第141話 高梨凜

 



 この場所に来るのは、あの時以来。

 景色も全然変わってない……って当たり前か。


 思い起こせばあの日、あの夏祭りの日。それは私にとっても大切な日に……なるはずだったんだよね?

 蓮が珍しく、自分から遊びに行こうって言ってくれた時点で……もしかしたらって思ってた。

 そしてこの場所で告白されて、とても嬉しかったなぁ。でもさぁ……その瞬間私は、昔の自分に戻っちゃった。


 今更後悔したって遅いのは分かってる、取り返しがつかないのも分かってる。

 大切な人を傷付けて、恨まれたって仕方ない。

 でもね……小さい頃からずっとずっと、


 私は蓮が好き……




 私が蓮と出会ったのは4歳の頃。何気なく近くの公園行ってみたら。1人で遊んでる男の子が居たんだ。


『俺は月城蓮っ! 宜しくな』


 こっちに気付いた瞬間、まさかの自己紹介。ふふっ、今思えば、この頃から蓮は蓮だったんだよね? しかも小さいのにもう1人でブランコに乗っててさ? 凄いって思ったっけ? 


 そんな私はというと、恥ずかしがり屋で自分の意見とか言うのが苦手だった。でもそんな私を蓮はいっつも引っ張ってくれた。友達も出来て、いつの間にか私は楽しくて笑ってたっけ。 


 そしてあれは……忘れもしない出来事。

 ある日いつもの様に皆で遊んでたら、ある子がジャングルジムから下りれなくなってさ? その時蓮は急いでジャングルジムを上がって……


『大丈夫だ! 俺の手を掴めっ! 信じろっ!』


 その言葉と、真剣な蓮の横顔が……とっても格好良くって、それこそ白馬の王子様みたいに見えちゃって。その一瞬で心を奪われちゃった。


 それからずっと私は蓮の事が好き。

 保育園も一緒で、行くのも一緒。帰るのも一緒。その後で遊ぶのも一緒。常に横には蓮が居てくれて……それだけで私はとっても幸せだった。そしてその関係は小学生になっても中学生になってもずっと変わる事はなかったんだよ。


 小学校の時は、蓮ってスポーツ万能だからさ? 女子達から結構人気あって……だから余計近くに居て、口には出さないけど私なりにガードとかしちゃってた。

 今思えば結構大胆だったかも。


 中学校では蓮はサッカーに夢中。私もサッカー部のマネージャーやりたいなぁって思ってたけど……思春期ってやつかな? ちょっと近付きすぎ? とか変に気になっちゃって、生徒会なんて真面目な所に所属してた。

 でも、登下校は一緒だったし教室でも話はするし……途中でさ、蓮に距離置かれちゃうかもって心配になった時もあったよ? でも、蓮は全然変わらなかった。


 バレンタインだって、恥ずかしかったけど毎年手作りのチョコをプレゼントしたよ? 蓮はそれを毎年笑顔で受け取ってくれた。

 ホワイトデーには蓮からクッキー貰ってさ? 嬉しくて嬉しくてなかなか食べれなかった。

 お互いの誕生日には欠かさずプレゼントを渡してたし、クリスマスも必ずどっちかの家でパーティ。夏祭りも初詣だって毎年一緒に行ってた。


 それにね? 時々クラスメイトから、


『ねぇねぇ、月城君と付き合ってるんでしょ?』


 なんて言われると……建前では否定しても、心の中ではとっても嬉しくて……それを本当に望んでいたんだ? あの時までは……


 別にその人を恨んでる訳じゃない。だっては全然悪くないんだよ? そう……ただ私が余計な事して見ちゃっただけ、知っちゃっただけ。


 でもそれから……私の心はずっと迷いっぱなしだった。

 私がこんなにも蓮の近くに居ても良いのかな? 

 その人はそれを見てどう思うのかな? 

 それは同情なのかもしれない。でも仕方ないよ、その人は私にとって蓮と同じ位大切な人なんだもん。


 だからこそ、見なきゃ良かった。知らなきゃ良かった。


 2人との関係を壊さずにいる為には、蓮とあのままの関係で居続けるしかなくって、私はいつしかそれを……望むようになったんだ。


 そして訪れた、あの夏祭りの日

 。私は嬉しかった。けど苦しかった。

 どうしたら良いのか分からなくて、分からなくて結局……


 蓮を……悲しませた。


 蓮の後ろ姿を追い掛けることが出来たのに、足が動かなかった。

 クリスマスだって誘えたのに、初詣にだって行こうって連絡出来たのに……指が動かなかった。

 椅子に座ってる蓮に話し掛ける事が出来たのに、声が出なかった。


 ―――振ったくせに何話しかけてんだよ―――


 言われてもないのに、蓮にそう言われてる気がして……近付けなかった。おかしいよね? 自分で振っといて……バカみたい。


 でも、私は何もできなかった。蓮が鳳瞭に行くって聞いて、自分も受ければ良いのに……自分がした事への後ろめたさもあって、少し近くにある京南にしたりさ?

 

 理不尽なのは分かってる。でも、やっぱり蓮の事が忘れられなくて……だから交換学習の話が出たとき、迷わず手を挙げたよ?


 そして出会えた……月城蓮に。

 1年ぶりの会話は緊張したけどさ、なんか蓮は意外と普通な感じだったよね。それで、話してる内にその理由は分かった。


 蓮は鳳瞭で自分の居場所を見付けたんだって。

 蓮の隣には、鳳瞭学園で出会った人達が沢山居て……もう満席状態。

 私が追いかけてたあの場所は、もう空いてなかった。


 無理矢理入り込もうと、ちょっとは頑張ったんだけどね? たはは……全然スペース空かなかったよ。


 でも、後悔はしてない。何も出来なかったあの頃とは違って、行動に移せたから。アプローチだって出来たよ?


 だから、これは神様がくれた最後のチャンスだと思う。

 あの時の気持ちを取り戻す為の……そして、蓮に自分の気持ち伝える為のっ!


 だから私はもう逃げない。言わないで後悔するのはもう嫌っ!

 ちゃんと伝えて、気持ち思いっきりぶつけて……過去の自分と決別するっ!



 ジャリ、ジャリ


「よう、凜」


 その声は何度も聞いた事のある声、何度でも聞きたい声。

 蓮、来てくれたんだね?


 その声に呼ばれる様に、ゆっくりと後ろを振り向くと……


「来てくれたんだね」


 そこには蓮が、月城蓮が立っていた。


「まぁな、色々聞きたいこともあるし」


 そっかぁ。話したんだね、恋ちゃん。


「黙秘は無しだぞ? 凜」


 もちろんだよ? 蓮。なんでも聞いてよ?


「もちろんだよ」


 私も包み隠さず……


「じゃあ、とりあえず聞かせてもらおうかな? お前……いや?」


 全てをさらけ出すから。



「お前達……の話を」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る