第136話 えっと……確信犯じゃないです。本当です
お化け屋敷のオープンから数時間。
あのドタバタからどうなる事かと思ったけど、心配だった客足は……
「きゃー!」
「ひっひぃ」
思いのほかと言うより、想像以上に伸びている。
ピロン
ん? ストメ? だれから……栄人?
【舞台班どうだ? トラブルもない感じか?】
【とりあえずは大丈夫だ】
【良かった。そんな舞台班に朗報!】
ヤバい、とんでもなく嫌な予感しかしない。
【本当に朗報か?】
【もちろん。なんと受付のイス満席】
受付の椅子って、待ってる人用の椅子の事だよな? 結構な数用意してた気がするけど……こう言っちゃあれだけど、この時間帯であの数が埋まってるの?
【さらに朗報、廊下までもはや並んでる】
はぁ? 廊下まで? 結構驚きなんだけど……そうなると違った問題出て来ないか? そう、待ち時間っ!
【それ大丈夫か? 待ってる人達の飽きとか?】
【あぁ、その辺は大丈夫】
お前の大丈夫は信用ならないんだよなぁ。
【大丈夫?】
【このお化け屋敷の簡単なPV作ってさ? それスクリーンで流してるから】
……PV? ちょっと待て? 俺はそんな物の存在一切知らないんですけど?
【PVってなんだ?】
【こういう事態に備えて、日城さんの提案でな? 前日準備終わった後で少しばかり衣装借りて、少しばかり中の様子撮ってうちの阿保が編集したんだ】
マジ? 昨日の今日で作ったのも凄いし……恋の奴この状況すら考えてたの?
【マジかよ?】
【受付班って舞台班の手伝いもしたけど、体力的には全然楽だったしさ? これ位は余裕】
そいえば昨日の準備終わった後、受付班の奴ら残ってたもんなぁ。今日の為の打ち合わせとかやってるのかと思ったんだけど、そういう事か。
けど、中でも待ってる人は良いとして、廊下で待ってる人はどうすんだよ? しかも待ってるって言っても、2組の廊下は半分近くお化け屋敷に使ってるし……
【なるほどな。あっ、それはそうと中で待ってる人は良いとして、廊下で待ってる人達はどうすんだ?】
【あぁ、それも何とかなりそうだぞ?】
なんとかって……
【何とかってなんだよっ!】
【いやぁ、廊下封鎖するから1組と5組の委員長には挨拶してただろ?】
まぁ、廊下封鎖する訳だし……前もってその辺は内諾貰ってたよな?
【あぁ】
【1組って夏祭り風屋台やってんだよ、輪投げとかな? 待ってる人達、こぞってそこで暇潰してんだ】
あっ、なるほど。それだったら待ってる人も苦にならないし、1組としては売り上げ増に繋がってるって訳か?
【なるほど、大体は理解した。良い感じにウィンウィンな関係になってるって訳だな?】
【そゆこと。あっ、だからさ? 俺、蓮にストメしたんだよ】
単なる状況確認だけじゃなかったって事か……?
【ほう、本題はなんだ?】
【お客さんお化け屋敷に入れる時間、少し縮めるから舞台班頑張ってっ!】
はっ、はぁ? マジで言ってんのか? 他のお客との合流を避ける為に設けた時間設定だぞ? 大丈夫か? しかも、お前何さらっと頑張って! なんて言ってんだよっ! 小道具直したり、脅かし役が元の位置に戻ったり……それも今以上に素早くやれって事じゃねぇかっ!
【おい! それ恋にも確認取ったのか? お前の独断じゃないだろうな?】
【ちゃんと許可貰ったぞ? 実際受付とかの状況見てもらったし? それに日城さんから、ツッキーなら絶対上手くやってくれるよってお墨付きも戴いたし?】
……恋のやつっ! それって絶対褒めて言った訳じゃないだろ? 絶対に適当だろ? くそぉ。しっ、仕方ない。総合責任者のお墨付き貰ったからには……やりきるしかない。
【わかったよ。なんとかするわ】
【さすがっ! 頼んだぜ?】
ったく、なんかお前余裕綽々な感じで腹立つわ……まぁ栄人へのいたずらは後でじっくり考えるとして、とりあえずはお客の入り時間の変更を舞台班に教えなきゃな? それと……上手い具合に鼓舞かぁ。
【舞台班連絡。お客さん多数の為、入り時間の間隔が短縮されます。今まで以上に素早い行動が必要になるけど……お互い状況を確認しつつ、なんとか頑張ろう】
……忙しくなるぞぉ。
【入り時間の短縮なんて無理だよぉ】
明石、お前は馬車馬の如く働けぇ!
【明石の言う通りだってー】
高橋っ! お前もだっ!
「ぷはぁー!」
かつてこれ程、国民的炭酸飲料を美味しく感じた事があっただろうか? 渇いた体に染み込むそれは、まさにガソリンと言っても過言ではない。
そして良い感じに体を包み込むそよ風が、さらに体を癒してくれる。
いやぁ、教室の中は怖さ引き立てる為に涼しいはずなんだけど、変な汗出っぱなしだったなぁ。幸い今のところトラブルもないし、少しは休んでも良いでしょ?
「あっ、月城君」
一時の休息。そんなリラックスタイムの最中、耳に入って来たのは女神の声。癒されるランキング2位の声を忘れる訳がない。
おっ、この声は早瀬さん?
直ぐ様その声の方へ視線を向けると、
「やほーしろっち」
「ちょっとー、疲れたんだけど月城?」
あはは……
そこには早瀬さんと、沼北コンビが御一緒していた。
えっと、まぁ良いじゃない? なんか若干1名に早速愚痴言われてますけど。
「かなりのお客さんだね? 月城君も色々お疲れ様」
「いやぁ、そんな事ないよ。3人の方が疲れてるでしょ?」
「めちゃくちゃ疲れたー」
「ちょっと包帯の部分痒くなっちゃった」
少しは謙遜しなさいよっ! って、そんなガラじゃないかぁ、この2人は。
「ふふふっ、でも恋ちゃんに比べたら私なんて……」
ほら見なさい? この早瀬さんの慎ましさ。これこそ……ん? そいえば恋と一緒じゃないのか? 確か休憩時間同じだったはずだよな?
「あれ? そういえば恋は一緒じゃないの?」
「あぁ、日城さん? なんか結構忙しそうだったよね?」
「総合責任者だからねぇ、分からない事あったら皆日城さんに聞いてるもんね?」
おいおい、マジか?
「恋ちゃん大丈夫かな? なんか無理してる気がするんだ」
待てよ? これは……全然大丈夫じゃなくね? 朝から動きっぱなしじゃないか? やる気十分なのは良いけど、休む時に休まないと絶対に潰れる。それは色んな部活を体験して、嫌と言う程聞いてきたじゃないか。
「ヤバイな? ちょっと行ってくるよ」
「あっ、月城く……」
早瀬さんの言葉を聞いた瞬間、嫌な予感が頭を過る。
恋はいつも明るい。それはこの文化祭の準備をしてる時も変わらなかった。だからこそ……俺を含めて皆思ってたはず。恋はやっぱり凄いって。
でもさ? 自分が提案したお化け屋敷……何がなんでも成功させたいって誰だって思うだろ? 恋だって例外じゃない。
俺だってどこかで思ってたんだ、恋なら大丈夫だって。でも、恋だって人間なんだ、普通の女子高生なんだ。
そんな人が抱える、提案したってプレッシャー。総合責任者って重圧。皆の期待……それらが引き起こす可能性だってあるんだ。
……オーバーワーク。
1日中働くなんて、ハッキリ言って無謀だ。合間合間で休めるならいいけど、恋の性格上笑って遠慮しそうだ。だったら尚更、直に行って力づくでも休ませないと。
そんな焦る気持ちが、自然と足を早める。もしかしたら滅茶苦茶ダッシュしてたのかもしれないし、皆に変な目で見られてたかもしれないけど、正直……良く覚えてない。
だってさ? 気付いたらお化け屋敷近くの廊下で、恋の姿見つけてたし、考えるよりも先に、体が反応しちゃってたんだよ?
それ位、恋の事が心配になって仕方なかった……
「恋っ! 行くぞ!?」
皆の目の前で、手を掴んでさ?
「えっ? えぇ?」
無理矢理……
「ちょっ! ツッキー!?」
連れ去るくらいね。
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