第102話 立ち上がれ男子

 



 とあるホームルームの時間。なぜか俺は教壇の前に立って居る。

 いや、できればクラスとはいえ目立つ事はしたくない。ただ、不覚にも委員長を引き受けた手前、そんなことも言えないのが現状だ。


 そしてそんな最中、何を決めているのかと言うと……そう。あの伝統行事、鳳瞭学園体育祭レインボー・ウォーについてだ。


「はい、じゃあ次は……クラス対抗リレーのメンバー決めます。誰か出たい人とか推薦とかある?」


 シーン


 俺の一言で、教室に沈黙が流れる。そして、ジワジワと聞こえてくる小声の雑談。


「リレーだったら本庄は確定だろ?」

「あとは?」

「工藤、お前も陸上部だろ?」

「笹館さんは?」


 やっぱりそうなりますよね。やっぱどの組でもリレーとなると反応は一緒か。とりあえず、様子でも見ましょうかね?


 ザワザワ


 と言っても、聞こえてくるのはクラスメイトによる押し付け合い。

 そこまで出たくないもんかね? ……いや、出たくないか。しかし、このままじゃラチが明かないんだよなぁ……あっ、そうだ、


「おい、明石。なんか良い方法出して」

「なっ、そんなのある訳ないだろ?」


 まぁそうですよね。


「大体さ、無理矢理副委員長押し付けといてそりゃないよ」


 まぁそうだけど? だが……俺に面と向かって手を合わせていたお前が悪い。あの瞬間に決まってたんだよ明石。お前を副委員長に任命するって事がなっ!


「目が合った瞬間、拝んでたお前が悪いんだよ。恨むなら己を恨むがいい」

「そっ、そんなぁ」


 ガクリと肩を落とす明石。そしてそれを尻目に、


「でもさぁ、ぶっちゃけ決まんないよね? 月城の指名で良いんじゃない?」


 沼尾さんのかなり力任せな意見が飛び出る。

 いやいや、それはヤバいだろ……てか俺の評判駄々下りしますよね? 


「沼尾さん、それだとあんまりだよ」

「そっかぁ?」


 女神様ナイスフォローです。


「でも、去年もだけどなかなかリレーのメンバーって決まらないよね?」

「分かる。うちの組もそうだった」


 やっぱりか。俺達はあのクソイケメン委員長による、学級委員全員参加で他の人の負担を減らそう! って作戦だった訳だけど、沼尾さんのとこはどんな感じで決めたのかな?


「ちなみに沼尾さん達は去年どうやって決めたの?」

「んー? まず、伊藤って分かる? 陸上部に入ってたし、それなりに速いってのも聞いてたからアンカーは速攻で決まったのよ」


 伊藤かぁ……栄人のライバルね? ははっ、ヤバっ。去年の体育祭が蘇るわ。


「それから?」

「その後は伊藤の逆指名よ。委員長もその方がやり易かったみたいだし? まぁなんだかんだ言ってあれこれ指示出してくれる人の存在はありがたかったのかもね? 1年生の時だと特に」


 なるほどなぁ。となれば、やはり栄人って実は素晴らしい奴なのか? ……いや、総合的に考えたらそうでもないぞ! 俺は認めん!


「でも、結構特殊な方法だよね? 一般的に使えるものじゃないし」

「んーやっぱり難しい所だよね?」


 確かに早瀬さんの言う通りで、かなり限定的な決め方だよな。栄人然り伊藤然り、目立つべき奴が居てこその方法だし……今の俺達では実行できないな。


 まぁアンカーは島口だとして、あと9人。そして出来れば穏便に決めたい。なにか良い方法は……


「じゃあ、遅くても良いなら私走ろうかな?」


 はっ? 凜?


 それは突然の言葉。いや、ある意味凜の性格上の問題なのかもしれない。なかなか決まらない雰囲気の中、だったら自分がという自己犠牲の精神。そう、こいつは昔からこうだった。人のやりたがらない事を、最終的に引き受ける……そこは変わらないか。


「えっ? ホント?」

「いいの? 高梨さん?」

「うん。折角だし……走ってみたい。けど、あんまり速くはないよ?」


「全然良いよ!」

「うん。じゃあ……私も走るよ。このまま決まらないのもあれだしね?」


 おっ、まさか早瀬さんも感化された? まぁ足の速さは折り紙付きだしね?


「マジ? なにさーこの流れ! 私も走らなきゃKYみたいじゃん! ……分かった! 2人が走るなら私も走るよ」


「沼尾さん?」

「本当!?」

「もちろん! ほら月城? 女子3人決まり」


 えぇー! まさかの学級委員3人参加なんですけど? しかも沼尾さんまで走るとは……意外だな。

 結構こういう場面で沼尾さんって空気読むんだなぁ。人は見かけに……って、そんな事考えてる場合じゃない。この流れに乗じて一気に決めていかないとっ! 何かいい案は……


 はっ! 閃いた! これは……上手くいけば一瞬で決まるかもしれん。でもまずは3人に相談か。なら、


「すごいなぁ。さすが沼尾さん」

「へへっ、でしょ?」


「ところでさ、俺に妙案があるんだけど……それには3人の協力が必要なんだよね」

「妙案?」


「私達の協力って?」

「なっ、なにかな? 月城君」

「えっとさ……上手くいけば男子は一瞬で決まっちゃうかもしんない」

「へぇー面白そうじゃん! なになに?」


 よし、食い付いた!


「んっとさ、男子にこう言おうかと思うんだ。もしリレー走ってくれたら、そのメンバーにこの美女3人が……タオルを渡してくれるプラスお疲れ様って言ってくれるぞ! って」

「はっ、はぁ?」

「つっ、月城君?」

「それは……」

「月城! お前本気で言ってんのか? ナイス!」


 やはり最初はそんな反応だよな? しかし、この状況を打破するには学級委員の君達の力が必要なんだ。てか、明石……お前正直な奴だな。


「結構反響はあると思うよ?」

「なっ、何言ってんだよ! 他の2人はともかく私なんか……」

「私だってまだ鳳瞭来て1ヶ月位だよ? そんな事されても困るんじゃ……」

「つっ、月城君恥ずかしいよ……」


 さぁ、頑張れ月城蓮。腕の見せどころだぞ? ここで3人を納得させる位女心を理解出来ないと、恋を振り向かせる事なんて無理だぞ?


「そうかな? 沼尾さんは明るくて元気だから、逆にそんな事言われたら男子はドキッとすると思うけど?」

「はっ、はっ? 何言ってんだ月城!」


「高梨さんは男子にも人気あるし、絶対喜ばれると思うし」

「んー」


「早瀬さんは皆の癒しだよ? 言われて嬉しくならない男子は居ないって! 絶対」

「えっ、……本当?」

「俺的には誰でも3人にそんな事されたら嬉しいと思うんだけどな? どうかな?」


 どうでしょう? なんか凜にはあんまり効果なさげだけど……2人はどう思った? 乗り気になってくれたか?


「んー。分かった。月城……いや、委員長がそこまで言うなら私やってもいいよ」


 よっし! 沼尾さんがOKという事は、なし崩し的に早瀬さんも……


「わっ、私も……もし本当に私なんかで良かったら協力するよ?」


 ありがとうございますっ!


「ねぇ、蓮? 本当に私でいいの?」


 来たな? 1番扱いが難しい奴だな。下手な事言って、恋に告げ口はされたくないけど、なんとか上手い具合に言わないと……


「もちろんいいよ? 全然」

「だったら……協力するよ」


 これで良いか? 変な事言ってないし、それとなくお願いしたよな? まぁ何はともあれ3人の了承も得た事だし……行きますか。だから明石、お前なんか手上げる準備してないか? 大丈夫か?


「はーい。注目! リレーのメンバーだけど、とりあえず学級委員の早瀬さん、沼尾さん、高梨さんが走ってくれる事になりました」

「えっ? 沼尾さん?」

「高梨さんも?」

「確か早瀬さん、去年ぶっちぎりで速かったよな?」


 よし、まずは良い反応だ。けど、本番はこれからだっ!


「あと、男性陣が全然決まってないんだけど……どう? 誰か走りたい人居ない?」

「おい、どうする?」

「あの3人と一緒かぁ」

「走っても良いけど、リレーだし……」


 やっぱりな? 


「なるほど……」


 となれば、下準備だ。てか、明石……小声ではいはい言ってんじゃないよっ!


「ちなみに……リレーで走ってくれた人には3人の内、誰かがタオル渡してくれますっ!」

「えっ!」

「マジっ!?」


 ザワザワザワザワ


 おぉ……ザワついてる。いいぞいいぞ? じゃあ、ここで投入しますか? 秘密兵器っ!


「更にっ! お疲れ様って言ってくれるぞぉ!」



 ………………



「おぉー!」

「おっ、俺出る!」

「待て、俺が出る!」

「ふざけんな、お前帰宅部じゃねぇか!」

「短距離なら任せろ!」

「いやいや、俺がっ!」


 うはっ、すげぇ! やはりこの3人にあんなサービスして貰えるとなると、こんなにも違うものなのか?


 マジでお前ら……お前ら……


 最高に正直な野郎共じゃねえかっ!



 だから明石っ! お前も横でジャンピング挙手してんじゃないよ! 邪魔だよっ!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る