第91話 穏やかな1日
青い空、澄み渡る空気。
「いやー今日も良い天気っすね!」
「そうだなぁ!」
慣れって恐ろしい。絶対一緒に登校なんて出来ないって思ってた2つの騒音でさえ……1ヶ月も経たない内に日常的な生活音の様に感じてしまう。
本当に、慣れって恐ろしい。
ガラガラ
「おはよう」
「あっ、おはよう月城」
「おはー月城」
1年の時とは違って、まぁ知ってる人も居る。だからかもしれないけど、すでに大体の奴とは話も出来てる。
「おはよう、月城君」
「おはよー早瀬さん」
「あっ、ねぇ早瀬さん……」
うん。早瀬さんも大分新しいクラスメイトとも仲良くなってるみたいだし、これはこれで一安心かな? それにしても副委員長をやってもらって良かったんだろうか? 未だに少し不安なんだが?
「蓮、おはよう」
「あぁ」
「今日も部活?」
「まぁな。ゴールデンウィークには必ず何かしらの取材がある。まさに今日、それを言い渡されるんだろうよ」
「そっかぁ。私も何かお願いされるのかな?」
「お前の本番はゴールデンウィーク明けの林間学習だろ? それに臨時の部員には無理させないだろ?」
「臨時ってなにー? 今はちゃんとした部員なんですけど?」
「はいはい」
「もーう、じゃあ今日も私行こうかな」
「はいはい」
ガラガラ
「はぁーい、皆おはよう!」
「あっ、じゃあまたね? 蓮」
あれだけ警戒していた凜と、それなりに会話のキャッチボールをしている。
正直、最初は考えられなかったよな。てか、むしろあっちがナチュラルに話し掛けすぎなんだよ。まぁ俺としてはこっちの方がある意味ありがたいかも。変な空気になっちゃったりするのはマジで居心地悪いし。必要最低限の会話はするさ? といってもたったの5ヶ月、あっと言う間だろ?
「先輩! マジ美味いっす! この鳳瞭スタミナラーメン!」
「だろ!? 俺も琴に勧められたんだが、マジで美味いんだよ?」
なぜか昼も大体はこの2人と食べて……いや? 強制的に連れさられてる。
しかも、悲しいかな? 風の噂だと、学園中に顔の知れたイケメンと、あどけない顔の明るい美少年って言うのがこの2人に対する周りの印象らしい。気になる俺についてだが……えぇ、全くそんな通り名なんぞ聞いた事がありません。つまり、ポジティブに考えれば、今の所上手い具合に隠れられてる。ネガティブに言えば……影が薄い付属品。
一応、俺の目標である平穏平和って意味では見事に満たされている訳だけど……
「唐揚げも最高ですね!」
「だろだろ!?」
この2人の通り名については全くもって納得いかないんですけどね?
「おい、お前ら。いい加減学生証忘れるんじゃないよ! 明日からは貸さないからな?」
「ギクッ!」
「おっ、おう! あっ、当たり前じゃねえか!」
マジでこういう奴らに女の子はキュンキュンしてしまうのか……?
恐ろしい。
「はぁーい、じゃあ今日はこれでおしまい! さよならー!」
ふぅ。授業も終わり……さて、部活でも行こうかな?
「ツッキー、部活行こう!?」
ホームルームが終わった後、恋が俺を迎えに来る。それはクラスが変わってから、ほぼ毎日行われる日課みたいなものだ。まぁ、恋に誘ってもらえるだけも嬉しいし、これはこれで違う組になった特典だと思う。ただ……
「あっ、凜も行く?」
「うん! 行くよー」
「了解! ほらほらツッキー早く! あっ、こっちゃんも部活頑張ってね?」
なんだろう? いや良いのよ? 恋と一緒に行けるからね? それに、恋と凜が仲良いのも良い事だって分かるよ? でもさ?
なんで俺が真ん中で、君達は離れてるの?
「そういえば凜、昨日のアイス美味しかったよね?」
「うん! また買ってくるね?」
なんか大分前にもこんな事が別の人物間であった気がするけど……凜も部活に行く時はなぜか毎回こういう位置なんですけど? てか、俺を挟んで会話すんなし!
「ツッキーも食べたい?」
「えっ?」
「食べたいってさ?」
「そうなの? じゃあ蓮の分も買ってくるね」
無理矢理俺を会話に巻き込まないで! そして進めないで! いやいや君達並べばいいじゃん? そんで俺は恋の隣! それで良いんですけど? てか、欲を言うなら恋と2人で毎日行きたいんですけど?
「はぁー、また食べたくなっちゃった」
「恋ちゃんは本当に食いしん坊だね?」
……あと5ヶ月位の辛抱かぁ。
ガチャ
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様です」
「あら、お疲れ様。シロー、あなた今日も両手に花ね?」
2人と来るといつも第一声はこれだよ。しかも、絶対ワザと言ってる。
「お兄ちゃんには勿体ないよね」
「そう? やっぱり?」
「ふふふ」
「ソウデスネ」
そして、毎回ヨーマの後に乗っかってくんじゃないよ! この愚妹! しかもなに優雅にお菓子なんて頬張ってんだ!?
「あっ、それポッチー新作の辛子明太子高菜チーズ味じゃない!?」
「そうですよー、結構美味しんです! 恋さんどうです?」
「いいのー? ありがとうイリちゃん!」
「確かに美味しかったわよ?」
「えっ! 葉山先輩が絶賛するとは……」
「凜さんも良かったらどうぞ?」
「ありがとう、イリちゃん」
はぁ……恒例の女子会か。こうなると非常に肩身が狭くなるんですよね? 桐生院先輩を入れても2対4。勢力的にも分が悪い訳で……
「あれ? もしかしてお兄ちゃんも食べたい?」
「めちゃめちゃ美味しいよー? ツッキー」
「うん。美味しい」
「結構です」
「えーなにそれ? 折角可愛い妹があげるって言ってるのに」
「出たわね? 海璃ちゃんに冷たく当たるブラックシロが」
ブラックシロって、それもう白なのか黒なのかややこしいなっ!
「照れてるんだよ。イリちゃんだもの」
「照れてねぇよ!」
「あっ、ツッキー!? ムキになったって事は……やっぱり?」
「お兄ちゃん照れてるんだ? そうかそうか」
「男のツンデレなんて流行らないわよ?」
圧倒的なイジられ……それこそ去年の比にならない。いやね? ヨーマと恋だけなら分かるよ? それに海璃が加わっただけでその回数が増えるのなんの。こいつ絶対俺を兄だと思ってないんだよ。しかもちょいちょい凜まで入って来るし?
「えっ、お兄ちゃんってツンデレだったの!?」
「中学校の時まではそんな素振りはなかったけど……」
「隠れた一面ってやつなのかな?」
「そこは深く聞いちゃダメよ? 人には他人に言えない秘密の1つや2つあるものよ?」
あんたが最初に言ったんじゃねぇか! ったく、大体俺はツンデレでもないし、ブラックシロでもないの! てか、あんた達妙に仲良くなりましたね? 連携取れすぎじゃね? 往年の二遊間ばりなんですけど? 凜と海璃に至ってはまだ1ヶ月も経ってないってのに! そもそもさ……
「秘密か……もしかして彩花先輩にも!?」
「えっ! あるんですか? 気になるんですけど?」
「確かに」
「もちろんよ……聞きたいのかしら?」
おーい。そちらから話振っといて、切り替え早くないですか? ねぇ! 俺の話は? ツンデレのくだりは?
「聞きたーい!」
「うんうん」
「どうしようかしらね」
なんだかな……これが女子特有の会話の流れってやつなの? もはや展開に付いて行けないんですけど。
ガチャ
「お疲れ! 今日も賑やかだねぇ」
「あっ、采先輩」
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様です」
きっ、来たぁ! 救世主。
「さて、じゃあ部活始めようかしら?」
「えっ! 先輩さっきの話は?」
「そうですよ!? 秘密の……」
「また今度の機会にね?」
「そんなー」
「そんなぁ」
「ははっ、楽しそうだねー」
いやいや、桐生院先輩! 何暢気にしてんですか!? こんな状況が最低でもあと5カ月も続くんですよ? この賑やかさが! 俺は耐えられるか不安ですよ!
「この部室も……明るくなったなぁ」
なにしみじみ言ってんですか! なんか雰囲気が定年迎えた人みたいになってますよっ!
でも、言われてみれば桐生院先輩が1年の時って、ヨーマと2人きりだったんだよな? そんで去年俺と恋が入って……桐生院先輩曰く、ヨーマはそれを凄く喜んでたんだっけ?
そんで、今年は期間限定だけど凜が入って海璃が入って、正直2人きりの時の様子とかは分からないけどさ? それを経験してた2人にとってはこういうのって……もしかして嬉しい事なのか?
そういえば去年の夏休みに、宮原旅館に行った時桐生院先輩言ってたよな。
『それと……ありがとう』
『新聞部に入ってくれて』
『ふふ。彩花も喜んでるよ』
まぁ未だに信じきれてないけど、2人がそう思ってくれてるんだったら……
こんな部活も良いのかもなぁ。
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