第126話 部長って誰だよっ!
「だぁめ! 全然だめ! 内容が薄すぎっ!」
こんな光景何度目だろう? というより、ここ数日は……
「シロ聞いてんの? どうせならもっと内容を濃くして、ドロドロにして現状を伝えないと? 怪我の描写ももっと生々しく! 坂之上だったら言ってくれんでしょ?」
「いやぁ、さすがにそこまでは……」
毎回こんな感じなんですけどね? 確かにあれから坂之上先輩にちょいちょい話を聞きに行ってはいるし、先輩も笑顔でなんでも話してくれますけど……
「聞けるとこまで聞きなさいよ? 攻めれるだけ攻めなさい? 怪我した時の音とか、痛みとかっ!」
はっ、そこまで? いやいや言うのも嫌だろうけど聞いてるこっちも絶対痛くなるじゃないですかぁ!
「そっ、それは……」
「いい? どうせだったらとことんやりなさい? 中途半端なんて私が1番嫌いな言葉よ? 恋と凜も分かった?」
「わっ、わかりました」
「はっ、はい」
うわぁ……なんかすまんな2人共。滅茶苦茶巻き込み事故じゃねぇか。
「分かったのかしらぁ? シロ?」
「ハッ、ハイワカリマシタ」
「いやぁ、なんかごめんな? 2人共」
「ツッキーが謝る事ないよ。自分で手伝いするって言ったんだから」
「そうだよ。葉山先輩に指摘されたんなら、それ以上の記事作んなきゃ」
「ねぇー」
「ねぇー」
お前らホント息ぴったりだよなぁ。
とりあえず、葉山先輩は用事で帰ったし、桐生院先輩も来てないけど……この時間まで来ないって事は休みだろ。海璃は別件の取材で居ないし、俺達も今日は動く予定もない。となれば……
「とりあえず、今後の予定でも考えとくか?」
「だね?」
「了解」
「とりあえず、明日からだけど……それぞれ1人で取材お願いして良いかな?」
「それは構わないけど、ツッキーはどうするの? 用事?」
いや、今日ヨーマに言われて分かったんだよね。1人の話だけ聞いてもその怪我の酷さとかその経緯とか見え辛いんだ。だからさ、
「違うよ。とりあえず運動部に行って、顧問の先生にその部活によってなりやすい怪我とか、その症状を聞いて来ようかと思ってさ? 怪我の事を記事にするなら、運動に関わる怪我の事とか知っといた方が良くない? その後三月先生の所行って、聞いてきた怪我に対する治療法とか予防策を聞いておこうかと」
「ほほう、という事は怪我に対する知識を付けて、広い目線から記事作りに着手しようというのかね?」
なんで博士風な喋りになってるのか疑問ではあるけど、大体はその通り。
「そんな所。今回だったら坂之上先輩の膝とか、北山さんの肘とか? その怪我だけについて調べるよりだったら、全体的な知識つけた方がさ、色々な事への関連性とか見えてこないかな?」
「違った見方って事ね。確かに、私達スポーツに関しても詳しく知ってる訳じゃないし。まぁ蓮はサッカーなら得意分野だとは思うけど……」
「ソフトボールと柔道は見てる位だもんねぇ」
「実際に見て、聞いた方が良いだろ? そしたら葉山先輩も驚く様な特集、出来る気がするんだ」
あくまで可能性ですけどねぇ……
「了解だよっ、じゃあ坂之上先輩は任せて?」
「こっちも北山さんの状況観察は任せて?」
「じゃあ、任せた。とりあえず俺も聞いて来た事はまとめて2人に送るからさ? 明日からお願いします」
「うん」
「うんっ」
もしかしたら、無駄に終わるかもしれない。でも言われたからにはやりますよ? そしてヨーマに認められる特集作りますよ?
とことんっ!
なんて格好付けて言ったものの、実際上手く行けるのかねぇ。
自分の言葉に若干後悔しながら、玄関へと歩いて行く途中で渡り廊下に差し掛かる。一歩足を踏み入れた瞬間、体を包み込む熱気に汗がジンワリと湧き出る。
うっわ、夕方なのにまだこんなに外暑っついのかよ? こりゃ怪我だけじゃなくて熱中症にも気を付けないとだよな? おっ、誰か水飲んでるな? そうだそうだ、たくさん飲んで予防だ、よぼ……う?
渡り廊下から見える水飲み場。普段ではそんなに目に付く事はないのに、今日に限ってはそうとも言えない。単純に丁度誰かが水を飲んでいた……だからなのかもしれないけど、だとしたら何という偶然なんだろう。
水を止め、顔をあげていく人物は、少し長めの黒髪を結っている。そしてその顔には見覚えがあった。
水が滴り、頬を伝う。それはまるで飲料水? スプレー? そんなCMの様な……
「あっ、月城さん。こんにちわ」
そんな芸術的にも見える姿だった。
「あっ、こんにちわ……六月ちゃん」
「偶然ですね? 取材ですか?」
確かに陸上部は外で練習してるけど、まさか休憩のタイミングで行き合うとは……って! タンマっ!
そう言いながら、こちらに近づいてくる六月ちゃん。だが、その行動は実に軽率な行動。なんたって、
汗でTシャツが体に少し引っ付いてて、しかも短パンが……短くないですか!? ふっ、太ももからふくらはぎまであらわになってるじゃないかっ!
「海璃ちゃんから聞きましたよ? 結構難しい取材してるって」
いかん、いかん。その格好で近付くのはまずいぞ? 冷静に冷静にっ! いいか? 一点だけ見るんじゃない。そうだ、顔だ、顔を見ろ!
「えっと、まぁそんなとこかな? 六月ちゃんは休憩?」
「はいっ! そうなんですよ」
うわっ、何が顔見ろだよ! その笑顔に、滴る汗! なんか滅茶苦茶輝いて見えるんですけど? 何これ? スポーツやってる女の子ってこんなに輝いてるの?
「あれ? どうかしました? あっ、すいません汗とかいっぱいで」
おいっ、変に気を遣わせてどうする! フォローしろ、いいか大人のフォローだ! 決して邪な事を考えてるなんて悟られるなっ!
「ぜっ、全然だよ。でも、スポーツやってる女の子って良いよねぇ?」
よぉし! これは素晴らしいんじゃないか?
「えっ! そっ、そんな事……」
あ……れ? なんか想像してた雰囲気と違うんですけど? えっと……とっ。とりあえず普通に! いつもの様な会話したいんだよ。となれば何か良い話題はないか? 話題はないか? ……あっ!
「あっ、そういえば海璃から取材の話聞いてるって言ってたよね?」
「あっ、はい。大まかにはですけど……」
「じゃあさ、話は早いかな? 少し聞かせてもらえないかな?」
「こっ、答えられる範囲でしたらっ!」
「なるほど……陸上って言っても、その種目によって怪我する部位とか種類とか全然違うんだなぁ」
「そうですね。私は主に幅跳びやってますけど、投擲系の選手の皆さんは肩や腰も傷めますし……」
だよなぁ……こりゃ調べるのも結構大変になってくるぞ?
「その他にも色々あるんですけど、言葉では説明しにくいですねっ」
「だよね? でもさ、六月ちゃんあ……」
「あっ、そうだっ!」
ん? なんでしょう?
「もし良かったら陸上部の練習に参加してみませんか?」
はっ、はぁ?
「れっ、練習に!?」
「はい、体験みたいな感じでっ! そうすれば、実際陸上ではこういう部分を使うから傷めやすいとか……自分の体で認識する事が出来るじゃないですか」
いやっ……それは確かにそうですけど。練習よ? 強豪校の練習よ? 俺なんて1時間……いや? 30分ももたない気がするんですけど!
「でっ、でもさ……皆必死にやってる中に素人が参加するのも……」
「じゃあ、ちょっと聞いてきますね?」
ん? 聞いてくる?
「えっ、ちょっ……」
嘘だろ? 恐ろしい速さでグラウンドのに消えたんですけど……
うおっ、戻って来たっ!
「お待たせしましたぁ」
「あっ、あぁ。とても速かったね?」
「ありがとうございます。それでですね?」
当たり前のようにスルーされたんですけど? 普通に褒められたと思ったのかな?
「顧問の先生は今日用事があって部活には来れないみたいなんですけど……」
おっ、これは? 確認取れないから無理って流れ……
「部長に聞いたら問題ないそうですっ!」
「えっ?」
「だから、是非来てくださいっ! 陸上部!」
ちょっと……待って下さい? マジで言ってます? 六月ちゃん?
「あっ、いやぁ運動できるような外履が……」
「それなら部室に何足か使ってないシューズがあるそうです」
うっ!
「でも、短パンとか……」
「それも部室の方にOBの方から頂いた新品の物があるそうですっ!」
……ははっ、完全に外堀埋められたじゃないですかー。
しかもさ……
「ですから……」
反則でしょ?
「行きましょう? 陸上部っ!」
こんな笑顔見せられて、断れる訳ないだろっー!
「えっと、じゃあまずは軽くランニングからだそうです」
こうして、言われるがままに陸上部の練習場所に到着し、言われるがままに着替えを終えた俺。
無性に恥ずかしさを感じながらも、笑顔を見せる六月ちゃんを前には、露骨にそんな雰囲気は出せない。
あぁ、そうですか。まぁ基本ですからね? てか、なんか部員の皆さんの視線が結構するんですけど?
「1人だとあれなので、私もお供しますね?」
あぁ、ありがとう六月ちゃん。でも自分の練習は良いのかな?
「おっ、じゃあ俺もお供するぜ!?」
てめえは来るんじゃないよ、クソイケメン委員長っ! ニヤニヤしやがって!
「あっ、じゃあ私も一緒に……」
はぁー! ありがとう早瀬さん。てか……めっちゃ揺れてるんですけど? おいっ、まさか陸上部の男子は毎日こんな早瀬さんとか六月ちゃんの姿を見てんのか? ……許せねぇ。
「ちっ、仕方ねぇなぁ」
おい、誰だよ文句言ってる奴……ってお前は伊藤じゃねぇか! おっ、お前もいいよ!? てか、おかしくなるから!
「おい、あの人に栄人さんと伊藤さん付いて行ってるぞ?」
「早瀬先輩まで? それに六月さんの推薦ですって?」
ちょっと? なんか変な雑談が……
「もしかして物凄いポテンシャルを……?」
「あっ、有り得るかも……」
おいー! ちょっと待ってくれ? なんか俺勘違いされてね? 大丈夫? 本当に大丈夫……
「俺もお供します!」
「ぼっ、僕も」
「私達もー!」
いやぁ! 絶対変じゃん? 勘違いされてるじゃん!?
あの……その……
俺は何も言ってないからなぁぁぁ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます