第101話 踏み込む勇気

 



 高梨凜。

 身長やや高め、スタイルも良い。というか、ほぼほぼ恋と一緒。1つだけ違うのはロングヘアって事位か。それでいて成績優秀、運動神経も悪くはない。優しく、社交性もあり、誰にでも好かれる性格。生徒会長として皆をまとめ上げる能力もあり、男子生徒、女子生徒からの好感度も高い……

 くっそ、再確認すればする程才色兼備ってやつじゃねぇか! 


 同じクラスという事もあってか、既に早瀬さんと楽しそうに話をしているし、沼北コンビとも既に仲良しか……やはり奴の雰囲気と、誰にでも話し掛けられる社交性は恐ろしい。わずか1ヶ月弱での溶け込み具合はヤバい。


 今の所、それ以外に目立った部分はない……てか中学の時の凜そのままじゃねぇか! だが、裏で何を考えているか……むしろこうして着実に外堀を埋めていってる感がある。やはり……要注意だ! 観察・偵察を怠ってはいけないな。


「ッキー?」


 やっぱり奴に直接問い詰めた方が良いか? いや、それこそ思う壺じゃないか? こちらからの接近、それこそあいつが求めてる事なのかもしれない。そうなれば俺が近付き、怖い事を言ってくるーとかその逆もしかり……あられもない噂話も作り放題だからな。


「ツッキー!?」


 ほわっ! びっくりしたぁ。ってやばっ! 

 そんな声に驚き、顔を上げると……そこに居たのは私服に身を包んだ恋の姿。それを見た瞬間、今日という日の重大さに気が付く。


 今日は恋とデートだったんだ! いっけねぇ、そんな時にまでなに奴の事考えてんだよ俺!


「もうっ、どうしたの? ボーっとして? 寝不足?」


 少し膨れっ面をしながら、俺の顔を覗き込んでくる恋。まさか凜の対策諸々を考えてただなんて口が裂けても言える訳はなく、


「ごめんごめん、楽しみすぎて何から食べようか考えてた!」


 とっさに考えた事を、なんとか自然に口に出す。


「あっ、やっぱり? 私も迷ってるんだー。ケーキにクレープにプリンっ! HP見る限り結構な種類なんだよね」


 そんなにあるの? いや、HPで大体のメニューはサッと見たけど……そんなにあったっけ? って話合わせなきゃ不審に思われるぞ!


「そっ、そうなんだよなぁ。全部制覇は厳しいけど、一通りは食べたいよな」

「だよねだよね? あっ、あとパンケーキも……」


 ははっ、滅茶苦茶楽しそうじゃんか! そうだ……今日は折角の恋とのデートなんだぞ? 奴の事は一旦忘れて、全力で恋と……楽しまないとな!




 はっ、はっ……! これは……。


 外見は……普通だった。シックで雰囲気のあるお店だった。だが、恋と笑顔で話しながら、ドアを開けた瞬間に俺の目の前に姿を現したのは……可愛いぬいぐるみ、キュートな机に、ポップな椅子。


 なんて……女子向けなんだ! これは、こんな雰囲気は……結構ツラいぞ!


「いらっしゃいませー2名様でしょうか?」

「はいっ! ちょっとツッキー? どしたの?」


 いっいや、なんと言うか……


「それではこちらの方へどうぞー」

「ほらぁ行くよ?」


 そりゃ行きますけ……あっ! 恋! なんで俺の方見ながらニヤニヤしてんだよっ! ……はっ! まさか、この内装の事まで知っていたのか? そうなのか?


「はやくぅ」


 くそっ、やられたっ!


 店内はあからさまにポップな内装。それこそお菓子の国って言った方が良いのかもしれない。しかも、可愛いぬいぐるみの数々はまさに女子なら誰でも歓喜するだろう。でもな……


 俺、場違いじゃね? なんか、ほらっ! お客女子しか居ないじゃん! ほらっ! なんか皆して俺の事チラチラ見てんですけど!?


「それではこちらのお席にどうぞー」

「はい、ありがとうございます」


 はぁ……やべぇ。とりあえず、座ろう。よっこいしょ。


「あれぇ? ツッキーどうしたのぉ?」


 席に着くや否や、まるで俺を嘲笑うかのように、恋が俺に向かって話し掛ける。


 その言い方的に、その顔……絶対知ってたな? くそっ、俺もちゃんとHPで店内まで見とけばよかった!


「恋……知ってたな?」

「にしし、まぁねぇ。だからちょっと気になってたんだよね? ツッキー即答するもんだからさ?」


 あぁ、確かに即答しましたっ! 恋と行けるならどこでも良かったんですよっ! だけどまさかここまでの場所とは……


「それに、どんな反応するかちょっと気になったしね」


 出たぞ? これは若干ヨーマの影響受けてるな? そんな笑顔されても、更に何か悪巧みを考えてる気がしてならないんですけど?


「ひどい女の子だな、まったく」

「てへっ、どう? 小悪魔キャラ」


「まぁ、それなりかな?」

「本当?」


 いや。やっぱ、少しムカついたから意地悪してやろう。


「あぁ。でもやっぱり普段の恋の方が……可愛いかな?」

「なっ、なっ、かわ……かわ……」


 ヒシロレンニカイシンノイチゲキヲアタエタ。


「ツツ、ツッキーだって……」

「失礼します。当店この時間はスイーツバイキングのみとなっておりますが、よろしいでしょうか?」

「はっ! だっ、だっ」

「大丈夫です。それ2人分で」

「かしこまりました」


 ふぅ。なんかすっきりした。あれ? 何か言いたそうに俺の事見てる人居ますけど?


「あれ? 恋? どうかしたのか?」

「ぶー、ツッキーの意地悪」


「お互い様だろ? にししっ」

「もう……ふふっ」


 それでも、


「そんじゃまぁ、とりあえず……」

「スイーツバイキングぅー」


 恋と2人で過ごす時間が楽しい事に変わりはないよ。


「スタートぉ!」

「スタート!」




 こいつは……最高に美味いぞ? 程よい甘さに、中からもとろけ出すチョコレート! 何個か食べたけど、間違いない! ここは当たりだ!


「んー! 幸せぇ」


 何個位スイーツ食べたかな? ぶっちゃけ詳しくは覚えてない。けど、そのスイーツの美味しさに、いつの間にか周りの雰囲気なんて気にならなくなっていた。ただただ、口にしたケーキやスイーツの事を恋と一緒に言い合う。そんな、幸せな時間だった。


「おっ、このチーズケーキも美味いぞ!」

「えっ! 本当? ツッキー少し貰っていい?」


「良いけど、どうせなら新しい……って!」

「ふぇ? なに?」


 新しいの取ってきた方が良いんじゃない? って言おうとした瞬間もはやフォークで連れ去られたんだが? まぁでもその美味しそうな顔みたら、 


「なんでもないよ」


 なんでも許せる。


「ホントに美味しいー! 後で絶対持って来よう!」

「お腹壊すなよ?」

「大丈夫、まだ半分くらいだから!」


 おっ、おう……マジで宇宙なんじゃないのか? 恋の胃袋は。


「あっ、ツッキー? こんな時に聞くのもあれかなって思ったんだけどさ?」


 ん? なんだ? 何の情報も言わず、ここを選択した事の謝罪か? 


「どした?」

「あのね……ツッキーって凜の事どう思ってるの?」


 凜!? なんでそんな事? ん? まさか俺が凜の事観察してるのバレてる? マジか? マジか? だとしたらまさしく逆効果なんですけど? 待て待て、焦るな焦るな! 冷静に!


「なんだよ急に。前にも言っただろ? 別に何とも思ってないよ? ただの友達だって」

「そっ、そっかぁ……」


 なんだか煮え切らない返事だな? 何か覚えが? やっぱり観察がバレてたのか?


「どうしたんだよ?」

「……えっと、実はね? 結構最近凜がさ、ツッキーの事聞いてくるの」


 はっ? 俺の事を……? 凜が? しかも恋に聞くってどういう事だ?


「へぇー、そうなのか。 なんんかごめんね? めんどくさい事させちゃって」

「ううん、全然良いんだ」


 恋にわざわざ聞くって、何の事だ? おそらくは鳳瞭来てからの事だとは思うけど……ちょっと聞いてみるか?


「ちなみにさ、何聞かれたんだ?」

「えっと……1年生の時はどんな感じだったとか、新聞部になんで入ったのかな? とか……でも、私自分の知ってる事をそれとなくしか言ってないよ? 盛ったり、嘘とか言ってないからっ!」


 なるほど、やはり俺の身辺調査か。まぁ恋の事だからホントに自分の知ってる事しか言ってないんだろうけど、それでも恋に聞くってのがなんかムカつくなぁ。


「なんか、ごめん。ちゃんと言っておかないとダメかなって思ってさ?」

「なんで恋が謝るんだよ。別に気にしてないし、言ったところでなんかある訳でもないだろ? だから大丈夫」

「ほっ、本当?」


 まぁ、俺の1年間の思い出を知られるってのは嫌な部分もあるけど……だからって何か変わる訳でもないし。ただの友達であり、要注意人物であり、観察対象者に過ぎない。てか、むしろ恋はよく俺に言ってくれたよな? なんか……嬉しいんですけど。


「本当。でもさ、ホント凜の事は何とも思ってないから。それにさ……恋が言ってくれた事が嬉しいよ」

「えっ、だって……ツッキーの事だったからさ?」


 なんかなぁ、やっぱりいつも明るい恋が見せる、恥ずかしそうな表情ってギャップっていうのかな? 結構な破壊力あるんですよね! 


「ありがとう」

「どっ、どういたしまして!」


 もうちょっと見てたいなぁ。さすがに怒られるかな? ジーっと。


 …………


「どっ、どうしたの? ツッキー? あっ、また口になんか付いてる?」

「ううん。恋の事……見てただけ」

「なっ! まっ、またそんな事……」


 おぉ、めっちゃ動揺してる?


「もうっ! ケーキ取って来るっ!」


 そう言って、そそくさと席を立つと、スイーツが置かれている場所へと歩き出す恋。


 やっぱ恋って……あっ、こっち振り向いた。


 その途中で、いきなりこっちを振り向いた恋は、やっぱりまだ動揺してるというか? ちょっとだけふくれっ面をしていたけど……


「ツッキー?」


 俺の名前を呼んだ瞬間、少しだけ微笑んだような気がした。

 ん? あっ、これは反撃か? そうなのか? なんて身構えていたけど、恋の口から聞こえてきたのは、俺の想像とは全然違うものだった。


「マッ、マロングラッセ……食べる?」


 マロングラッセ? 栗のやつだよな? そりゃ恋に取って来てもらえるなら……


「うん。お願いします」

「わっ、分かった」



 何だって嬉しいに決まってるじゃん。



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