第130話 突然の提案

 



「はい、じゃあ何か良い案ある人ー」


 俺の声が響いた瞬間、静まり返る教室。

 まぁね? ある程度予想は付いてましたよ? でもねぇ悲しいかな、必ず何かやらなきゃいけないんですよ? 文化祭はっ!


 そんな俺の願い虚しく、誰1人手を挙げず、誰1人口を開かず、誰1人目を合わせない。ハッキリ言って重傷だと思う。さすがはクラスでなかなか決まらないランキング上位3位に、毎年入って来るであろう行事。

 おそらく提案者=責任者ってイメージもあるんだろうな? 別にそこまで力入れる訳じゃないんだけど……


「ちょっと月城? 誰も意見出さないんだけど?」

「まぁ、そんな気はしてたんだけどね?」

「もうっ、そんな気がしてたなら一応候補位考えなさいよー」


 一応それは考えて来てるんですけどね……


「とりあえず候補3つ位は考えてるけど、まずは皆の意見も聞かないと」

「その意見、全く出る気配がないけど? いっその事さっさと月城の意見出しちゃって決めちゃおうよ」


 いやぁ、沼尾さんの意見はごもっと。まぁここまで出ないなら言っちゃってもいいかな?


「じゃあ、とりあえず言っても良いかな?」

「うん、いいよ月城君」

「わかった」

「任せたぞー」


 おい明石、お前だけ妙に適当な感じがして少し腹立つんですけど? お前にはちょっとキツめの事をやらせよう。高橋と共になっ!


「はいーじゃあ良いアイディアが出ないという事で、何個か考えてきました」

「おぉ」

「さすが委員長」

「やってくれると思ったぜ月城」


 社交辞令すぎるお言葉ありがとうございます。しかも途端に顔上げて目光らせやがって……高橋、お前は許さんぞ?


「とりあえずベターな物とかも含めて……喫茶店、お化け屋敷、夏祭り風屋台ってな具合で考えたんだけど……」

「喫茶店じゃない?」

「お化け屋敷でしょ」

「夏祭り風屋台良くね?」

「えーだって夏終わっちゃったんだよ?」


 ははっ、なんか去年見た様な光景なんですけど?


「あっ、しろっち?」

「何ー? 北山さん」


「去年楽しそうな事やってなかった? しろっちのクラス。確かメイド……」

「ストップ! 何を言ってるのかな? 北山さん? それよりこの3つの中でどれが良い?」


 危ねぇ! 俺達の去年の黒歴史を掘り起こされる所だったわぁ。いいか? あれは完全な黒歴史なんだぞ? そりゃあメイド服姿は目の保養レベルに高かった(特に恋)けど、あの恰好、仕草、言葉遣い……思い出すだけで寒気がする! 


 しかもこいつらの事だ。多分去年の盛り上がりを思い出した瞬間に、それで行こうぜー! って一致団結するに違いない。そして責任者は去年の経験者として俺と早瀬さん……あと明石か。安全かつ内容も決まる……なんとも万々歳な流れを見逃すはずないんだっ!


「あぁ、あれ結構好評だったじゃん? 執事……」

「ゴッホンっ! あれ? ごめん沼尾さん。何だって? 早く3つの中から……」

「ねぇ明石君? 去年3組だったんだよね? 話を聞く限りかなりの高評価だったみたいなんだけど、どんな事したの?」

「あぁ、メイド&執事カフェという男女両方をターゲットにした画期的な喫茶店をやったんだよー。高梨さん」


 あっかっしっ! てめぇ! なにベラベラ言ってんだよ!


「何それー楽しそう」


 お前も興味津々になってんじゃないよっ! 凜!


「ほらぁ、良い感じじゃん? それに経験者だって結構居るでしょ? 月城に琴ちゃんに明石とか? またやればいんじゃない」


 まっ、まずいっ!


「えっ、それ良くない?」

「あぁあれ結構斬新だったよな?」

「クオリティ高かったよねぇ」

「執事の格好って格好良かったよね?」


 あぁ、最悪だぁ。やっぱりこうなるんじゃないですかぁ……いやっ! 諦めるな蓮。なんとか活路を見出し、この流れを阻止するんだ。なにか……なにか否定的な意見を……


「あっ、でも衣装の問題が……」

「去年はどうしたの? 明石?」

「三月先生の妹様方に作っていただきました」


 おい? 


「全員分じゃなくてもお願いしてみたら良いじゃない? それに去年使った衣装はどうしたの? まさかプライベートで着てる訳じゃないでしょ?」

「あまりの出来の良さに演劇部に寄付しました」


 明石?


「なら去年使った衣装、演劇部から借りればいいじゃん」


 あーかーしー!お前は今この時をもって敵だ。悪魔の手先だ!


「そうだよねー」

「良い感じっ!」


 くっ! 早速問題解消されちまったじゃないか。それにしても沼尾さんの対応力の高さ……なかなかだぞ? さすが名門ソフトボール部のエースなだけある。しかしっ、俺だって負けてはいられないんだよ。全神経を集中させて見つけるんだっ! 不安要素をっ!


「あっ、でもさ? 言っちゃああれだけど、皆が言う通り結構な噂にもなったし、好評だったんだよね?」

「おっ、月城ー。ついにやる気になったか?」


 沼尾さん……残念ながら俺はまだ諦めちゃいないよ?


「やる気というか、やるのは良いんだよ? でもなぁ……」

「なんだよ? まだなんかあるのか?」


「いやぁね? あれだけ好評だったメイド&執事カフェ……他のクラスで放っておくのかなあって」

「あっ……そういう事かぁ」


 さすがは早瀬さん、気付いたみたいだね? 俺のこの言葉の真意を。


「放っておくって……」

「残念ながら去年それを経験した生徒は各クラスに居るんだ。あのアイディアを提案しないとは……」

「……なるほど」


 沼尾さんも理解したみたいだね?


「なになに?」

「どゆこと?」


 ここはビシッと決めて……少し格好良くなろうかな?


「いいか? そのメイド&執事カフェは……」


 ガラガラ


「いよっ! はかどってるかぁぁい!?」


 そんな俺の声を遮る様に勢い良く扉が開いて、聞き慣れた声と見慣れた姿が現れる。

 まぁ、この人が担任になってからはこんな登場が日常茶飯事だし? 動揺しない自分を誉めたい位だね。それにさ、三月先生? 今まさしく俺が……


「その顔は全然って感じかな?」


 格好良くなろうとしてたんですけど? ったく、相変わらずペース握るの上手いっすねぇ。


「三月先生? 頼みますからもう少し先生らしく教室入ってきてくださいよー」

「ありゃ、怒られちった。でもでも、そんなツッキーにお客様だよ?」


 ん? お客様?


 三月先生はそう言いながら、ヒョイっと横にジャンプすると、確かにその後ろには誰かが居た。ありがたい事に制服を見る限りクソイケメン委員長じゃないのだけは分かって、それだけでもホッと肩を撫で下ろす。


 良かったぁ。アイツだったら絶対にロクな……って!


 それはホッしたのも束の間の出来事。

 だってさ? まさか居るとは思わないじゃん? しかもなんで三月先生に連れられて来てるの?


「れっ、恋?」

「やっほー、ツッキー!」


 はっ、はぁ? ちょっと待って? なんで恋が……


「あっ、こっちゃんー!」

「れっ、恋ちゃん?」

「凜も居るじゃん! あっ、そいえば臨時の副委員長だもんね?」

「やほー恋ちゃん」


 あの? 人を飛び越えてキャッキャウフフなやり取り止めてくれます? だが、この時間はどこの組でも文化祭の出店とか決めてるはず。それなのに恋は何しに来たんだ? しかも三月先生に連れられて……怪しいな。もしかしたら偵察かっ!


「あの、ガールズトークは放課後お願いできますか?」

「あっ、ごめんごめん」


「それで、恋。4組の学級委員長が来るなんて……何を企んでいる!?」

「たっ、企んでなんかないよー」


「本当かなぁ?」

「本当だよっ! ねっ、みつきっち?」

「早計すぎだぞぉ、ツッキー? 我慢できない男は女の子に……」


 はぁ……全く、今はそういうのに付き合ってる場合じゃないんですよ? それに一体あんたはどこの組の担任だよっ!


「はい、サヨウナラー」

「ちょっ、ちょっとツッキー! もう、みつきっち話をややこしくしないでぇ?」


 少し焦った様子で三月先生を指差す恋。そんな焦った顔も、やっぱり可愛い……って、わざとじゃないぞ? そんな顔見たいからってわざとに言った訳じゃないんだからなっ!


「にゃはは、ごめんごめん。でもツッキー? 本当だよ? はい、ひっしー?」

「うん……あのね? ツッキー、ちょっと提案があるんだけど……」


 なんだ?

 早瀬さんなら貸さないぞ? 連れていくなら明石を連れて行きたまえ。


「お願い?」

「あのね、こういうのどうかなって思ってね?」


 人材交流並びに人材トレードなら明石一択だぞ? あっいや、高橋も居たな……



「3組と4組、合同でお化け屋敷やらない?」



 ん? なんて?


 3組と4組が?


 合同で……お化け屋敷……?



 ……マジで言ってんの恋!?



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