第109話 怪しさMAX

 



 すすっ、好き? いや、なんでいきなり? 


「はっ、はい? どしたの六月ちゃんっ!?」

「すっ、すいません。その……」


 ダメだ、核心を突かれる前に話を逸らせっ! てか、ホント急に剛速球が来たんですけどっ!


「ななっ、何言ってんのさぁ! 冗談きついなぁ。あははっ」

「そう……ですよね。すいません、冗談です」


 そう言って少し笑みを見せる六月ちゃん。その様子に俺の動揺しきった心もいくらか落ち着きを取り戻していく。


 あっぶねぇ! てかズバリ言い当てられたから、尚更驚いたんですけど。って、あれ? もしかして……その人の感情とかを読み取れるとかっていう奴? 嘘でしょ? でも六月ちゃん、冗談だったって言ってるし……本当に冗談なんだろうな?


「でも、最近月城さん疲れてる様子だったので、てっきり恋煩いでもしてるのかと思っちゃって」


 こっ、恋煩い? なんか半分正解で半分外れなもんだから、否定できないんだよなぁ。しかしっ! 若干話は逸れた! 


「えっ? あぁ、さっき一月さんから聞いたよ。なんか俺が疲れてるみたいだから、わざわざここへ連れて来てくれたんだって?」

「えっ!? もう、一月姉ったらっ! あれだけ言わないでって言ったのに……」


 おぉ、恥ずかしがった! これは完全に違う事に注意を逸らせたかも? いいぞぉ。


「でも、嬉しかった。六月ちゃん、本当にありがとうね?」

「はっ、そんなっ……お礼なんて……」


 やっぱり六月ちゃんは優しいんだよなぁ。にしても六月ちゃんにこんな事される位、俺って疲れた表情してたのかな? まぁ原因は1人しかいないんですけどね。なんなら六月ちゃん。凜の心を覗き込んで、やつが何を考えてるのか目的は何なのか探ってくれない? お礼なら何でもするからさ。


「六月ちゃんは優しいなぁ。でも、俺そんなに疲れた顔してた? なんかごめんね、心配掛けちゃって」

「いっ、いえ! とんでもないです。月城さんにはとてもお世話になってますし、これ位お安い御用ですっ! 一瞬でも日常から離れる事出来ましたか……?」


「もちろん。忍者村のアトラクションに、美味しい料理と最高のお風呂。それに六月ちゃんと話してたら、疲れなんて吹っ飛んじゃうよ?」

「本当ですか? 良かったぁ」


 なんて健気っ! 素晴らしすぎるぞ? 六月ちゃん。君は絶対良いお嫁さんになるぞ? 俺が保証しよう。


「あの……月城さん? 私、本当に鳳瞭に来て良かったって思ってるんです。海璃ちゃんとお友達になれて、恋さんや月城さん、葉山先輩も初めて会った時以上に仲良くしてくれて……」


 そんな大袈裟なぁ。ヨーマに関しては騙されてるぞ? 六月ちゃん?


「私、皆の事大好きです。だから、これからもよろしくお願いします」


 うはっ、何だろう。分かっちゃいるけど六月ちゃんに大好きとか言われたら……最高じゃないかっ! しかもよろしくお願いしますって、なんか良い気分だよなぁ。


「こちらこそよろしくね。まぁちょっとキャラが濃いとか、色んな人居るけどさ?」

「ふふっ、確かに恋さんとかミステリアスですもんね」

「そうそう、恋はなぁ……ん?」


 待って、今恋って言ったよな? ヨーマでも凜でもなくって……恋? 恋がミステリアス?


「あれ? どうかしました? 月城さん?」

「あっ、いや……ごめん。今六月ちゃん、恋がミステリアスって言った?」

「はっ、はい……」


 マジか? てか恋がミステリアス? 嘘だろ? 明るくて、思った事はハッキリ言うタイプじゃね? しかも俺が知る限りでは嘘を付くのが決定的に下手で単純明快なタイプだと思うんだけど?


「えっと……凜じゃなくて?」


「凜さんですか? 今まで私が凜さんと接してきた限りだと、あの方は正直と言うか……表裏があんまり無いって感じですかね?」


 はぁ? 凜が表裏がない? いやいや、有りまくりでしょ? あいつ烏野衆を騙せる位の強靭な精神の持ち主なの? やっぱ恐ろしい。けどここで否定したら、六月ちゃんがショックを受けるの目に見えてるし……とりあえず差し支えない返事しとこう。


「へっ、へぇ。なるほどなぁ」

「私が感じた事なんで、本当かどうかは分からないんですけどね」


 しかし、あんな技とか使える六月ちゃんの察知能力だぞ? おめおめ気にするなってのも難しい ……あっ、試しに恋がミステリアスだって感じた理由でも聞いて見るか?


「ちなみにさ? 恋はどうしてミステリアスだって感じたの?」

「恋さんは、本当に明るくて皆の中心人物です」


 それは分かるなぁ。


「なんですけど……」


 ほぅほぅ?


「恋さんの心には、それとは違う何か別の感情というか……気持ちというか? そんなのを薄っすらと感じるんです」

「べっ、別な感情?」

「あっ、別人格とか裏があるとかじゃないんです。ただ、何かを隠してる? 何かを秘めてる? そんな気がするんですよ」


 何かを隠してる? 秘めてる?


「でもそういう感情とかって、普通だったらいくら隠してても、ふとした瞬間に出ちゃうものなんですけど……恋さんは全く出さないんです。だから私も正直言うと、自分の感性に自信ないのが本音で……」


 んー? ……まった、そういえば同じ様な事忍さんも言ってなかったか?


『まぁ、お前がそうならいいんだが……。ただ、あの女……何か大きな嘘をついてるぞ?』


 そうだ、去年の林間学習。あの時は全然意味分からなかったよな。女性恐怖症に興味あったから近付いたとか、面白半分でとか色んな可能性を考えたけど、今は恋がそんな事考えてるとは思えないんだよ。けど、今も六月ちゃんがそう感じてるって事は……

 恋。君はまだ、俺に見せてない一面があるって事なのか?




 そして次の日。


 ピッ、ガチャン


 改札を抜けると、目の前にはある意味見慣れた光景が広がる。


「ふぅ、なんか一気に都会に来たって感じですね」

「ははっ、それだけ烏山が自然豊かって事だよ。俺なんてもっと居たかったよ」


「じゃあ夏休みにでも、また行きましょう。今度は皆でっ! 絶対に楽しいですよっ」

「いいのー? 一月さん達に迷惑じゃない?」

「大丈夫ですっ! 一月ねぇには既に了承済みですし……お父さんも是非連れて来いっ! との事でした」


 マジかよっ、用意周到だなぁ。てか、皆連れて来いって……多分六月ちゃんが友達連れてでも、烏山に戻って来てくれるのが嬉しいんだと思うよ? 厳真さん、顔には出さないだけでさ?


「そりゃ楽しみだなぁ」

「はいっ! 楽しみですっ」


 皆で夏休みに烏山。皆かぁ……その瞬間頭に浮かんできたのは、昨日の六月ちゃんの言葉。


 恋は何かを隠してるかぁ……それが本当だとしたら、一体どんな事何だろう。俺に関係してる事かな?  それだったら滅茶苦茶嫌な予感しかしないんですけど。違うよね? 違うよね? うぁ、なんか一気に不安になってきた。


「あっ、蓮に六月ちゃん」


 そんな不安に煽られている俺の耳に舞い込んでくる声。それを感じた瞬間、俺の心は更に下降していく。視線の先に居るのは誰なのか検討はつくし、ぶっちゃけ学園以外では会いたくもないのに、その人物は長い髪をなびかせながら、俺達の方を眺めていた。


「あっ、凜さん! こんにちわ」


 うわぁ、最悪。なんで休みの日に学園以外で会うのかね?


「駅に……2人? もしかして……」


 なにジロジロ見てんだよ……って、2人? まっ、マズイっ! 休みの日に駅で2人って、遊びに行ったの見せびらかしてるだけじゃんかっ! それを見られたのが凜とは……最悪という言葉しか出てこねぇっ! なっ、なんとか良い感じの言い訳を……


「今、駅で偶然会ったんですよ。私は実家から帰って来た所だったんですけど、月城さんもご実家に行ってたんですよね?」

「あっ、あぁ。母さんに呼ばれてな」


 おっ、おぉ! ナイスだ六月ちゃん。


「へぇ、そうだったんだぁ」


 なんだその疑うような顔は?


「凜さんはどうして駅に?」

「私も出掛けてさ、今戻って来た所なんだ。あっ、六月ちゃん? 学園帰るんだったら、一緒に帰ろー?」

「あっ、はいっ! 是非っ」


 おいっ、何だかんだいって俺を省くんじゃないよっ! ったく、絶対今だって、俺達が駅に居た事恋に話してやろうとか考えてるに違いない。


「蓮? 行くよー」

「月城さん早くー」

「はいはーい」


 まぁ、とりあえず六月ちゃんのご厚意で、いくらか精神的疲れも取れた事だし……やはり今まで以上に奴の監視を強化しないとね?


「月城さーん」


 ホント、六月ちゃんって良い子だよなぁ。ありがとう。


「今行くよ」

「早くしないと……いっちゃうよ?」


 おいっ、凜! お前そのいくってどっちだよっ!

 行っちゃうなのか、言っちゃうなのか、マジで嫌らしいわっ!


 やっぱり、俺から見たら……



 凜の方が怪しさMAXなんですけどっ!?



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