第145話 高梨凜は取り戻したい

 



 おっ、俺!? 待て、何で俺? しかも中学生の時なんて、ほとんど恋の事覚えてなかったし、それはあっちだって同じだろ? 

 それに小学校上がってから1度も会ってないし……だとしたら久しぶりに会ったのは鳳瞭来てからなんだぞ? それなのになんで?


「それ本当なのか? だって、中学の時なんて……」

「私も同じ事思ったよ。恋ちゃん公園にも行かなくなったし、蓮の事も話さないし……正直ね? 鳳瞭に行ってこっちの事興味無くなっちゃったんだって……思ってた」


 それは……そうだよな?


「でも、確かに待ち受けには蓮が映ってた。それもさ? その画像の蓮はユニフォーム着てて、ガッツポーズしてたんだよ」

「ガッ、ガッツポーズ?」


「うん。それは間違いなく、ゴール決めた瞬間の画像。その時点で……おかしいよね? 私は恋ちゃんに画像送った記憶はない。でも、その待ち受けの蓮は間違いなく最近の姿だった。それってつまりさ? 恋ちゃんは……試合見に行ってたんだよ?」


 試合を……? 俺の試合を!?


「はっ、はぁ? 何で?」

「ふふっ。私も最初は意味分かんなかったんだ。でもそんなの一瞬だった。すぐに胸が苦しくなって、頭の中は嫌な予感がグルグルグルグル回っちゃって……それでね? 私は……見ちゃった」


 見ちゃったって何を!? 


「ホントはダメな事なんだ? 最低な事なんだ? でも……どうしても確認したかった。嫌な予感なんてただの考えすぎだって安心したかったの。その時恋ちゃんが使ってた携帯は、私と色違いだったから操作だって問題ないし、あれがある場所だって分かる。そして震える指で、ボタンを押した時……私の嫌な予感は当たってた」

「何があったんだよ? 何を見たんだ?」


「何だと思う? 私が見たのはデータフォルダ。そこにあったRって名前のフォルダ。もうさ? 大体分かるでしょ? その中にはね、たくさんあったんだよ? ……蓮の画像が」


 おっ、俺の画像? はぁ? なんで俺の画像があるんだよ? 


「まっ、待ってくれ。意味が分かんねぇ。さっきも言ったよな? 中学校の時なんて恋の事すら忘れてたんだぞ? それなのに、なんで恋の携帯に俺の画像があるんだよ?」

「いつもは皆の気持ち察するの上手いくせに……蓮って本当、女の子の事になると鈍感なんだから。しかも自分の事に関しては尚更」


 いっ、いきなり呆れられたんですけど?


「はぁ?」

「あのね? 女の子が待ち受けにするって事がどういう事か分かるでしょ? というか……1つしか考えられないじゃない」


 なんだよ……呪いとか? 呪術的な何か?


「恋ちゃんはね……ううん、恋ちゃんもね? 蓮の事が好きなんだよ」



 ……好き?


 ……恋が? 俺の事?


「ははっははは。何……言ってんだよ? だから冗談止めろって……そんな訳……」

「そんな訳あるよ」


 なっ、何言ってやがる。だって……恋は一緒に遊ぶの止めたんだぞ? 自分から。


「なっ、何を根拠にそんな自信満々なんだよ」

「分かる。だって、その時目にした蓮の画像は……本当にそれまでの蓮でいっぱいだったんだよ? あの出会った時の画像から、それこそ当時の蓮の姿まで。それにさ? フォルダに入ってる小さい時の蓮の姿……なんか見た事あると思ったんだ。……それもそのはずだよね? だってその画像は……私が持ってるアルバムの写真。恋ちゃんはね、私に内緒でその写真を携帯電話で撮ってたんだよ?」


 けっ、携帯で? アルバムの写真を撮った? ……だから昔の俺の画像が恋の携帯にもあった? うっ、嘘だろ? なんでそこまで……


「すぐにアルバム持って来て確認した。1枚1枚ね? やっぱり全部同じだった。 画像にあった日付も、アルバムに挟んでた写真に記録された日付そのものでさ? それでさ、それでさ? 全てを理解した瞬間、私は……私は……どうしていいのか分からなくなった」


「恋ちゃんが、蓮の事好きだなんて全然分からなかった。まさかだとは思ったけど、それを聞く事なんて到底無理で。どうしようどうしよう、恋ちゃんも蓮の事が好き。しかも遠い場所でずっとずっと思い続けてる。そんなの知らないで、私はいっつも蓮と一緒に居て、隣に居て、幸せ感じて……それを恋ちゃんはどんな顔して見てたんだろ? 感じてたんだろ? 蓮の事は好き、大好き。でも……恋ちゃんもとっても大切。その戸惑いに、苦しさに、悲しさに……私の心は常に揺らいでた」

「凜……」


 ヤバい……それなりに覚悟はしてたつもりだったよ。もしかしたら驚くような事や衝撃な事言われるんじゃないかってさ? でも……それは俺の想像を超え過ぎてる。


 恋との面識が昔からあったって事。

 凜は小さい時から俺の事好きで、それが引き金となって高梨家の養子になった事。

 そして……恋もまた俺の事好きだったって事? 

 それを知った凜は、俺か恋か……常に心が揺れていた。


 信じられないさ? 信じろって言う方が無理だろ? でも、目の前の凜が……嘘言ってる様には見えない。俺にとって、普通に考えたら有り得ない事だけど、凜や恋にとっては……紛れもない事実。


 しかも……凜が言う通り心が揺れてたって言うなら、辻褄が合うんだ。そう……合ってしまうんだよ。


「なぁ、凜。話してくれた事って……事実なんだよな?」

「うん。全て事実だよ」


「そっか、もしかしてさ? そんな事があったからなのか?」

「……あの日。沢山の出店に祭り囃子が鳴り響いてた夏祭りの日。この場所で、あなたに告白されて……嬉しかった。本当に嬉しかったぁ。でもその嬉しさはどこか物足りなくて、どこか不安で。そんな時、頭の片隅に……恋ちゃんが居た。どちらかを決めないといけない……そんな状況を目の前に、私は……」


「逃げ出しちゃったんだ」


 逃げ出した……?


「蓮も知ってる通り……告白を断った。その瞬間、私はね……昔の自分に戻っちゃったんだ。自分の言いたい事も言えない、周りを気にする内気な……昔の私にね」


 なっ、なんだよ。じゃあ……あれか? 凜? お前がもしあの日、恋の携帯見てなかったら? 恋の気持ちに気付いてなかったなら、俺達は今頃お互いの気持ち確かめ合って……2人変わらず春ヶ丘に行ってたって事なのか? 


「そのせいで、蓮をいっぱい傷つけた。たくさん後悔した。それから連絡も取れなくて、話も出来なくて、何にも出来なくて……蓮が鳳瞭行くって聞いて、自分も行けばよかったのに足がすくんでさ? 結局少し近い京南受けて……自分でした事なのに、未練タラタラで私どうしようもない馬鹿なの」


 なんて……答えたら良いんだよ。俺はあれからお前の事信用できなくて……嫌いだった。

 近くに居たくなかった。でも……ずりぃよ? しかも……遅えよ。なんで……なんで……このタイミングでその全てを聞かなきゃいけないんだ。俺は……俺は……


「でも、今私はここに居る。目の前にはあなたが居る。何もかも曝け出して、嫌われても良い。それでもあなたには私の全てを知って欲しかった。そして私は、私は……勇気を振り絞った、あの瞬間の自分を取り戻したいっ!」



「はぁ……ふぅ……ねぇ、蓮? 私、高梨凜は……あなたの事が好き。ずっと横顔を眺め続けて、ずっとずっと思い続ける程に心奪われて……もう、あなたと離れたくない。あなたの事を離したくない! だから……だから……」



「私と……付き合って下さい」



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