第89話 待って?新学期始まって、まだ2日目位なんですけど?
晴れやかな天気の元、俺はいつもの様に学校へ向かって歩いていた。しかし……
あぁ、ちゃんと寝たはずなのに……体がだるい。
「おっ、どうした蓮? あくびなんかして!」
「ん? あぁ……」
いや、たぶんお前もその原因の一因だぞ?
「どうしたんすか! 先輩! 元気出して下さい!」
……いや、分かった。
「さすが相音! 今日も元気ハツラツだなっ!」
「もちろんっす! 元気だけが取り柄ですからね!」
「はっはっは!」
「はっはっは!」
お前ら2人と毎朝一緒に登校するってだけで、常に体力の2割は持ってかれてんだよ。
はぁ……やっと教室来た。あの全自動ポジティブマシーンと付属の猛獣から離れられたわ。
毎朝あのテンションに耐えられるのか? ん? まてよ、無理に一緒に行く必要は……いや、あいつら毎朝やって来て一緒に行こうって言うまで部屋の前から動かないぞ? うん。なんかそんなイメージが容易に想像できるもん。それなら、なるべく無で行こう。そうしよう。
「あっ、月城君おはよう」
ん? この声は?
朝から体力を減らされ、少しぐったりしていた俺は、その聞こえてきた声の方へ顔を向ける。まぁ聞き覚えのある声だったからっていうのもあるけど、その先に居たのは予想通りの女神だった。
「あぁ、早瀬さんおはよう」
あぁ、恋が違うクラスになった今、毎朝確実に聞けるのは早瀬さんの挨拶だけだよ。
なんて、そんな事をしみじみと感じていた時だった、
「蓮、おはよう」
早瀬さんの後ろ辺りから聞こえる声。その声も、俺にとっては聞き覚えのある声に違いはない。けど、早瀬さんの後ろからゆっくりと現れたその人物……というより、長い髪が見えた時点で、それが誰なのかなんて簡単に分かってしまう。
まぁ……まとりあえずは普通にしとこう。
「おぅ、凜」
「案外来るの早いんだね?」
「いや、寮近いし」
「それもそっか。それじゃね」
そう言うと、早瀬さんと一緒に自分の席へ向かって行く凜。そんな姿にまだ違和感を覚える自分がいる。
なんだかなぁ、交換学習とはいえ凜が鳳瞭に居るってのがねぇ。それにしても、まさか恋と凜が親戚とは……まぁでもやっぱり、そっちの方が色々似てるって事に関しては納得はできるよなぁ。
たしか……お婆ちゃん同士が双子の姉妹なんだっけ? はぁ……ん? でもさ? お婆ちゃん同士が姉妹なら結構交流とかあるもんじゃない? あれか? 恋の両親は今海外に居るって言ってたし、その絡みで仕方なしにそういう機会に恵まれなかったって事か? でもそのお婆ちゃんとか、恋自身が外国に行ってたとかって聞いた事ないんだよなぁ……ってなんで俺がそこまで考える必要あんだよ!
ガラガラ
「はーい、みんなおはよう! ホームルーム始めるよー」
勢いよく開く扉に、教室いっぱいに響き渡る声。はぁ、相変わらずあなたも朝から元気いっぱいですなぁ三月先生。
こうして、何事もなく始まったホームルームは、何事もなく進んでいった。
「てな感じで、とりあえず今日は目立った事はないかな? あっ、部活紹介に行く人は後で教えてね? そしてガンバっ!」
あぁ、部活紹介ねぇ……去年見た時度肝抜かれたもんなぁ。
なんて去年の光景が頭に過りながらも、俺自身は結構ボーっとしていた。三月先生の思いがけない言葉を聞くまでは。
「それじゃあ……あっ! そうだった! 学級委員決めないと!」
……げっ、そうか! クラス替えしたって事は学級委員も新しく決めないといけないのか! 俺は嫌だぞ? 去年はそれでも恋と早瀬さんと仲良くなれたって利点があったから良いものの、その他基本的に行事等、色んな事に奔走するのはもうコリゴリなんだ!
そして俺は何度も言うけど目立たず、平和に学園生活を送りたいんです!
「それじゃー、居ないと思うけど、立候補する人!」
ザワザワザワ
三月先生、正解だよ。普通に考えて立候補する人なんて滅多に居ないんだよ。あのクソイケメン元委員長……いや? この感じだとすでに2組の学級委員長やってそうだけどね? ともかくあいつが異常なだけなんだって。
「まぁそうだよねー。別に委員長だけじゃなくて、副委員長とか書記とかも立候補居ないー?」
ザワザワザワ
一応早瀬さんは去年書記やったけど、あれも栄人に指名されて半ば強制的に引き受けた様なもんだからな。2年連続だといくら早瀬さんでもやりたがらないだろ? ……お願いされたら分からんけど。
ザワザワザワ
「ねぇ北山さんやったら?」
「えぇー嫌だよ? 大変なの1年生の時目の当たりにしてるもん」
「だよねー」
「沼っちは?」
「えーパスパス!」
おいおい、テンション高めの沼北コンビでさえ嫌がってんじゃねえか! そうだよ……これが普通なんだよねぇ。
「はい」
ん?
「期間限定でいいなら、私書記やります」
それは思わぬダークホースといってもいいだろう。というより、誰もが選択肢の中に入れてなかっただろう人物の思わぬ発言に、クラス皆の視線は釘付けとなる。
ザワザワザワ
おい、マジか? 確かにお前もこういう類いが決まらない時、仕方なくやる事多かったけどさ、仮にも交換学習で来てんだぜ? えっと、確か半年だっけ? いわば招待された奴にそこまでお願いできる訳……
「えっ、本当に良いの?」
良いんかい!
「はい。もちろん、半年間だけでもいいなら」
「おぉ」
「すごいね」
「さずがだな」
お前ら少しホッとしてんじゃねぇか! 良いのか? 本当に良いのか?
「じゃあ、皆どうかな? もちろんこの中からもきちんと書記は決めるけど、今の所はりっちゃんにお願いするって事で」
「さんせー」
「異議なしー」
「じゃあそう言う事で、よろしくね? りっちゃん」
「分かりました。皆さんよろしくお願いします」
パチパチパチ
マジか? とりあえずとはいえ本当に凜に決まっちまったぞ? しかもこの中から後で決めるって言っても……絶対決まらんだろ? いいのか? 三月先生?
「よっし! じゃあ委員長と副委員長2人! 交換学習で来たりっちゃんと仲良くできるチャンスだぞー?」
……三月先生、もしかしてそれを餌に円滑に決めようと思ってたのか? まぁ、ある意味理にかなっているともいえるか。少なくとも男性陣はグッと来たやつがいるかもしれない。てか、りっちゃんってなんだよ! 早くもあだ名じゃねぇか!
「おいっ、高梨さんと仲良くなれるってよ?」
「まじか?」
「お前やってみろよ」
はい食いついてるー。分かりやすーい。
「でも、上手く話せる自信ねえよ」
「確かに」
おぉ……ここに居たのか草食系男子! でもまぁほぼほぼ初対面の女の子と最初から気兼ねなく話しできる奴なんてクソイケメン元委員長と猛獣ぐらいだろう? ならばその反応もごく普通なのかもしんない。
「んー誰も居ない?」
三月先生の言葉に、反応が良かったのも最初だけ。その後は、恒例の沈黙タイムが始まった訳で……誰も手を挙げようという雰囲気すら感じられない。そして刻々と時間だけが過ぎていく中……ついに奴が動き始める。
「んー、困ったねぇ。こうも決まらないとは……」
いやいや、三月先生、これが普通なんだって。皆の方見渡したって誰も目合わせないから……
そう。今思えば、この油断しきった軽率な行動が命取りだった。今までボーっと外の方を見ていたはずなのに、余りの決まらなさから飽きを感じた……そんな時、何気なく三月先生の方を見た俺を……見逃すはずがなかった。
目が合った瞬間、それは一発で分かった。目が少し開き、口角が上がり……俺の方を見ながら頷いたもんね? けど、それが分かった所で時すでに遅し……
やっ、やば……
「あっ、月城君と……早瀬さんはどう?」
無情にも教室へ響く自分と早瀬さんの名前。まぁこんな状況で名前言われたら皆見ますよね? はい、皆後ろ振り向きました、皆して俺達の方を見てますよっ!
「1年の時、学級委員やってたじゃない? 仕事も大体は分かってると思うし……連続になっちゃうけどどうかな?」
どうかなって言われてもなぁ……
「マジか? 1年の時もやってたんだってよ?」
「じゃあ大体は分かんじゃね?」
「だったらやればいいのにねー」
「それだと早く決まるしー、てか雰囲気的にやる流れだよね?」
いやいや、お前ら正直に言い過ぎだろ!? くそっ確かにこのタイミングで事実上の指名を受けたとなると、他の連中からしたら何が何でも俺達にやらせたいって心情にはなるだろう……てかクラスのほとんどがそう思ってるよねっ!?
いや……早瀬さんはどんな感じだ? うわっ、下向いて固まってるー! そりゃいきなりクラス中から視線浴びたらそうなるのも無理はないよなぁ……あぁ、なんだか見てるこっちが苦しくなっちまうよ!
にしても……あっ! おい、島口! お前なに俺から目逸らして前を直視してんだ! 絶対体育祭でアンカー走らせるからな!
くそっ、てめぇ高橋! 今若干目合ったよな? 逸らしやがったな? 文化祭で絶対どぎついやつ、やらせるからな!
ったく、元3組の連中でさえこれかよ……おっ、明石! お前は目逸らさないんだな? ん? なんだ? 両手を合わせて……ゴメンじゃねぇよ! むしろそれゴメンじゃなくて、むしろ拝んでる様にしか見えねぇよ!
ちくしょう! あぁそうですか……そんなに皆嫌なのかね? 学級委員。しかも流れ的に、俺か早瀬さんが委員長やる流れじゃねぇか!
そうなると……早瀬さんには重すぎねぇか? あの性格だと、三月先生に頼まれたら嫌でも引き受けちゃいそうだし、それは酷だよなぁ。かといって他にやろうって奴も居ないし……
先手取って……俺……やるか……。
いや、やりたくはないよ? だが、このまま無理して早瀬さんがやるよりだったら俺の方が手の抜き方知ってそうじゃね? 早瀬さんは性格的に真面目だがら、根を詰めそうだし……そうなったら、恋になに言われるか分かったもんじゃないよ! 激怒だけは確かにされそうだし。だったら……
「じゃあ俺委員長やりますよ」
自分で適当にやってる方がマシだ。
「おっ! 本当! さすがツッキー! 皆どうかな?」
「賛成!」
「いいでーす」
「問題なし」
「じゃあ、学級委員長は月城君に決定でーす!」
パチパチパチ
こんなにも、嬉しくない拍手は初めてだわ。しかも三月先生、あんた俺達に迷いなく視線が集中するようにわざと普通の名字で呼んだろ? いつもはあだ名で呼んでるくせに! 意外と……腹黒いぞ! 烏真三月!
……てへっじゃないよっ! 舌出してこっち見るな。その舌引っこ抜いてやろうか!
ったく。とりあえず……なんか不本意ではありますけど、私月城蓮は……2年3組の学級委員長になりました。
はい、さっそく目立たず平和で平穏な学園生活という目標にひびが入りましたね……
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