第90話 崩れゆく空間と、その他諸々

 



「それじゃあ始めるわよ?」


 部室に響くヨーマの声。それは部活の始まりを告げる合図。

 そして今日に限って言えば、新学期最初の部活である事を除いて、なんらいつもと変わらない……はずだった。それなのに……


「じゃあ簡単に自己紹介でもしてもらおうかしら? 失礼、まずは私からね?」


 どうしてこうなった?


「私は3年6組の葉山彩花、この鳳瞭ゴシップクラブの編集長よ。よろしく」

「同じく3年6組の桐生院采です。彩花の言い方でいくなら副編集長って事かな?」

「2年4組の日城恋です! よろしく!」


 どうしてこんな事になってるのかな?


「交換学習で2年3組にお邪魔してる高梨凜です。宜しくお願いします」


 まぁ、恋が連れて来たとなるとまぁ分かる。


「1年3組、月城海璃です! お兄ちゃんがお世話になってます!」


 ここだ、ここからおかしいのよ。なんでお前が部室に居るの? ねぇ?


「おっ、同じく1年3組の烏真六月ですっ! おっ、お姉ちゃんがお世話になっております!」


 可愛いから良しっ!


「2年2組っ片桐栄人! 陸上部所属です!」


 ……なんでお前が居るのかな? ちょっと待て? もう1度言うぞ? なんでお前が……


「1年3組っっ! 木村相音っす! 桜ケ丘中学校出身、サッカー部所属です! ポジションは主に……」

「ちょっと待ったっ! ストーップ!」

「ちょっと? シロ? 何なの一体? せっかくの自己紹介タイムを邪魔しないでちょうだい?」


 いやいや、これが止められずに居られるか? いいか? 俺は普通に部室に来たんだぞ? 新聞部の部室にだぞ? なのに、なんで凜と海璃と六月ちゃんと……全自動ポジティブマシーンと猛獣が居るんですかって話! しかも来て早々自己紹介始めやがって!


「ん? シロ?」

「シロってお兄ちゃんの事ですか?」 


 おい、要らんとこに食いついてんじゃないよ! トラウマ幼馴染と愚妹!


「そうよ? 残念だけど部活動限定の呼び方なのよね?」

「限定……!?」


 おいっ、その言い方はおかしいだろ! 大した事でもないのに、妙に含みを持たせた感じになっちゃうじゃねぇか!


「それはいいんです! それより、なんで部室にこんなにも人が居るんですか? それを先に教えて下さいよ?」

「なんでって……私だって知らないわよ? 来たら居たんだもの? 説明なら采と恋に聞いてちょうだい?」

「えっと、僕は部室へ来る途中で偶然片桐君と木村君に会ってね? 是非新聞部の様子を見たいって言うもんだから……」

「へへへ」

「てへへ」


 何笑ってんだよ! そもそもお前ら2人で居たっていうのが怪しいんだよ。絶対最初から新聞部に遊びに来る気満々だったろ?


「私は、凜が新聞部見学したいって言うから一緒に来たんだよ? そしたら、来る途中で海璃ちゃんと六月ちゃんと会ってね? 話してる内に2人も来たいって言うから……」


 うーむ、これに関しては何も言えねぇ。まぁ強いて言うなら、なぜに凜が新聞部を見たいなんて言い出したのかって事か? まぁ、それ位恋との話の中で出てきて、気になったとかそんなもんだとは思うけど。


「だそうよ? 満足した? シロ」


 大体は納得しましたけど、奴らに関しては……納得できん!


「いやいや、恋達はともかく、この男2人は遊ぶ気満々で来たに違いないですよ!」

「なんだって!? そんな事はないぞ? なぁ相音?」

「そうっすよ! 純粋に月城先輩の入ってる新聞部が気になっただけっす!」

「嘘つくんじゃねぇ!」


 この2人が揃ってたら嫌な予感しかしない! ヨーマよ、こいつらうるさいぞ? 栄人だけでもそれなりなのに、そんに至ってはその2倍はうるさいぞ? そうだ早々にお帰りいただこう。


「まぁ別に、見学位良いじゃない?」


 良いんですか!? いや、まだヨーマは分かってないだけだ。こいつらの相乗効果ってやつを……。


「本当っすか!? ありがとうございます。いや、ホント葉山先輩美人でモデルさんみたいですね?」


 でたでた、ヨーマはそういうあからさまな褒め言葉には……


「……正直な子は嫌いじゃないわ」


 えぇ! なんか満更でもないって口調なんですけど? なに? 意外と嬉しいの?


「じゃあ、今日は新聞部見学会って事で。良いですよね? 彩花先輩?」

「本当にいつも通りに部活やるけど? それでもいいならいいわよ?」

「ありがとうございます。葉山先輩」

「あっ、ありがとうございます」


 まじかよ……なんかいつもの様子を海璃と六月ちゃんに見られるの嫌なんですけど? しかも、


「うおー、やったぜ!」

「言ったとおりだろ? 葉山先輩は優しいんだよ」


 こいつらが居るのはもっと嫌なんですけど!?




「……とまぁ、これが今年度の活動スケジュールってとこかしらね?」

「いやー実際見てみると、結構クオリティ凄いですよね?」

「うん……すごい」

「やるじゃんお兄ちゃん!」


 なんかその顔腹立つんだが?


「ふふん、でしょ?」


 いやいや恋よ。ドヤ顔してるけど多分大部分は桐生院先輩のデザインと、認めたくはないがヨーマのアイディアのおかげだと思うぞ?


「おぉ、こんな新聞を4人で作成してるって流石っす!」

「だろ? だろ? 先輩方と日城さんは凄いんだぞ?」


 いやぁお前に褒められても、少しも嬉しくないのはなんでだろう? しかも栄人、お前もなに自分も関わってますみたいな体で言ってんだよ。お前は2度と口を開くな。


「それにしてもこうやって見ると、何かしらの行事の前に発刊してますよね? やっぱり注目度とかの事も考えてるんですか?」

「あら、なかなか鋭いわね? 高梨さん。まぁその間にも出す事はあるけど、何かしらの行事に合わせた特集を掲載するってのが基本よ? 狙いはあなたの言う通り」

「なるほど……葉山先輩?」


 ん?


「なにかしら?」

「私も新聞部に入っていいですか?」


 はぁ?


「本気で言ってんの? 凜?」


「うん。なんか話聞いてたら楽しそうだし? それに、インタビューとかこういう記事を考える発想力ってていうの? これって絶対将来役に立つと思うの。だから挑戦してみたいなって。半年間しか居られませんけど……お願いします!」


 えぇ……なんてポジティブな考え! 半ば強制的に入部した俺とは志の高さが違うんだが。でも問題はヨーマが認めるかどうかじゃね? 桐生院先輩の話だと、気に入った人しか入部を認めないって話……


「あら、物好きね? ……まぁ良いわよ」


 いっ、良いんですか!? なんか結構軽く承諾しましたよね? 


「本当ですか? ありがとうございます。宜しくお願いします。宜しくね? 恋ちゃん」

「えっ、あぁよろしく。凜」

「よろしく、高梨さん」


 ……マジかよ。


「他の皆はどうかしら?」


 はぁ? なに逆スカウト? 一体どうしたんだヨーマ?


「えっと……私は一応陸上部に……」

「私は……もうちょっと考えたいかなって……」

「それなら仕方ないわ。いつでも遊びに来てね? 海璃さん、六月さん」

「はっ、はい!」」


 うお、しかも断られても機嫌が悪くなってない! しかも遊びに来てだと……?


「俺はサッカー部ですけど……」

「あら残念ね」


 お前はこのままフェードアウトしてくれ。


「兼任します!」


 はぁぁぁ? 兼任? そんな制度あんの? いやいや、ないでしょ?


「兼任?」

「聞けば片桐先輩も兼任してるとか! 本業に差し支えなければ兼任も可能との話を聞きましたっ!」

「うむうむ」


 うむうむじゃねぇよ! 自分の切り開いた道を弟子が通って、感慨深くなってる師匠みてぇな顔してんじゃないよ! てか兼任じゃないだろ? お前の場合はただの手伝いだったろ?


「それはサッカー部の監督さんには話したのかしら?」

「それはまだっす!」

「片桐君の場合は良くても、監督さんによっては難色を示す可能性だってある。まずは確認してきてからね?」


 なんだ、やっぱいつも通りのヨーマじゃんか? でもなんか……凜とか、新1年生にはかなり甘くね? 気のせい?


「了解しました! 必ず説き伏せてきますからっ! 待って下さい葉山先輩!」

「期待してるわよ?」


 いや? これは……ヨーマの手のひらで転がされてる? 実直な猛獣を華麗に操る悪魔……なんかその表現が似合うんですけど? 


「はいっ!」


 あぁ、完全にそれですわ。そんよ……お前多分もう逃げられんぞ? 上手い具合に乗せられるぞ? いいのか?


「やったな!」

「やりましたっ! 片桐先輩!」


 ……この2人に限って言えば、これもご褒美なのか。恐ろしい。


「じゃあ、そういう事で期間限定だけど高梨さんよろしくね?」

「えっ! 俺は!?」

「んーあなたはまだよ? ちゃんと聞いて来てから、ねっ?」

「はっ、はぁぁいぃぃ!」


 お前完全にヨーマの虜じゃねぇか! 


「じゃあ、高梨さん。早速取材でも頼もうかしら?」

「えっ? わっ、分かりました。一体何を……」


 早速? しかもその口ぶりだと単独って感じだけど?


「大丈夫、すごく簡単だから。確か交換学習できた京南女子の子は、皆1年生と一緒に林間学習へ行くわよね?」

「あっ、そうですね。確か予定表に書かれてました」

「そこで……林間学習レビューをお願いするわ」


 レっ、レビュー!?


「レビューですか?」

「えぇ、楽しかったでもつまんなかったでもいい。どれだけ文字に起こせるのか見てみたいだけ。ねっ? 簡単でしょ?」


 簡単ねぇ……俺だったらヨーマの裏かいて、違う事に一点集中して記事書くけどね? 恐怖スポットとか神秘的スポット巡り! とか。


「それでいいのなら……頑張ります」

「じゃあ頼んだわよ? 幸いまだ時間はあるから、大体の流れとかは恋から聞くといいわ。親戚なんだし、かなり聞きやすいでしょ?」


「えっへん、任せてよ凜」

「恋ちゃん……なんかその感じ嫌な予感しかしないんだけど?」

「何よそれー!」


 それにしても君達仲良くなりすぎじゃね? 昨日は2人で学食居たし、何気に……恋も呼び捨てで呼んでるし、凜は恋ちゃんって呼んでるし……やはり昔遊んでた分、仲良くなるのも早いのかね?


「凜さんっ! 俺も手伝いますよ!」

「えっ、本当? 相音君。ありがとう」

「はっ、はぁぁいぃぃー」


 おい……お前単なる年上好きなだけじゃねぇのか? ヨーマと凜に対する態度がまるっきり同じなんだが?


「なら、俺も……」


 お前の出る幕はねぇよ、クソイケメン続委員長!


「なんか盛り上がってるなぁ、ねぇ六月ちゃん」

「そうだね」


「なんか楽しそうだし、私も入ろうかな? 新聞部。六月ちゃんも兼任しちゃいなよ?」

「うーん」


「ちょっと待て、君達はちゃんと考えなさい?」

「ぶー! お兄ちゃんのケチ」


 ケチだと?


「あら、シロ。あなた妹さんには強く出るタイプなの?」

「えっ、ツッキーそうなの?」

「そうなんですよー。助けてください葉山先輩」


 ちょっと待て! 違うぞ? 断じて違うぞ? 恋にヨーマ。俺は妹思いで……って、お前なにヨーマに助け求めて……


「年下の女の子に強く当たるなんて男としてどうなのかしら? シロ」


 くぅ! なんだよ、まるで俺が常日頃から海璃及び年下の女の子に対して殿様になってるみたいじゃないか!


「兼任……しようかな?」

「おっ、六月ちゃん本当?」

「やったね、じゃあ決まりだぁ!」


 えっ? マジで言ってんの? いや、これは流れに流されてるだけだ! いかんぞ? 六月ちゃんしっかり自分の自我を保つんだ! 気を確かに! これは六月ちゃんを助けねば……


「いいでしょ? お兄ちゃん?」

「良いよね? ツッキー?」

「いいわね? シロ?」

「……モチロンデス」


「やったぁ!」

「よろしくね? 2人共」

「よっ、よろしくお願いします」

「ふふ、改めてよろしくね?」


 俺のバカ……あっさり認めちゃったじゃないか! でも……あの3人に言われたら拒否権なんてないんですよね? 特に恋とヨーマ……仕方ないかぁ。


 という事は……海璃が入部して、凜も期間限定とはいえ入部?

 そして、六月ちゃんと……滅茶苦茶嫌だけど、そんとクソイケメン続委員長が兼任?


 ……ヤバイ、オソロシイ。


「いやぁ。一気に賑やかになるねぇ」


 いやいや桐生院先輩!



 満面の笑みで言ってる場合じゃないんですけどー!?



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