第132話 前日準備

 



 放課後の3組。その教室で机を囲みながら、恋と栄人……そして俺は、準備の最終確認をしていた。


「うらめしやー」

「ギャー!」

「おーい、頼むから小道具とかは壊さないでくれよー?」


 ったく……でもまぁ、楽しいに越した事はないかな?


「とまぁ、各クラス準備は大丈夫ね? 後は時間になったらセッティング開始ぃ!」

「よっし、俺達委員長は自分のクラスに指示出しつつ、連絡取り合おうぜ?」

「だな。手が空いた所は他のクラスの手伝いに行く。場所が場所だけに準備をいかに効率良く出来るかで疲労度も変わるからな?」


 諸々の準備は出来てるし、あとは今日の準備のみ……ホント、今思うとあの合同開催決定日から全ては始まったんだよな。


 しかも? 途中乱入してきた2組もなんだかんだで一緒にやる事になり、世にも珍しい3つのクラス合同。まぁ単純に準備の効率3倍、人員も3倍に増えたのはありがたい事なんだけど……それに伴って、その中身についてはかなり苦労した。


 当初、3組と4組の間の廊下に受付を設けて、それぞれの教室に違ったコンセプトのお化け屋敷を用意。くじ引きでどちらに入るかを決めるって感じで、恋は考えていたらしい。

 例えば洋風・和風の2種類を用意すれば、その時点でお客さんの興味を引けるし、片方に入ってくれた人は終わった後にもう一方も気になって、リピーターとしてまた来てくれる可能性が高まる。

 まぁ人間の心理を理解してるし、良く練られた案だと思ったよ? ただ問題は……どこがどんなコンセプトのお化け屋敷にするかって所。


 このクソイケメン委員長乱入のせいでさ? 3クラス合同になったけど、最初は趣旨自体は変更しなくても良かった。

 真ん中の3組を受付にして、そこから2組・4組に案内する。俺達3組は受付の内装と、後は適当に他のクラスの手伝いって事で準備としては結構単純明快。

 でもいざ各クラスで内容を決め様としたら、結構揉めたらしい。和風か洋風か、あとは病院とかって……まぁ色々あるしね? しかもクラス内で決まったと思ったら、2組と4組で丸被り。しかも恋と栄人が妥協しても、クラスの人達は意見曲げなかったり……まぁ大人数の難しさだよね?


 そして結局、大幅に内容自体を変えたんだ。

 いやぁ、大変だったよ。まぁでも、


「あっ、ツッキー? もう4時だよ? 壁とかの飾り付け解禁だよっ!」

「おっし、じゃあ2組の連中にも声掛けて来るわ」

「そんな時間か? じゃあ一気に完成させますか!」


「戦慄迷宮鳳瞭病院!」

「戦慄迷宮鳳瞭病院っ!」

「戦慄迷宮鳳瞭病院ー!」


 どうにかこうして、1つの形に出来て良かったよ。




「月城―、もう廊下にもマルチブラックシート貼っても良いんだっけ?」

「4時過ぎたから問題なしっ! 日の光入ったら雰囲気も台無しだからガンガン行っちゃってくれ」

「了解っ!」


 よっし、窓の遮光も順調だな。


「頑張ってるかいツッキー?」


 ん? この声は勿論……


「あぁ三月先生。今の所は順調ですよ?」

「おっ、完全遮光布。良い感じ?」


 完全遮光布? そんな名前なんですか? いや、これ系の資材三月先生にお任せしましたけど……確かにすげぇんだよな。昼間に試しで太陽にかざしてみたけど、完全シャットアウト。つまり夕焼けなんて……


「見ての通りバッチリですよ」


 容易に遮れちゃうんです。


「おぉ、素晴らしいっ!」


 てか、そもそもこんなシート……じゃなかった、完全遮光布? こんなのどこで仕入れてきたんだよ。


「あの三月先生。去年のメイドとかの服装といい、今回の資材といい滅茶苦茶お世話になってますけど、こういう資材って一体どこから仕入れてるんですか?」

「ん? まぁ、服に関しては妹達が喜んでやってくれたし、資材だって簡単だよ?」


 かっ、簡単?


「だって、忍者村で使ってるの持っ……借りただけだもん」


 マジで? 烏山忍者村で使ってる資材って、そりゃすげぇ訳だわ! でも三月先生、聞き間違いですか? 若干持って来たって言い掛けてた気がしたんですけど……


「そっ、そうなんですか? いやぁ、烏山の皆さんって優しいんですねぇ」

「そっ、そうなんだよ! はははははっ」


 三月先生、あんた完全に黙って持って来やがったな? あのー頼みますからバレても俺達の名前は出さないで下さいよ? はっ! だったら尚の事、これ以上変に突っ込まない方が身の為だな。


「いやぁ、でも良くこんなの考えたなぁ。ツッキーだろ? この配置ってかアイディア」


 ん? あぁ、まぁそんな大層な事でもないですけどね?


「まぁ、一応は。でもそんな事言ったら、これの許可貰うために生徒会にプッシュしてくれた三月先生達のおかげでもありますよ?」

「あたしゃ何にもしてないよ? むしろ先輩の方が熱入ってたけどね」


 先輩って……鷹野先生かっ! 確か恋のクラスの担任だったよなぁ。


「鷹野先生が?」

「うん。前例のない事に挑戦する気持ちと行動力は、絶対に将来あの子達の力になりますっ! ってね? あの姿……ありゃ惚れちゃうね」


 おぉ、そんな事を? どちらかと言えば熱い先生だって感じはしてたけど……マジでそんな事言ってくれたんなら、男の俺から見てもカッコいいわ。


「いやぁ、だったら尚更成功させたいですね」

「ふふふっ、烏山忍者村を知り尽くした私からしてみたら……間違いなく注目されると思うよ? まさか教室2つに廊下までお化け屋敷の一部にしちゃうなんてね?」

「だからこそ、本当に感謝です。3組と4組まで廊下を完全封鎖……でもその分準備も増えちゃいましたけどね?」


 そう、これが俺の考えたお化け屋敷。って言っても? どっちもコンセプト譲らないし、お互い納得するにはこれしかなかった。


 お互いに譲らなかった廃病院。それをコンセプトに据え、2つの教室と廊下まで含めた巨大お化け屋敷。それが、


 戦慄迷宮鳳瞭病院!


 あっ、ネーミングは恋はだから? 考えたのは恋だから?


「しかも2組を受付にして、後ろの扉からスタートって言うのも雰囲気出てるよね? 教室の半分位から廊下も完全に封鎖してるし、2組入った瞬間から周りと切り離された空間って感じだもん」


 それは我ながらそう思います。学校に居ながら、受付に入った瞬間別世界。実際、スタートしたらその先は出口まで密閉された空間。それだけで恐怖心は急上昇でしょ。


「自信はありますけど、こればっかりは当日じゃないと分からないですからねぇ……」

「あっ、蓮? ちょっと!」


 ん? この声凜? なんか問題でもあったか? とりあえず行くか。


「あっ、それじゃあ三月先生、俺行きますね?」

「おぉ、頑張れよ?」


「楽しみにしててください? 三月先生?」

「にしし、了解ー!」


 そんな具合で三月先生に背中を向けると、俺はその声の下した方へ歩いて行く。

 えっとー、確か凜は4組の方を手伝ってるはず? となれば、ここに……居たっ。


 4組の扉は両方とも外されてて、なんとなく解放感にあふれている気がする。そしてだからこそなのか、凜を見つけるのもあっという間だった。とは言っても、結構入口の近くに居たんですけどね?


 いたいた、しかもこんな入り口近くで何やってんだ? 


「おーい、どうした?」


 後ろを向いているけど、ジャージのの違いでそれが凜だってのは明らか。それで一体何の……


「蓮? これ見て? 凄いよ!?」

「うおぁ!」


 それは全く予期していなかった出来事。なんせいきなり立ち上がったと思ったら、ものすごい勢いでこっちを振り向き、極めつけは……少し破け、赤い何かで汚れたナース服を俺に見せびらかしてきたんだから。


 はっ、はぁ? なんだよいきなり。しっ、しかもこれってずいぶん汚れてる感じだけどナース服?


「脅かさないでくれよ。しかもその手に持ってる小汚いナース服はなんだ?」

「小汚いとは失礼だよー、これもれっきとした衣装! 廃病院に佇むナースがテーマらしいよ?」


 佇むって……けどまぁ、切れてる感じとかそれとなく自然な感じだし、暗がりの中これがあったら怖いだろうなぁ。


「なっ、なるほどな。よくよく見れば雰囲気は出てるかも」

「これ明日着ちゃおっかな?」


 ん? 着る? このナース服を? 結構破れてるぞ? しかもスカートの丈も……見る限り膝上辺りなんですけど?


「着るって……結構際どくないか?」

「そうかな? でもさ、着てみたいんだ」


 ほぅ、凜って結構こういう露出度高めなものに関しては引けを感じるタイプだと思ったんだが……やっぱ1年で変わるもんなのかね? まさかこんなに積極的だとは。


「珍しい事もあるもんだな。てっきりこういう系は苦手だと思ってたんだけど」

「そうかもね? でも……」


 でも?


「大事な思い出作りたいんだ?」


 大事な思い出? 何をそんな大層な事を。


「思い出?」

「うん。だって……」



「文化祭終わったらさ? 交換学習も終わりだから……」



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