第103話 続!恐ろしき体育祭

 



「青組行けぇ!」

「負けるなぁ」

「根性見せろ赤!」

「ビリになったらどうなるか分かってますね?」


 うお……相変わらずの合戦じゃねぇか。まさに毎年の風物詩だな。


 今年も、その火ぶたが切って落とされた鳳瞭学園体育祭。その盛り上がりは……お察しの通り。

 てか、去年よりヤバくね? 


 しかも2年になったという事で、


「こら近藤! 何やってやがる!」

「気合い入れろー! 榎本!」


 クラスの連中が同じ部活の後輩を激励? してるから、テントの中は去年よりも遥かに騒々しい。


「三浦ー、もっと慎重に行け! 最後の直線で越せるぞ?」


 ほほぅ。栄人の奴は激励というかアドバイス的な感じか? なんだ、てっきり他の先輩方と同じ感じかと思ったんだがな。そしたら女子達もドン引きするのに。


「……けぇ!」


 おいおい、なんか1年のテントうるさくね? 一体……


「元村ー! 気合いだぁ! そんなんじゃ怒られるぞ! 腕を振れぇぇ!」


 ……そん、お前は同級生を煽るんじゃないよ。


 ≪続きまして、1年生綱引きの点呼を取ります。出場する選手の皆さんは待機場所②へ集まってください≫


 おっと、これが終われば、とりあえず午前の部は終了かぁ。今の所怪我人も居ないし、順調って言えば順調かな?


「ちょっと、シ……月城君?」


 背後から聞こえてきたその声は、一瞬で耳を通り過ぎ脳へと到着する。それ位その主を認識するのに時間は掛からない。だって、嫌という程聞き覚えのある声だからね。


「何でしょうか? 葉山先輩?」


 ゆっくりと振り向くと、そこには、体操着を身にまとったヨーマが悠然と俺の方を見ていた。

 おぉ、やっぱモデルみたいなスタイルだよなぁ。黙ってれば……


「なにジロジロ見てるの? いつも以上に気持ち悪い顔になってるわよ?」


 黙ってればとんでもなく……


「いや、葉山先輩体操着も似合うなぁって」

「そんなの当たり前じゃない?」


 黙ってればとんでもなく素晴らしいんだけどなぁ。


「そうでしたね? それで、なぜわざわざ2年のテントに?」

「そうね。一言で言うなら……激励かしら?」


 げっ、激励? なぜヨーマからそんな言葉がっ? 体育祭における激励なんて嫌な予感しかしないんですけど。


「げっ、激励ですか?」

「えぇ、是非とも2年3組の皆には……今以上に頑張ってもらいたくてね?」


 ん? どういう事だ? 頑張って? ……はっ! もしかして、


「頑張るって……」


 その瞬間、ヨーマは短パンのポケットに手を伸ばす。そして、再び現れた手の中にあったのは……


「あら? どうかしたのかしら?」


 紫色のハチマキだった。


 むっ、紫のハチマキだと!? まっ、まさか本当に? 嫌だ……嘘だと言ってくれ!

 しかし、そんな俺を嘲笑うかのように、そのハチマキをまざまざと見せつけながら、ヨーマは頭に付けいく。


 嘘だろ? 止めてくれ! 止めてくれよ!


「はっ、葉山先輩? もしかして先輩の組って……」

「組? 3年3組よ?」


 あぁ……やっぱりそうなんですかぁ……。


「あら? 月城君? あなたが首に掛けてるハチマキ……紫?」


 ははっ、そうなんですよ? 紫なんですよー! って……絶対にあんた、


「なんだぁ……偶然ね」


 分かってて来ただろ! 明らかに! しかしだ、くそぉ! 全く気にしてなかった! まさかヨーマが同じ紫組だとは! むしろヨーマが何組なのかすら分からなかったし……事前に委員長同士の話し合いとかもなかったから仕方ないのか? 

 だが、ちゃんと調べておくべきだった! しかも、ヨーマのあの口ぶり……俺が居るって完全にリサーチ済みじゃねぇか! 待てよ? という事は激励って……やっぱそういう事かっ!


「そっ、そうですね。まさか葉山先輩と同じ紫組とは……」

「そうねぇ。ところで月城君? 今紫組は何位かしら?」


 えっと、1、2、3……


「6位……ですね」

「えぇ? そんなに低いの? 困ったわね。私達3年生にとっては最後の体育祭なのよねー。優勝したいなぁ」


 やっぱり激励という名の脅迫じゃねぇか!


「そっ、そうなんですか? いやー先輩去年とか結構やる気なさそうだったんで、こういうのには興味ないのかと……」

「そりゃ体育祭位、3年に花を持たせるのは当然でしょ? でもね?」


 でっ、でもね?


「私は今3年生。そして……3年3組の学級委員長。……これがどういう意味か分かるわよね?」


 ははっ、そりゃもう。みなまで言わなくても分かります。要は、3年で3組の学級委員長……つまり、


「分かるわよね?」


 なにがなんでも優勝するんだから、どんな手を使おうと1位になれって事なんですよねぇぇ!?


「ハッ、ハイワカリマス」

「そうよね? やっぱり月城君は話が分かる人ね」


 うわぁ、その微笑みはヤバいですよ? 


「それじゃあ……よろしくね? シロ」


 そう言い残し、悠然と去っていくヨーマ。その後ろ姿に悪魔の影を見たのは、おそらく俺だけだろう。だが……、


 そんな悠長な事言ってられねぇ! ヤバい! あのヨーマの微笑みは完全に本気だぞ? もし希望通りに優勝できなかったら、俺の……俺の……嫌だっ! 想像したくもないっ! どうする? どうしたらここから逆転優勝できる? まずは配点の高い綱引きとクラス対抗リレーは絶対取らないとっ! あとはクラス全体を……


「ふー疲れた」

「今何位? 6位? こりゃダメだな」


 なんという士気の低さっ! ダメだ……これではダメだ! 何か、何か策を考えろっ! なにか……あっ!


 己のクラスメイト達の士気の低さに絶望を感じ、項垂れる……そんな俺の目の前を通り過ぎる……紫のハチマキをした若干騒々しい男。


「絶対優勝するぞー!」

「「おぉー!」」


 普段だったら、それこそ五月蝿さにウンザリすところだろう。だが、今この状況下ではその一か八かのカンフル剤に賭けるしかなかった。


 これだ、こいつが同じ組だってのは色分けされた時点で分かっていた。滅茶苦茶ガッカリしたもんだが……それを撤回するっ!


「おーい、相音」

「ん? あぁー! なんすか先輩!」


 俺の声を聞くや否や、ダッシュで近づいて来るそん。その姿に、いつもと変わらない様子だと確信する。


「なぁ、そん。今俺達紫組は6位だよな?」

「そうなんっすよ? 悔しいっす」


「だよな? 俺もだ。ところで、3年の紫組って何組か分かるか?」

「3年? 分かんないっす!」


 うん。やっぱりいつも通りだ。


「そうか。実は3年3組なんだ」

「へぇ! 各学年の3組が同じ色なんてすごい偶然っすね!」


「だろ? それにな? 3組の学級委員長誰だと思う?」

「誰っすか?」


「葉山先輩だ」

「はっ! マジっすか?」


「マジだ。部活でもお世話になってるし、お前だってそうだろ? だからさ、俺はどうしても葉山先輩を勝たせてあげたいんだ」

「おぉぉ! それだったら絶対優勝しなきゃダメじゃないっすか!」


 おぉ! 想像通りの展開っ!


「だろ? だから反撃の狼煙を上げるには、今から始まる……」

「任せてください! 絶対1位になりますからっ!」


 うぉい! 近いって! 近い!


「たっ、頼んだぞ?」

「任せてください! じゃあ行ってくるっす!」


 はぁ……まさに予想以上の反応だな。

 ……あっ、良い事思いついた。


「あっ、そん」

「はいー?」


「言い忘れてたんだが、もし紫組が優勝出来たら葉山先輩が良い事してくれるってよ?」

「……うおぉぉぉぉ! 野郎共っ! 気合いだぁ! 全力で行くぞぉぉ!」


 凄まじいスピードで行っちまったわ。……にしし、これで優勝したらそんに追い詰められるヨーマの姿が見られるぞ?


 あの勢いにどんな顔するか……楽しみだぜっ!


「あっつー」

「早く昼飯食いたいわぁ」


 さてと、1年は大丈夫……だという事にして、問題は自分のクラス。何とか士気上げて綱引きで1位にならないと逆転総合優勝は一気にキツくなるぞ?


 それだけは、絶対ダメだ。活路を見出し、勢いに乗って突き進んで……一気に逆転してやる。


 あの秘密だけは絶対バレたくないんですっ! 


 特に恋にはっ!



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