第110話 奴らの勢い増す季節が……来るっ!
寮を出た途端、突き刺さる様な日差し。
途端に吹き出る汗は、あの季節の到来を感じさせる。
「ひゃー、朝からあっついですねぇ」
「だなぁ。でもこの暑さ、滴る汗。それすなわち?」
「夏休みですねっ!」
「夏休みだっ!」
はい、ストップ。夏休みを目前に控え、確かに暑くなってきてる。まぁそれは仕方ないとして、人為的に気温高めるの止めてくれません?
「なぁ、蓮。今年も宮原旅館行くのか?」
「旅館? 今年持って事は……夏休み中にお泊りしたんですかっ?」
「お前新聞部じゃねぇだろ? 大体活動費で行ってんだから遠方取材っ!」
なに去年の遠出に味占めてんだよっ! 活動費って名目だけど……足りない分は先輩達払ってくれてんだぞ? そんな負担は掛けれないって。
「いいなぁ、俺も行きたいっす」
「最高だったなぁ。自然に囲まれ、最高の料理に、素晴らしい露天風呂」
「えぇっ! めっちゃ良いじゃないですかっ!」
「しかもな? 露天風呂で……」
おいっ、それは秘密のはずだっ! いくら相手がそんであっても他言無用だぞっ!
「えい……」
「あっ、月城じゃん。おはよー」
「しろっちおはー」
くっそこんな時に、とにかくあれだけはバレちゃまずい。とにかく栄人を止めないとっ! そんはぶっちゃけ信用できん。思わずポロって言うに決まってるし、それが校内に広まったら一溜りもないぞっ!
「あっ、あぁ沼……」
「はっ! そっ、そこに居るのは……相音君!?」
えっ? 相音……君?
「あっ、ちょっと待って下さい! 沼尾先輩! 話なら後でゆっくり……」
「相音きゅぅぅん!」
「聞くって言ってるじゃないですかぁぁぁ」
一瞬で巻き上がる風が、そのスピードを物語る。確かに俺の前に居たはずの沼尾さんは、その歓喜の声を上げた途端瞬時に消え、気が付けばもはや後方50メートル先に到達しようとしていた。その前には全力でダッシュするそん。そんな2人が見えなくなるのは、もはやあっと言う間だった。
えっと……あれって本当に沼尾さんだよな? なんか教室では見た事の無い姿だったんだけど……しかも相音きゅん?
「あっちゃぁ、朝から全開だなぁ」
全開? なにか心当たりでもあるんだろうか、北山さん。
「北山さん? なにか心当たりでも?」
「まぁね。くっちゃんって可愛い人とか可愛い物大好きだからねー」
「ん? 可愛い人や物?」
「大体しろっちがいけないんだよ? 体育祭で運命のご対面させちゃったんだもん」
おっ、俺のせい? てかしろっちってなんだよ。一瞬あの方の顔が浮かびそうになるから是非とも止めていただきたいんですけど。にしても、
「対面……って、まさかあの士気を高める為に相音を呼んだのが原因って事?」
「そうだよ。くっちゃんあぁ見えて、女の子っぽい可愛い系大好きなんだ。もちろん人のタイプもね? つまり小動物みたいで小さくて愛らしいあの子は……くっちゃんのモロタイプって事。学園内で見かけるたびにあんな感じだよ?」
まっ、マジかっ! いやぁ、かなり意外なんですけど? ちょっとギャルっぽくて明るい感じのイメージがバッチリ崩壊。しかも学園内で会うたびにあんな感じなの? 全然知らなかったし……そう考えるとますますヤバいよな?
「なんか、教室に居る時とイメージが……」
「ははっ、仕方ないよ。あんな姿滅多に見せないからね? 自分でも極力我慢してるみたいだけど」
我慢かぁ……やっぱり人って隠してる部分の1つや2つあるもんなのかね? まぁでも……対相音用対策としては最高じゃないかっ! ありがとう沼尾さん。
……あれ? そいえば俺沼尾さんの名前知らなくね? クラス変わってから自己紹介とかやっ……ってない様な? しかも北山さんはくっちゃんて呼ぶし、他の人は名字で呼んでるし……それとなく聞いてみるか?
「なるほどね。そういえば北山さん? くっちゃんて言うのは……」
「ん? あだ名だよ? あっ、そう言えばクラス変わっても自己紹介とかやってなかったもんねー。くっちゃんの名前は、沼尾
「ははっ、そうだよねー。はははっ」
確かに2人の名前を今知ったってのも遅すぎるし、沼尾さんが可愛い系大好きで、相音がモロタイプってのも驚いたけど……名前がクレア!? しょっ、正直……凄すぎる! むしろ北山さんの名前がスタンダードだから尚更ギャップ感じるんですけど?
「まぁ、2人共ソフトボール界では有名人だからなぁ」
はっ? ソフトボール界で? てか、突然出てきたけどお前この2人の事知ってんの?
「おっ、ありがとー。ぎりっち」
ぎりっち!? どこでそんな接点が? 1年の時は勿論クラス違うよな? てか、またもや俺を置いて行くなしっ!
「栄人、お前2人の事知ってんの?」
「知ってるも何も、校庭の隣同士で練習してたら、大体分かるだろ?」
あぁ、忘れてました。彼女らはソフトボール部。彼は陸上部。練習場所は……マジで隣同士でしたね。
「まっ、マジかぁ」
「ははっ、驚いた? まぁ人は見かけによらないよねー? って自分で言うのもあれだけどねー」
まさにその通りだけど、俺的には現段階で沼尾さんが1番その言葉に当てはまってる気がするよ。
……まさに想像以上だわ。
「えっ? 良いわよ?」
はっ?
「よっしゃー!」
「やったっす」
クソイケメン委員長とそんの声が、部室中に木霊する。
おい、何言ってんだよあんた? 事実活動費では賄いきれてないんだぞ? しかも今年はこの調子でいったら……結構な人数。だったら、いくら何でも兼任組も行くのはキツくないか?
「さっそく準備しなければっ!」
「バッチリ準備します」
ストーップ! だから待てと言ってんでしょうが。去年より4人も増えてんのっ! だったら尚更活動費が……
「イリちゃん? 六月ちゃんも誘って良いわよ?」
「えっ!? 本当ですか?」
おいぃ! ヨーマっ! 今まさにあんたの身を案じて、止めようかと思ってた所なんですよっ! 話を簡単に進めるんじゃないよっ!
「えっ、それって私も良いんですか?」
「えぇ、高梨さん。もちろんよ」
「やったね凜?」
「あっ、恋? 早瀬さんにも聞いてちょうだいね?」
「ガッテン承知ですっ!」
……マジな話、良いのか? てか、あの調子だと恋も完全に活動費だけで行けるって信じ切っちゃってるよ。そこまで甘えて良い物なのか?
一番手っ取り早いのは、皆にその事実を知ってもらう事なんだけど……それだと先輩方のプライド傷付ける事になる。しかもそれやったらおそらく俺、抹消されちまうよね? 誰とは言わないけど。まぁ無理だと思うけど、それなりに匂わしておくか?
「ちょっ……」
「あっ、月城君」
ん? 桐生院先輩? なんか笑ってますけど、人差し指を口に持って来て……シー?
こっ、これは内緒って事ですか? いやいや……って桐生院先輩、俺の考えてた事分かるんですか? てか度々先輩には心読まれてる気がするんですけど、本当に烏野衆の一員じゃないですよね?
「いやぁ楽しみだわ」
「マジ楽しみっす」
「かなり凄い所なんだよ?」
「本当なんですか? 恋さんっ!」
「皆でお風呂とか?」
はは……もう皆行く気満々じゃねぇかっ! いいのか? ヨーマ?
「各自体調管理だけはしっかりしなさい? 体調不良で来られないなんて絶対に許さないわよ?」
脅すポイントが違うよっ! あんた自分で足りない分出してるくせに、なんでそんな嬉しそうで楽しそ……
『だからさ、今回みたいに皆を誘うって言い出した事もだけど、部活であんなに楽しそうにしている姿見て驚いてるんだ』
そう言えば、丁度去年宮原旅館へ行った時に桐生院先輩が言ってたな。あの時は全然信じられなかったけどさ? クリスマスパーティーとかお花見とか? その立案者ってヨーマ。って事は……本当に嬉しくて楽しいのかもしれない。
「シロ? 聞くの忘れてたけどあなたも勿論良いわよね?」
まぁ実際問題こんな感じですけど……これがヨーマだよな? 大人数で宮原旅館かぁ……
決めたっ! 編集長が良いって言ってんだったら、遠慮なく楽しみますよ?
「もちろん。お供させていただきます」
そういえば、露天風呂の壁って……またどこか緩くなってたりしないかなぁ。
ピロン
ん? ストメ? えーっと桐生院先輩?
【今年も透也さんに壁の細工頼んだよ。但しこのストメの履歴は確認次第削除する事】
こっ、これはっ! 桐生院先輩!? はっ、こっち見て? おっ、親指立てて?
……やっぱりあんた、
男の中の男っ! 最高の先輩だよっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます