第86話 それはそれで分かる気がする

 



「なんで恋がここに居んの?」

「なんでツッキーがここに居るの?」


「……いやいや、こっちのセリフ!」

「……いやいや、こっちのセリフだし!」


「ははっ」

「ふふふ」


 なんだよこれ? 見事にハモってるんですけど?

 誰も居ないはずの部室に、まさかの先客。その名は日城恋。まさか電話で話してる人と部室で遭遇するなんて思いもしないし、それだけにその偶然が俺も恋もおかしくて仕方がなかった。


 偶然すぎんだろ? まぁいいや、とりあえず俺も自分の椅子に座らせてもらうよ?


「それにしてもなんで恋は部室に?」


 そう話しながら、俺はいつもの自分の席へと足を運ぶと、パイプ椅子に手を伸ばす。


「いやー、私はちょっと考え事をね? 部屋だとなんかこう……気分が乗らないって言うか?」


 へぇー考え事ねぇ? よっこいしょっと。


「なるほどねー」

「それで? ツッキーは何で?」


「ん? 俺はあれだよ。入学式とか諸々終わったら学園案内してって言われてさ? 部屋に居ても暇だし」

「学校案内? でもそれで暇だからって部室ってのも変じゃない?」


 あぁ、言われてみれば確かに!


「んー、それも一理ある」

「認めちゃったよ!」


「まっ、気にしない気にしない」

「いやいや、逆に気になっちゃうよ? それにしても……その学園案内してほしいって人って、もしかして六月ちゃん?」


 おっと、残念ながら違うのよね。


「あっ、いや? 俺の妹」

「妹?」


「うん」

「妹?」

「うん」


 ん? 何だ? やけに食いついてる?


「……妹!? ツッキー妹居たの!?」


 うおっ、いきなりでデカい声出すなよ! 鼓膜がキーンってしたよ!


「どうしたよ? そんな大きな声出すほどの事か?」

「いやいや、驚くに決まってんじゃん? むしろツッキーに妹が居た事すら知らなかったし! しかも鳳瞭に入るってなったらそりゃ驚くでしょ?」


 ん? あれ? 俺恋に言ってなかったけか? あれ? 言って……あぁ、ないですね?


「なるほど! ごめん、恋に言ったという間違った記憶がございました」

「でしょ? いきなり言われたら誰でもこんな反応だよ?」


 ですよねー? まぁちゃんと恋にも挨拶させるからそれで勘弁してもらうしかないよな?


「ごめんごめん、でもまぁそんな感じでさ、妹も鳳瞭に来るから……その案内を頼まれたんだよ? んでそれまでの間暇だったから……当てもなくとりあえず部室来たって訳。今度時間ある時紹介するよ」

「えっ、本当? 嬉しいなぁ。早く見て見たいなぁ……ツッキーの妹さん」


 いや、本当にただの普通の女の子だからね? 変に期待しないでね? 絶対だよ?


「はいよ。それで? 恋は? 考え事って言ってたけど?」


 そうだ、ワザワザ部室で考え込むとは……もしかして新聞部関係の事とか?


「えっと……あれ? なんだったっけ?……あっ、そうだ思い出した!」


 おっと、思い出した? なんだろう?


「ツッキー、さっき電話で言ってたの思い出して?」


 電話? 恋にそう言われると、俺はひたすらさっきの電話でのやり取りを思い出していく。

 そういえばさっきの電話って……凜大丈夫って話と? あとは、えっと……なんか最後辺りになにか……


「高梨さんと私……親戚なんだって」


 あっ、これだ! 恋と凜が親戚だとかどうとかって話し? へぇ、そうなんだ? まぁ顔も似てるし、可能性としては全然あり得ない話じゃないよね? それにしても親戚ねぇ……なんだか凄いよな。ん? あれ? 親戚? 


「ん? 親戚?」

「うん……」


「親戚?」

「うん」


 えっ? 聞き間違いじゃないよな? 親戚って……親に戚の親戚だよな? えっ? はっ? 恋と凜が……親戚……


「……えぇ!? 親戚!?」


 恋の言葉を一旦冷静に考え、一通り理解した瞬間、それは俺の口から突如として飛び出る。

 いや? 親戚よ? 確かに似てるけども? まさか鳳瞭でその関係を知る事なんてある? てか、中学と高校でその血縁者達と知り合いな俺もなかなかじゃね? てか……すげぇよ!


「ちょっ、ツッキー! いきなり大きな声で叫ばないでよー! 耳がキーンってしちゃったよ!」

「いやいや、驚くに決まってんじゃん? 恋と凜が親戚? そりゃ、顔似てるからまるっきりの別人ってよりは、なんだか妙に納得もするよ? でも、まさか高校で? しかも偶然出会うなんてヤバくね? しかも、その2人と自分が知り合いってのもまぁまぁ驚きなんですけど?」


「あっ、そうだよね? ごめん」

「だろ? そんなの言われたら誰だってこういう反応だって」


 にしても……マジでびっくりなんだけど?


「だよね? でもさ、私もびっくりしたんだ? それでね? ツッキー? さっき確認したい事あるっていったじゃん?」

「ん? あぁ、言ってたね」

「その……大丈夫かなって?」


 大丈夫……そう言えばさっきも言ってたな?


「だってさ? その……高梨さんってツッキーを……振った訳じゃん? だから嫌じゃないかなって?」


 あぁ! そっちの話? なるほどね? 俺を振った凜は親戚、でもその件で俺は嫌な感情を持ってるはず、だったら仲良くし辛いとか……そんな感じで気になったって感じか? 

 全く心配症だよ恋は。その事なら大丈夫、俺はそんな事もう気にしちゃいないから。むしろ心配してくれてありがとうだよ?


「あぁ、全然大丈夫。その件については全然気にしてないよ?」

「えっ? 本当?」


「あぁ、それに昨日凜とも話したし? それなりに普通に」

「そっ、そうなの? ……昨日?」


「うん。だから、凜はただの友達。そして恋の親戚。恋の事だから、自分が凜と仲良くしてたら俺が気分悪くなるんじゃないかって心配してくれてんでしょ?」

「そっ……それは……」


 当たりですね? 本当に嘘つくの下手だよなぁ。


「大丈夫だから普通に仲良くして良いんだぞ? てか、仲良くしないとね?」

「ツッキー……ありがとう」


「いやいや、お礼言われるような事じゃないでしょ? あっ、今更なんだけど」

「なにかな?」


 そうだ、どうせなら聞いても良いんじゃないか? 本当に親戚なのか、その根拠とか?


「本当に親戚なの?」

「あっ……うん。昨日休み時間に4組に来てさ?」


 あっ、あの北沼コンビが行くって言ってたもんなぁ。


「そりゃ始業式でも紹介されてたし、ツッキーの事もあったから……最初は凄く警戒したのね?」

「ふむふむ」


 おっ、マジか? ありがとう。


「でも、私の顔を見るなり突然……もしかして恋ちゃん!? って言われてね? 驚いちゃって……」


 ファーストコンタクトでそれは驚くよなぁ。


「しかもいきなり親戚かもって言われて。でもさ? 高梨さんの話が、なんか自分の覚えてる小さい時の記憶とほぼほぼ一致しちゃってて。確かに小さい頃良く一緒に遊んでた女の子の記憶はあったし……」


 そういう事か? 名前とかは定かじゃないけど、何をしたとか? 何をして遊んだとか? 何処で遊んだとか? 恋の記憶と凜の話が一致したって事か。


「それで、ママにも聞いてみたんだけど。やっぱり小さい頃遊んだ事があるみたいで……名前も一緒だったの。それで……多分親戚ってのも本当。ママのお母さん……つまり私のお婆ちゃんは双子でね? そのお姉さんの孫に当たるみたい」


 へぇー! そう言う事か。


「なるほどね? でもまさか恋と凜が親戚とは……世間って意外と狭いよな?」

「本当……びっくり」


 まぁ、それなら偶然の再会も相まって、仲良くして欲しいなって思う。そこに俺の意見なんて必要ないでしょ? 


「それなら尚更、仲良くしないと? こんな偶然って滅多にないよ?」

「本当にいいの?」


「良いも何も……恋が良いならもちろん」

「本当?」


「本当」

「ツッキー……」


「ん?」

「一緒に居たら……私の事嫌になったりしない?」


 嫌いに? なる訳ないだろう? でも、そんな事心配してくれてるなんて……やっぱ可愛いじゃねぇか!


「あり得ないよ」

「……分かった! にししっ、ツッキーありがとう」


「いえいえ、どういたしまして」

「ふぅ……なんか全部言ったらスッキリしちゃった!」


 おっ、なんとなくいつもの恋に戻ってきたかな?


「いつもの元気を取り戻したのかな?」

「まぁね? これもツッキーのおかげ」


 いやいや、大層な事してません。


「それなら良かった」

「さって、じゃあ悩みも解消した事だし……私は寮に戻ろうかな?」


「だな。一緒に学園でも見て回ったらどうだ?」

「あっ、それも良いかも」


 やっぱ、恋は明るい方が似合ってる。イメージ通りだし……俺もそこが気に入ってるからね。


「じゃあ……ツッキーは妹さんの学園案内頑張って?」

「了解! 今度ちゃんと紹介するから」


「やったね! 楽しみにしてるからね? じゃあ……とりあえずバイバイ! 明日またね?」

「はいよー! じゃあな」


 ガチャン


 俺に笑顔で手を振りながら、部室をあとにした恋。それは本当に何かすっきりとした様な顔で、それを見れただけでも少し安心した。


 にしても……親戚とはねぇ。本当に偶然すぎるけど……妙に納得もできるし? なんだかんだで世間って狭いもんだ。


 まっ、あの様子じゃ2人とも仲良く出来るでしょうし? 良いんじゃないかな?

 って、それより問題は俺達兄妹か? まっ、とりあえず無難に学園案内しましょうかね? となると時間は……まだ全然ある事だし……


 ちょっくら一休みしますか?


 いつもの昼休みのように、机に顔を伏せてゆっくりと目を閉じる。机の肌触りと、部室に漂うほんのりとした木の香りは、やっぱり眠りを誘う最強の組み合わせだった。


 大丈夫、いつも通り昼休みが終わる時間にアラームは鳴るようにしてるから、寝坊の心配はないだろう。

 だから、少しだけ……



 おやすみなさい。



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