栄張って言っちゃったんだ、
従兄のひしろってね?
……ヤバッ、今思い出しただけでめちゃめちゃ恥ずかしい。格好つけてドヤ顔してたんだろうなぁ。年上アピールしたくて従兄なんて言っちゃって。ははっ、その日叔母さんの家帰って必死に凜にお願いしたっけ?
『いい? ここに居る時だけ私、従兄って事にして? お願いー!』
そんなハチャメチャなお願いでもさ? 凜は笑顔で、
『うん。分かったぁ』
って言ってくれて。しかも本当にずっと守ってくれてさ? 本当……凄いよ。
そんな凜のおかげもあって、晴れて従兄ひしろとして私達3人は毎日遊び回ったんだ。鬼ごっこにかくれんぼ、ブランコに缶蹴り。その中でも1番記憶にあるのは……大きなジャングルジムっ!
これもなぁ……最初は怖かったんだ。でもツッキーったらスイスイ登って行くんだよ? だから私だって……年上従兄としては負けてられなくてさ? 必死に余裕な感じ醸し出しながらなんとか登ったの。
そしてようやく辿り着いたてっぺん。その上の出っ張りを掴んでゆっくりと立ち上がり、目の前に広がる景色を目の当たりにした瞬間……怖いって感覚は一気になくなったんだ。綺麗で、楽しくて、胸がドキドキしてさ? なんか一瞬で虜になっちゃった。それからというもの、よくツッキーと早登り対決したなぁ。
本当に懐かしい。懐かしくて……とっても大切。
だって、その楽しさ感じてなかったら、あんな事起きなかったと思う。そしてあの出来事が起きなかったら……多分、今こうしてここに居る私は存在しなかったよ。
あの日もさ、ツッキーはいつも通り叔母さんの家に来てくれたよね? そんでさ、それまたいつも通り3人で公園向かって……中に入った瞬間、ジャングルジム早登り競争スタート。
私、それまでツッキーに1回も勝てなくてさ? その時めちゃめちゃ気合い入ってた。体も軽くてスイスイ登れて、まるで自分の体が宙に浮く様な感覚でてっぺんまで一直線。そのままの勢いで、てっぺんの出っ張りの上にまで登っちゃって……達成感とツッキーに勝った嬉しさでもう最高の気分だった。そんでさ、ドヤ顔しながらツッキーの事見下ろしてやろうって思って、下を向いたんだ。いつもやってるみたいにね? でも……
その日は、いつも通りじゃなかった。
下を見た瞬間、地面がいつもより遠かった。改めて今の自分が立ってる高さを認識したら……目がグルグル回っちゃってね? もちろん、そんな状態で立っていられる訳なくて……落ちない様にしゃがんで、ジャングルジムを力一杯掴んで居る事しか出来なかった。自分でもよく分からなかったんだよ? でも足は震えちゃうし、落ちちゃうかもって焦りと恐怖だけでいっぱいで、その場から動けなかった……そんな時、
『ひしろっ!』
ツッキーの声が聞こえたんだ。
そんでさ、ゆっくりとその方向を見てみると、ツッキーが下から手を伸ばしてるの。めちゃめちゃ必死に私を助けようとね?
でも、私の足は動かなかった。だってさ、手を必死に伸ばしてもツッキーの手には届かないんだもん。片手はジャングルジム掴むのに必死でさ? そしたらツッキーどうしたと思う? 彼は……
てっぺんまで来てくれた。
怖かったと思うよ? だって出っ張りには私が居るし、ツッキーは何も掴まずに、細い鉄の棒に足乗っけてるだけ。それをたった4歳の男の子だよ? 普通なら有り得ないよ。でもさ、ツッキーは来てくれた……私の為に。
そして、体ぐらつかせながらさ? 私に向かってこう言ったんだよ?
『大丈夫だ! 俺の手を掴めっ! 信じろっ!』
その真剣な眼差しと、その仕草……私はね? その瞬間……ツッキーの事好きになったんだ。だってさ? 心の底から信じられるって思っちゃったんだもん。
勇気を出して……もっと手を伸ばして……そしてツッキーの手に触れた。
それからはあっという間。手が痛くなる位、ツッキーは私の手を握って……そんで引き寄せて……それから気付いたらさ? 私はツッキーの胸の中にいた。
ツッキーったら、いざ引き寄せたものの体勢崩してさ? ジャングルジムの上に倒れ込んだんだ。絶対背中とか痛かったと思うよ? まぁ、本人は全然余裕みたいな事言ってたけどさ? ふふっ。私は、そんなツッキーの上に遠慮なく乗っかっちゃてて、暖かい温もり全身に感じてた。
その時は認めたくない……って言うより、どういう事なのか理解できなかったんだよね。心臓は何かキューって締め付けられてるのに、体全体はなんか温かい何かに包まれてる感じで……心が落ち着いて、安らかな気持ちでいっぱいだし?
だからさ? そんなよく分からない中で、
温もりだけを感じながら、両手でギュッとツッキーの服掴んで、
心臓のドキドキを……必死に隠してたんだ。
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