第88話 混ぜるな危険
「うおーでっかい!」
「ちょっと相音、声大きいよっ」
とりあえず、昼ご飯を食べようと学食まで来たものの……なんか一気に疲れてきた。こいつらにとってはいつも通りだろうけど、これに六月ちゃんは付いて来られるか?
「ごめんね六月ちゃん? 騒がしい連中で」
「いっ、いえ。そんな事ないです」
こりゃ完全に気を遣ってるわ。ったく、内輪で盛り上がってんじゃないよ!
「早く行こうぜ!? えっと……食券機でまず買うんですよね? 先輩」
「あぁ。そうだけど、あんまり急いで……」
「あそこか!」
走るなよって言う前に走って行きやがった!
「待って相音ー! 六月ちゃんも行こう?」
「うん!」
それにしてもはしゃぎ過ぎだろうよ。なにも問題起こすんじゃないぞ? 絶対だぞ? まぁとりあえず座って待っとくか。あいつら来てから頼みに行っても問題ないしね? よっと。
ポケットからスマホを取り出し画面を眺めると、時刻は丁度お昼過ぎた辺り。いつもだと多くの学生で賑わう学食だけど、さすが2・3年が休みの日に混む程ではない。
来るとしたら部活やってる奴位だもんなぁ。
「うわ!」
「きゃっ」
「あっ、相音!」
なんて、そんな事を暢気に考えていた時だった、遠くから聞こえる嫌ぁな声。相音、女の人、そして海璃。その3人が発した声で、大体何が起こったのかは予想が出来た。
はぁ!? ……言ったそばからじゃねぇか! なんだ? 誰かにぶつかった? 3年生とかだったら嫌だぞ? てかヨーマとかだったらもっと最悪なんですけど?
「いってて……すっ、すいません」
「ごっ、ごめんなさい!」
「大丈夫?」
「平気平気。あっ、君は大丈夫?」
椅子から立ち上がり様子を見てみると、幸いにもどちらかが転んだとかそんな訳ではないようだ。
体勢崩しただけか? 良かったな、料理運んでる最中じゃなくて!
「……って! えぇぇぇ!」
なんだなんだ! 今度は何だよ騒々しい。
「相音うるさいよ! 一体……えぇぇぇ!」
お前もかよ海璃! 2人揃ってデカい声出すんじゃないよ! 響いてるから! 少数の学生さん達がこっち見てるから!
「えっ、嘘?」
はい可愛い。これが正しい驚き方なんだよ? 分かったか? 愚妹に騒音よ? それで? 六月ちゃんですら驚くってなにご……
「なんで凜さん分身してんですか!?」
「なんで凜さんが2人居るの!?」
「恋さんが……2人!?」
いやいや、何3人してほぼほぼ同じ事ハモって、その後一斉に互いの顔見ながらキョトンとしてんだよ?
それにしても、その2人……名前は俺だって知ってるぞ? けどな、そんな2人が揃いも揃って学食になんて居るはずないだろ? どれどれ?
「あっ」
「あっ、ツッキー!」
……ホントに居るじゃねぇか! なんでだ? なぜ2人してここに? 学食に? 親戚だから? 昔話に花を咲かせようと一緒にランチ? いかん! 落ち着け落ち着け! 一旦整理して考えよう!
恋に凜。海璃に六月ちゃんに相音。
あぁ、そうか。六月ちゃんは恋の事は知ってる。逆に海璃と相音は凜を知ってる。そして、その知ってる人の隣に髪以外大概そっくりな人が居る……そりゃ混乱……
「凜さん! どうしてここに!?」
「あらっ、イリちゃん久しぶりね?」
「ん? あっ! 六月ちゃん!? 待ってたよー!」
「きゃっ、恋さん! 顔が苦しいです……」
「羨ましい……」
2組による熱い抱擁。その光景は、実に羨ましい……はっ!
バカ、なんかそんと同じ事考えてたような気がしたけど……これは世の男性陣なら誰でも思う生理現象! 仕方ない……だが出来る男は切り替えが違うのだよ? 切り替えが!
「凜さーん!」
なっ、相音! あいつ無謀にも突っ込んで行きやがった! 欲に負けたのか……だが、その価値があると踏んでの行動か!
「あら? 相音君も? お久しぶり」
「はっ! はぁいぃぃ」
なんてこった! 笑顔直視でそんの動きを止め、とどめの頭ナデナデ? 凜の奴、昔から人を手懐けるのは得意だと思ってはいたが……まさかこうもあの理性を失った猛獣を一瞬で……やはり恐ろしいな。
あとそん、その顔滅茶苦茶気持ち悪いから即刻止めてくれ!
……あのそろそろいいか? 各々再会を喜んでるみたいだけど……この辺で良いでしょうか? 良いよね?
「ここで固まってたら、邪魔になるぞー」
「あっ、それもそっか! じゃぁ皆テーブル行こっ」
やれやれ、ほれ皆早く移動しろー。
ふぅ。そんで? なにこの座り方。俺は分かるよ? でもさ、なんで君達は2対3で対面に座ってる訳? ねぇ? 合コン? しかも丁寧にテーブルくっつけておいて、いざ座ったらなんで皆黙ってるの?
なんだこいつら、いざ冷静になったら恥ずかしくなったってパターンか? 揃いも揃って。
いざテーブルに座った瞬間、急に辺りが静寂に包まれる。そんな沈黙がどれ程続いただろうか、そんな中……学食内に1人の男の声が響いた。
「あぁ~腹減ったぁ」
その声は、聞き覚えのある声。そして……直感で分かる。
こっ、この声は? イカン! 奴は、奴だけはダメだ! 折角静かになったこの場が、荒れて……
「あっ、蓮!」
終わった……まぁほとんど人が居ない中、まとまって座るってる軍団居たらそりゃ気になるわな? にしても迷わず俺の名前を言うなよ。
そんな奴の声に、無言で座っていた人達もそっちへと顔を向ける。そうなったら大体皆さんも予想は付いてるだろう。そう、始まるのだ……クソイケメン元委員長の時間が。
「あっ! 日城さんも居るじゃん! あれ? 高梨さんも? ん? 海璃ちゃん? それと……」
「あぁぁ! 片桐先輩!!」
いきなり立ち上がるんじゃないよ! 心臓飛び出るだろ? にしても最悪だな……この2人が出会うとは……
「おぉ! 相音じゃんか! 鳳瞭来たのか!」
「はい! 来ました! 月城先輩にも会えて、片桐先輩にも会えるなんて最高っす!」
暑苦しさが倍増じゃねぇか。
「ちょっと、栄人君? 声が……って恋ちゃん?」
「あっ、こっちゃん! やっほー」
あっ、早瀬さんも一緒なのか? それだったら話は別だな。この暑苦しい連中をどうにかしてくださいよ女神様。
「こんにちわ、早瀬さん」
「あっ、高梨さん。こんにちわ。……あれ? もしかして六月ちゃん?」
「えっ、あっ! 早瀬さん! お久しぶりです!」
「久しぶり! やっぱり鳳瞭来たんだね?」
「はっ、はい」
ん? まてまて、早瀬さんが六月ちゃんの事知ってる? ん? 烏山へは行ってないはずだけど?
「あれ? こっちゃん、六月ちゃんの事知ってるの?」
「知ってるも何も彼女は……」
「走り幅跳び全中チャンピオンだからな!」
おいっ! なに割り込んでドヤ顔で話してんだよ! クソイケメン元委員長! てめぇはそんと一緒に燃え尽きてろ!
にしても、走り幅跳びやってるってのは前聞いてたけど、まさか六月ちゃんがそんなレベルの人物だったとは……いや? 待てよ? 俺は目の当たりにしたじゃないか、忍さん同様、平然と寮の4階にまで辿り着いた六月ちゃんを! そうか……彼女もまた烏野衆の一員って訳だ。だとしたら……なんの不思議もないな。
「あっ、はい。片桐さんもお久しぶりです」
「おう! 入学おめでとう! そして陸上部ウェルカム!」
「ははっ……」
おい、知ってるはずの六月ちゃんですら苦笑いしてんじゃねぇか!
「ねぇお兄ちゃん! なんだか皆知り合いっぽいけど、私だけ取り残されてない?」
「そうだな」
あぁ海璃、よくぞ気付いた。お前だけ若干取り残されてる感は否めない。
「ん? お兄ちゃん? って! もしかしてツッキーの妹さん?」
「月城君の?」
「えっ? あっ、はい!」
「月城海璃、桜ヶ丘中出身」
おい、だからちょいちょい口出すんじゃないよ。
「成績優秀、運動神経並、生徒会所属」
お前も流れに乗っかってんじゃねぇよ! そん!
「あんたが言わないでよ!」
いいぞ、その件に関しては全面的にお前を援護するぞ。にしても、
「えぇー六月ちゃんと海璃ちゃん同じクラスなんだ?」
「はい。えっと……」
「あぁ、私は日城恋。君のお兄ちゃんにはかなりお世話になってるよ」
「えっ! そうなんですか! 兄がご迷惑を……」
いや、なんでお前が謝ってんの! 俺はそんなに出来悪くありません!
「六月ちゃんと練習できるなんて楽しみだね?」
「はい! 琴さんと一緒に部活できるの嬉しいです!」
「これからよろしくね?」
「ところで高梨さん、鳳瞭には慣れた?」
「あっ、それっすよ。なんで凜さんがここに?」
「実は交換学習でね……」
なんだよこのカオスな現場は……てか今度は完全に俺だけ取り残されてるんですけど? あぁ、なんか頭痛くなってきた。会話の大渋滞じゃねぇか!
こんなメンツと一緒に……新学期が始まる……
果たして俺は、この個性豊かな人達と共に、無事1年間を乗り切る事が出来るのだろうか。
……せめてあと1人、ツッコミが欲しいよ!
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