第133話 あのぉ、幸先不安なんですけどっ!

 



「1組と5組に挨拶してきたぞー」

「サンキュー栄人!」

「それじゃあ、ミーティング始めましょっか? じゃあ受付班の皆集まってー」


 そんな恋の声と共に、黒板前に集まってくる受付班の皆。

 そう、ついにこの日が来たんだ……鳳瞭学園文化祭。って、こうやって見ると受付班も結構な人数なんだなぁ。改めて3組合同ってのを思い知らされるわ。


「じゃあとりあえず、受付班責任者の片桐君から一言お願いしまーす」

「皆おはよう。とりあえず受付班としては、明るく元気に行こう。その方がより一層お化け屋敷に入った時の恐怖感が生まれるからさ? あと、交代表とかは前に渡してると思うし、なくした人居たら俺に言ってくれれば全然問題ないから。それじゃあ皆2日間よろしく」


 おぉ、やっぱりまとめ方は上手いよなぁ。士気を高めつつ、プレッシャーにならない様な声掛け。これで普段俺に与えるストレスが無ければもうちょっと尊敬出来るんだろうけどね。


「はい、ありがとう。ツッキー? 舞台班の皆は大丈夫?」

「さっきミーティングしてきたから大丈夫。もうスタンバイ完了だよ」

「了解っ! じゃああと少しでお化け屋敷スタート。それじゃあ皆さん……ガンバロー!」


「オー」

「おー!」

「おぉぉ」


 よし。あとは全体を見つつ何かあったらすぐ対応。やっぱ委員長なんてやるんじゃなかった、意外と全体見るのって疲れるよなぁ。


「よっし、じゃあ私達も配置に就こう。じゃあ受付班責任者片桐君っ!」

「はいよっ」


「受付からお化け屋敷に入る時のギャップの差で、先制攻撃したいから明るく……楽しくね?」

「了解ぃー!」


「次っ、舞台班責任者ツッキー」

「あいよー」


 あの、恋? いまさら何だけど舞台班っておかしくね? 作業班とか……その方がしっくり来ない? でもまぁ恋から言わせたら、お化け屋敷の中は演じてくれる人にとっては舞台そのものだよ? だから舞台班で良いのー! って事らしいし……総合責任者の意見には口は突っ込むまい。


「ルートやセッティング。お化け屋敷の物語設定とか、私達3人で考えたんだから自信持って行こう。それにふさわしくお客さんを……思う存分怖がらせちゃって?」

「はははっ、まぁやるからには全力……だろ? 苦情が出る位怖がらせてやるって皆張り切ってたから大丈夫」


「その言葉、かなり頼りになるよっ! それじゃあ……戦慄迷宮鳳瞭病院ー」

「スタートっ!」

「始まりだぁ!」

「開院っ!」


 なんか絶妙にまとまんなかったけど……まぁ、頑張りますか。




 ガラガラ


 うおっ! ペンライト渡されるって言っても、やっぱこの暗さはびっくりするぞ? 

 さっきも恋が言ってたけど、今回の俺の役割は舞台班責任者。まぁ簡単に言えばお化け屋敷内の全体的な管理者ってところかな? 物を動かすタイミングや、脅かし役がどんな感じでお客さんの所まで行くのか……皆で練習したもんなぁ。


 まぁだからこそかもしれないけど、恐怖という点に関しては結構自信があったりする。お化け屋敷の簡単な物語も3人で作ったし? 

 やっぱそういう設定があった方がお客さんも感情移入しやすいらしい(三月先生談)。実際物語も結構怖かったりするし……後はどれ位お客さんが来てくれるかって事だけだな。


 さてと、とりあえずは廊下を歩いて3組の教室に入るんだけど、その前にあるのが病院名が書かれた簡易的な門と……


「こんにちは……あらやだ、物好きな人も居るものね?」 

「こんな寂れた病院に何の御用かしら? ……って月城じゃねぇかっ!」


 鳳瞭病院の受付が待ち構えている。


「ははっ、さすが練習した甲斐があったみたいだね? 言い方もセリフもバッチリだよ」

「ちぇっ、早速の1番客かと思って気合入れたのによー」


 おっ、いつになくやる気満々じゃないか沼尾さん。しかしながらお客さん来た時はブザーで教えるってミーティングで言ったじゃないかぁ


「あっ、そう言えばしろっち? そのペンライトで私達の衣装ってちゃんと見えてる? 結構気合入れたから見えないとやり損なんだよねー」


 衣装か……とりあえず受付には長机使ってるから、上半身から下半身までは見えると思うけど……どれどれ? 


「ちょっと待って?」


 えっとまずは沼尾さんか……足元は白のパンプスにストッキング。んで? ……あれ? あのスカートが見当たらないんですけど? ちょっ、膝見えてるし? うおっ、まさかの膝上ナース服! もしかして昨日凜が持ってた……


「おっ、おいっ! 月城っ! 私のは見なくて良いんだよっ! てかジロジロ見過ぎだぞっ!」

「えっ!? あっ、あぁごめん」


 いや衣装としては血糊も付いて、破れてる所が雰囲気を出してるけど……いかん、ちょっとお化け屋敷だって事忘れてたわ。


「えっと、じゃあ……」

「私のちゃんと見えてる?」


 北山さんか……こっちは見ても良いんだよね? 了承済みでしょ? えっと、まず下が……はっ、裸足? しかも足首辺りから包帯が巻かれて……ちょっと? ふくらはぎから膝まで続いてるんですけど? はっ! まさか? 


 ペンライトをゆっくりと上に向けていくけど、北山さんの体はどこまでいっても服と言う服が見えなくって、ただひたすら包帯が続いていた。


 ちょっと待って……北山さん? まさかあなた全身血塗られた包帯で包まれた、何ともエロティックな格好……


「どう? 見えてる?」


 そう言って長机の上に頬杖を突く北山さん。そうなれば必然的にその部分にペンライトを当てる訳で……えぇ、腕にも上半身にもありましたよ? 包帯だけね?


 おいおいおいっ! 北山さん、その格好はヤバいでしょ? 包帯のみよ? てか良くその格好しようと思ったね?


「おーい、しろっち?」

「あっ、うん! 見えてる見えてる」

「本当? 良かったぁ」


 しかしその格好大丈夫か? なんか恐怖よりそっちに目が行きそうな気がするんですけど?


「あっ、ちなみにしろっち?」

「ん?」


「ちゃんとタンクトップと短パン履いてるから安心して?」

「ははっ、もちろんそうだと思ったよ?」


 あっぶねぇ、結構見透かされてたじゃないかっ!




 ふぅ。なんか始まる前から別の意味で疲れちゃったんだけど? とりあえず沼尾さん達みたいにお客さんだって思われない様に、声出しながら行くか? ミーティングの時ブザーの事言ったよな? 


「月城だぞー、お客じゃないぞー」


 こんな感じで……うん、最初の脅かしポイントである突然のうめき声が聞こえないって事は大丈夫。どれ、控えてる場所はっと、


 少しだけ出っぱた部分。そこには、ここぞというタイミングで小道具を発動させる仕掛け係が待機してる。そこの布をぺラッとめくると、


「あっ、月城。別に喋らなくても、ブザーでお客さん来たの教えるって言ってなかった?」


 明石と高橋が椅子に座り、俺の方へと顔を向ける。


「あぁ、悪い。でも念の為な?」


 おっ、やっぱり俺言ってたじゃん。沼尾さんめ。


「でもそろそろだろ? 緊張するぜ」

「まぁな。でも練習通りやれば大丈夫だ。俺は端のスペースに居るから、なんかあったら携帯鳴らしてくれ」


「了解」

「はいよ」

「じゃあ頼んだ」


 仕掛け係も準備OKと、じゃあ俺は端のスペースに居るかな?


 明石達と話を終えると、俺は再びお化け屋敷の先へと足を進める。まぁ小道具もさることながら、この飾り付けとかもヤバいよな? 青い光が妙に不安を煽ってくるし……


 ピチャン、ピチャン


 おっ、BGMもスタートか? 薄っすらと聞こえる水滴の音、これもこれで良く分からないけど嫌な音だよなぁ。


「あっ、蓮?」


 そんな感じで自分達が手掛けたお化け屋敷を自画自賛していた時だった。

 暗闇の中からふと聞こえた声。普通なら、ペンライトでそっち照らして、顔が見えた瞬間驚くってのが定番なんだろうけど、残念ながらその声とこの辺り担当の人物が分かってるなら話は別だ。


 この声に、この辺り担当。にしても、そろそろお客来るかもしれないのに、なんか問題でも起きたのか? ……凜。


 そんな事を考えながら、凜の声がした方へペンライトを向けと、まぁ予想通りそこには凜がこっちに向かって歩いてきてたんだ。でも、


 うおっ!?


 それを見た一瞬、分かっていたにも関わらず少しだけ驚いてしまった。だってさ?


「蓮?」

「りっ、凜? お前その格好」


 顔には血糊に傷シール。しかも、服装は沼尾さんが着ていたのと同じナース服に身を包んだ凜がいたんだから。

 しかもスカート丈沼尾さんより短いし、上のボタンも1個外してるぅ!


「えっ? それよりさ、後ろにボタンあるんだけど、外れちゃって! 付けてくれない?」


 はっ、はぁ? ボタン? 俺がか? しかも後ろにもボタン付いてるってどんなナース服だよっ!


「ちょっと待て、なんで……」


 ビー、ビー、ビー


 そんな俺の声をかき消す様に、鳴り響くブザー音。これもまた聞き覚えのあるというか……舞台班の皆で嫌と言うほど耳にした音。だって、これが鳴ったという事は、


「ヤバイ、お客さん来たぞ!?」


 そういう事なんだ。


「えっ、どうしよう? 後ろスースーして脅かすどころじゃないよぉ」


 くっ、マジかよ。かといってコースの真ん中に居たら最悪。この暗闇でペンライト片手にボタン掛けるっても間に合うのか? ……仕方ないっ、俺の待機場所に行くかっ。あそこなら教室の端でしかも窓側。日光も入るし、とりあえずそこでボタン付けて、凜には現場復帰してもらうしかないっ! そうと決まれば、


「凜、とりあえず俺の待機場所行くぞ? あそこなら窓際で明るい!」

「うっ、うん。わかった! ごめんね?」

「大丈夫だ。気にするな!」


 とは言ったものの、下準備とか最終確認とかバッチリだったんですよ?


 それなのに……なんで初っぱなからピンチなんですかぁぁ!



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