第128話 葉山彩花

 



 ふぅ、パーティーっていうのもこれだけ重なると飽きてくるものね。さすがに週3回は初めてだもん。でもまぁシロの面白い顔見れたから良しとしましょう。

 ……ちょっとだけ私情挟んで可哀想だったかしら? 


 それでもなんとなく、シロと恋は磨けば磨くほど輝きそうなのよね? 私自身編集長なんて言ってるけど自己流でしかないし、今まではホント運が良かっただけ。

 それに比べてあの2人は教えれば教えるほど吸収してくれるし、それ以上の事をやってのける……本当とんでもないダイヤの原石だと思う。まぁ本人達の前で言ったらすぐ調子乗るから、絶対に口には出せない。 


 なんて、後輩の事気にしてる場合じゃないんだけどね? 最近パパとママにこんな感じで業界の方々のパーティーに誘われるし、そそそろ自覚もしなさい? って合図なのかも。葉山グループの跡取りってね……




 思い起こせば、小さい頃からパパとママは変わらない。家では両方とも明るくて優しいし、従業員の皆からも慕われているとは思う。まぁ、だからこそこんなに大きく経営が出来てるんだろうけど?


 そんな姿を見て来た私は……ぶっちゃけ昔の事なんて思い出したくもない。

 ただ、采が近くに居てくれた……いえ? 居たって事だけ。いっつも笑顔で人の話ばっか聞いて、だから嫌な事があればすぐに采に話してた。それを采は黙って聞いて、頷いて、また聞いて……そればっかり。自分の事なんてほとんど話さなかったっけ? でもそんな彼に……たくさん救われた。数え切れない位に……ね。

 まぁ、おかげで何事にも動揺しないメンタルを培った訳だし…あら? 何かしら? 傍若無人って聞こえた気がするけど、らしからぬ空耳かしら? でもね、そんな空耳ちゃんにも教えてあげる。それはとんでもない間違いよ? 私はただ……


 自分の思った事を言って、自分がやりたいことをやってるだけだもの?

 自分でそんな環境を整えるなら文句は無いでしょ?


 話が逸れたわ。まぁ過去のウジウジした話は置いといて、思い出話の続きでも……っていってもまだ17年しか生きてないもの、次と言ったら中等部の話かしら?


 最初は本当に良い思い出がないわ。避けてた人達がなぜか媚びへつらって来て? それはもう清々する位の掌返し。ひどい人だと540℃は返してたわね。まぁ一切興味はなかったけど、なんか勝手に付いてくる人が多くなって……嫌で嫌で邪魔で邪魔で仕方なかった。でも、そんな人でも役に立つ時ってあるのよ……まさか学級委員長に推薦してくれるなんてね?


 最初はもちろん嫌だったわ。でもね、クラス中でそんな声が飛び出してきたんだもの? そんな光景目の当たりにしてたら1つ良い事考え付いちゃった。


 これで委員長になったら、皆付いて来てくれるのかしら? だとしたら、学校公認で……擬似社会体験できるじゃない!


 薄っすらと自分が考えてたより、周りから強く突きつけられた自分の立場。これは……この状況は、それを身に付ける為に神様が私にくれた環境であり時間なんだって考えたら……


 物凄くゾクゾクしちゃった。


 そんな感じで今に至る訳なんだけど、それから新聞部を復活させたって言っても……薄いわね? シロにあんな事言っちゃったけど、自分の人生見つめ直したらちょっと恥ずかしくなってきた。

 ……えっと、そう! 恋との出会い。これなら大丈夫でしょ?


 恋と初めて会ったのは中等部の2年生の時、あれは確かなんでもない平日……じゃないわ。あぁ忘れもしない、新聞部の申請が却下されてイライラしてる時だった。不平不満をぶつけながら新聞部(当時は仮)の部室のドア開けると、なぜか座ってたのよね? 恋が。

 失礼ながらあの時は心臓止まるかと思ったけど、開口一番の恋の言葉にはもっと驚いたわ。


『しっ、新聞部に入れて下さい!』


 手には采が作ったばかりの新聞部紹介のポスター持っててね?

  采ったら下にちっちゃく書いてる訳。


【世論、スポーツ、恋愛のスペシャリストにならないか!?】


 まぁ、別に世の中の事については多少なりとも自信はあった。けどねぇ、まだ正式な部活でもないのよ?

 それでも、部長兼編集長(仮)として、葉山彩花として弱々しい姿は見せられない。だからバッサリ言ったのよ。


『気持ちは嬉しいけど、まだ正式な部として認められてないの』

『えっ、そんなぁ』


 でもね、せっかく来てくれて? しかもあからさまな悲しい顔見せられたら……


『けど、認められたらあなたを第1号の部員……もとい編集部員として迎えてあげる』


 しっ、仕方ないじゃない?

 そんな感じでちょいちょい部室に遊びに来て……あら? そう考えたら恋との付き合いも結構長いわね。時折妹みたいに感じるのはそのせいかしら? だったら姉として妹の成長を願ってわざと崖から落とすのも、愛の鞭よね? ふふふ。


 そんな楽しみが増えた所で、最後はあの子かしら? 月城蓮。最初はあの事チラつかせたら、面白い事してくれるんじゃないかって興味本位だったんだけど? ……予想通り? いえそれ以上の行動や反応してくれてるわ。

 本当に……面白い子。


 まぁ、私の胸鷲掴みにしたんだからこの位安いものでしょ? むしろまだまだこれからよ?


 今新聞部は結構な人数になったけど、大きく変わったのはやっぱり去年。中等部の間は同級生との関係もあるし、入部を先延ばしにしてた恋と、ある意味運命的な出会いをしたシロ。そんなやましい気持ちが無い人達と過ごす部室は、うるさくて、明るくて、笑い声が溢れて……楽しかった。


 学園で笑ったのなんて、いつぶりかしら? 何気ないやり取りや、呆れるような話。そのどれもがなぜか面白く感じて、不思議とこのメンバーで色んな事したいと思った。プチ旅行や遊びに行ったり、今思えば……それは私がごく普通に、ごく普通な友達としたかった事。それを叶えてくれるなら、お金なんていくらだって惜しまない。だって彼らは……



 私の時間を取り戻してくれたんだもの。



 そして、私の大切な……



 思い出を作ってくれた。




「おーい、れん! 後の1週だぞー」


 って、れん?


 グラウンドの方から聞こえたその名前、その声に私は思わず顔を向けていた。そして、そこに居たのはなぜか陸上部と一緒にトラックを走っている……


「シッ、シロ?」


 月城蓮。

 あの子なんで陸上部と一緒に?


「うるせー、待っていやがれっ!」


 呆れた……あんなに汗びっしょりで、体もフラフラで……やっぱり正直なに考えてるか分からないんわ。


「ふふふっ」


 でも、月城蓮のそんな所が……面白いのよ。


「全くもって理解不能ね? 明日キツく言わなきゃ。なに取材サボってるのかしら? ってね」


 だから、シロ? もっと見せてちょうだい? もっととんでもない事してちょうだい?


 そして、もっと私に……思い出を残して?



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