第131話 全く想像がつきません

 



 合同でお化け屋敷?


 そんな突然の提案に、俺を含め早瀬さん達も一瞬言葉を失う。しかしながら、恋はそんな俺達の反応なんて想定済みだったみたいで、


「まぁ話だけでも聞いてよ? じゃあちょっとお邪魔するね?」


 そう言い放つと、スタスタと教壇の方へ歩いて行く。そして目の前に到着すると同時に、 躊躇する事無く自己紹介を始めるのであった。


「という訳で、4組で学級委員長してる日城恋って言います」


 おいー、相変わらずの行動力なのは認めるけど、おそらく……


「4組の学級委員長?」

「どうしたんだろ?」


 やっぱりってか普通に考えたらこうなるでしょ? 隣の組の学級委員長が突然来て自己紹介始めるんだぞ? ザワザワもする。


 隣組の学級委員長登場に、それなりにざわつく我が3組。しかし恋はそんな少々のざわつきなんてお構いなしに、教壇の前で話を続ける。


「あっ、そう言えばツッキー?」


 うおっ、いきなり俺に振るのか?


「なんだ?」

「聞いてなかったんだけど、3組は何やるかはもう決まってるの?」

「いや? 候補の中から決めて……」


 はっ! そう言えばメイド&執事カフェの話してる最中だったんだ! 待てよ? 今の恋が来たという出来事に乗じてサッと話し自体無かった事に出来ないか? 


「そっ、そうっ! 3つの候補の中からねっ!」

「なるほどっ! だったら丁度良かった。3組の皆さんに提案があります」


 合同のお化け屋敷か……確かに合同でやるって考え自体斬新ではあるけど、果たして皆がどう捉えるか。


「是非、私達4組と合同で……お化け屋敷やりませんか?」

「えぇ」

「マジ?」

「合同だってよ?」


 こうなるでしょうね? しかも俺達だって詳しく聞かされてないからフォローも出来ないし……大丈夫か恋? 


「はーい、質問」


 そんなザワつきが治まらない中、悠然と手を挙げるその人物の名は……北山弥生。まぁ1人そんな事してたら逆に目立っちゃう訳で……


「はいっ! どうぞ?」


 皆の注目の的になるのは当然で、一気に教室の中が静かになる。


「まず、お化け屋敷ならなんで4組だけでやらないのー?」


 おっ、至極真っ当な質問だ。


「良くぞ聞いてくれました。ちょっと込み入った話になるんだけど、実は私って去年の文化祭でメイド&執事カフェやったんだけどね?」


 はっ! 恋っ? 今まさにその話は皆の記憶から綺麗に消え去ろうとしてたんですけど?


「あぁ、知ってるー。さっき話してたもんね。しろっちとか琴ちゃんとかもだよね? 結構評判良かったよねー?」

「そうそう。でね? どうせだったら去年のそれを越えたいなって野望があって……」


 やっ、野望? なんか言い方が違う雰囲気醸し出してますよ?


「だったらなんでお化け屋敷?」

「そこなんだよ、北山弥生さんっ! いや面倒くさいから、やよちゃんって呼ぶね?」


 いっ、いきなりフレンドリー過ぎじゃねぇか?


「4組の皆からも話は出たんだ? メイド&執事カフェにしようって、でもさ? 結構注目を集めた訳でしょ? 私はふと思ったんだよ、もしかしたら他のクラスでも同じ事やろうとしないかってね?」


 おっ、おぉ! 俺と同じ考えの人物がここにも居たぞ? ほらぁ、見てみろ? 4組だって同じ事考えてたじゃないかぁ。


「あぁ、確かにこっちでもその話なってたよひっしー。やっぱどこも考える事は一緒なのかね?」


 北山さん、あんたも普通にあだ名で呼んでるのね? もしかしてやよちゃんって呼ばれ方気に入った?


「おそらくね? 1年3組だった人達は見事7組全部にバラけたからねぇ」


 なるほど……言いたい事は分かった。けど、肝心な事を聞かないとな? なぜお化け屋敷なのか? そして合同でやる理由は?


「恋。大体の事の顛末は分かったけど、それでどうしてお化け屋敷なんだ? それに合同の意図は?」

「ふっふっふ。ツッキー、去年文化祭で何やるか決める時、話になったよね?」


 話……?


「あっ、文化祭で大事なのはいかに他のクラスと被らないか?」

「正解だよこっちゃん! さすが才色兼備超優秀書記官」


 何か凄い役職名だな? とはいえ、恋の言いたい事も分かる。まぁ恐らくこの感じで行くと他のクラスでもメイドカフェとか喫茶店系に集中するって事だろ?


「けどさー、私達がそう考えてるって事は、他のクラスでもカフェ系に集中するの避けるって流れになるのが普通じゃない?」

「その通りなのだよ? えっと……沼尾紅愛さんっ! 面倒くさいから、れあっちね?」

「れっ、れあっち?」


 良くもまぁ、ポンポンとあだ名思いつくねぇ。しかもれあっちって……ちょっと可愛らしいじゃないか。


「普通なら、れあっちの言う通りどこの組でもそんな流れになると思うんだ? でもそこまで別な事はやらないと思う。多分、接客の部分でインパクトあったからさ? 浴衣姿で屋台の接客とか……趣向をずらしつつも根本的には同じ事考えるんじゃないかなって」


 去年と丸被りじゃないにしろ、少しだけ真似るみたいな感じか……確かに有り得るかもしれん。


「そこでだよ、去年私達はプリティ&クールで注目を浴びた……とくれば、真逆の事をすれば被る可能性は少ないのではないかっ! って言うのが私の考えなんだ」

「なるほど、去年の傾向が今年に影響する。だったらいっその可愛らしさと真逆な恐怖……お化け屋敷とかなら他のクラスも思いつかない可能性が高いって事ね?」

「そゆ事、凜」


 あくまで可能性の話だけど……流行りを取り入れたいってのは人間の欲だもんなぁ。裏の裏をかくって感じ、やはり恋。ヨーマの元で修行してきただけの事はある。まぁそこまで考えるって事は、合同でやるイメージとかも考えてるんだろうな?


「なるほど、大体は分かった。けど4組だけじゃダメなのか?」

「そこなんだよねー。さっきも言ったけど、去年とは全く違う事をやりたいんだけどさ? それプラス、どうせやるなら去年の自分達を越えたいじゃない?」


 越えたいかぁ、なるほど。


「それで色々考えてみたんだけど、強烈なインパクト残すってなるとどうも教室1つだけだとボリューム不足なんだ? だからさ……3組4組合同で、巨大お化け屋敷どうかなって?」


「えっ、それって単純に脅かす人も2倍って事?」

「でもどうせなら最高に怖い位凝ってみたいよねぇ」

「休憩時間も多そうじゃね?」

「隣の佐藤さんとお近づきに……」


 なんか結構肯定的な意見がチラホラ聞こえるな。最後辺りは不純だらけな気もするけど。まぁ、俺的には合同でやる分には問題ないんだけど……あっそれはそうと、


「あのー、三月先生?」

「なんだい?」


「そもそもクラス合同で模擬店やってもオーケーなんですか?」

「うん。大丈夫だと思うよ? 禁止事項には合同でやる事を禁ずるっ! なんて文面もないしね?」


 それなら、生徒会としても問題ない訳ですな?


「そうですか。そんで、どう?」


 とりあえず、皆に聞く前に3組学級委員の意見を聞かないとね?


「ぶっちゃけ合同なんて考えもしなかったけどさ、いいと思うよ? 結構斬新だと思うし、どうせなら最強に怖いお化け屋敷にしてやろうぜ?」

「私も賛成だよ? 月城君」

「なんだか楽しみー」

「僕も……」


 軒並み賛成っと、じゃあ後はクラスの皆だな?


「はーい、じゃあ皆良いかな? 3組4組合同でお化け屋敷って案を頂戴した訳だけど、皆はどうかな? 一応学級委員としては賛成なんだけど、他にやりたい事とか意見ある人居る?」

「なーし」

「合同でやろうよ?」

「絶対面白いぜ?」

「うんうん」


 はい、決定です。まぁ、下手に反対する理由もないしね。


「じゃあ、反対意見はないという事で今年の文化祭は4組と合同でお化け屋敷という事で。皆よろしくお願いします」

「はーい」

「了解」


 ふぅ、とりあえずは助かったぁ。決まる気配無かったからどうなるかと思ったよ。ホント、恋に感謝だわ。


「てな感じだそうなので……どうぞよろしくお願いします」

「にっしっし。いえいえ、こちらこそお誘い受けていただきありがとうございます」


「そんじゃまぁ、詳しい中身は近々……」

「ゴッホン! ちょっといいかな?」


 一件落着。そんなのほほんとした雰囲気を一気にぶち壊す……不調和音。しかもそれは恋の後ろ……そう、扉の辺りから発せられる。


 おっ、おい? ちょっと待って? 嫌というほど聞いた事がある声だし? 嫌という程、ロクでもないタイミングで登場された事もあるんですが? これは……神様のいたずらなのか? 

 それとも……宿命なんですか?


 開いた扉。そこで満ち溢れた憎たらしい顔で、堂々と立ち塞がる……クソイケメン委員長。俺はそんな奴の姿に一抹の不安を覚える。


「その話、是非2組にも聞かせてくれよっ!」


 そんなフラグをいち早く回収されてしまう辺り、むしろ自分を誇るべきなのかもしれない。だけど……口を大にして言わせてもらおう。



 お前が関わるとロクな事起きないんだよっ!



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