天壌無窮の2年生編

第83話 まぁ世の中には似てる人が3人居るって言うし……そうだよね?

 



 いいか月城蓮。冷静に考えろ。


「京南女子高等学校2年の高梨凜です。宜しくお願いします」


 最初、恋に会った時だって驚いたもんだろ? 凜に滅茶苦茶似てて、本人かと思っただろ?


 パチパチパチ


 そうだ、でも結局別人だった訳だ。


「以上、京南女子高等学校の皆さんでした。ありがとうございましたー」


 だったら可能性だってある、十分にあり得る。


 パチパチパチ


 あの高梨凜だって、顔の似てる同姓同名の別人だろ?




 全校集会が終わり、より一層ざわつく教室。

 まぁその中心となる人物は、わざわざ確認しなくても予想は出来る。


 朝よりも人だかりができている……席。そこに居るのはあいつに似ていて、あいつと同姓同名の生徒。

 ……そうだ。あいつは奇跡的に似ている……


「ねぇねぇ、高梨さんってどこの中学校だったの?」

「えっ? 私は桜ヶ丘って所だよ? ちょっと離れた所にあるんだけどね?」


 ハイ終わった。別人説終わったー。


 一体何なんだよ。しかも席が微妙に近い! だからこそ聞きたくもない情報がわんさか聞こえるんですけど? あぁー! この顔を伏せて若干視線を外に向ける、昼寝してますポーズから体勢変えらんねぇよ! 


「えぇー!? そうなんだ? じゃあ2組の片桐君とか知り合い?」

「片桐君? もちろん知ってるよ?」

「きゃー、本当?」


 とどめの一撃じゃねぇか。が、そこの……えーと……沼尾さんだっけ? 良く栄人の名前を出した。という事は俺の存在は他のクラスの連中にはそこまで知られてないんじゃないか? これはクソイケメン元委員長に感謝せねばなるまい。


 それにしても、なんで凜が? いい機会だ、順を追って考えていこう? 

 凜が春ヶ丘じゃなく、違う高校に行ったってのは立花が言ってたから知ってる。

 家から離れて寮に入ったってのも、菊地が言ってたから知ってる。

 そして凜は、京南女子高等学校の生徒として……交換学習で鳳瞭へ来た。

 京南は確かに桜ヶ丘から結構離れている。あれ? だとしたら、もしかして寮も……


「でも桜ヶ丘からだと京南まで遠くない? あっ、寮から通ってるのかぁ」

「そうだよ? さすがに毎朝あの距離はキツいからねぇ」


 あっ、あるんですね? 寮? あるんだ……って、まさに皆から聞いた話と一致してんじゃねぇか!


「それにしても、高梨さんって……4組の日城さんに似てるよね?」

「日城さん?」


 はっ! マジかよ!? そこ言っちゃうのか? えっと……沼尾さんと一緒に居るあなたは……北山さんだっけ? まぁ実際似てるとなると、聞きたくなる。これも自然の摂理か。


「そうそう。あっ、確か早瀬さん1年の時同じ組だったよね?」

「えっ? あっ、うん」


 早瀬さんも巻き込まれた―! 


「ね? 2人似てない?」

「うーん。確かに顔とか……声も似てる気がする」

「本当? そんなにー?」


「じゃあさ、休み時間に行こうよ? 早瀬さんも一緒に!」

「えっ……私は……」

「いいじゃん! いいじゃん!」


 はぁ……なんかこの沼北コンビって三月先生と恋に似てね? どっちも良い意味明るい感じで、悪い意味……おせっかい系? あの2人が揃った時の感じになんか似てるんですけど?


 ガラガラ


「はーい、じゃあホームルームやろっか?」


 あっ、噂をすれば来ました。


「じゃあそういう事で! 後でね?」

「あっ、あのっ!」


 にしても、早瀬さんも大変だな? こういう人達って勢いあるから、優しい早瀬さんが無理矢理その勢いに流されなきゃいいけど。

 俺が出ていっても良いけど、初っ端からだとクラスの女子達との関係に響きそうだし? その辺は恋が居たから上手くいってた部分もあるんだよなぁ……もう少し様子見ますか?


 たかがクラス替えで、こんなにも人間関係とか雰囲気とか変わるとは……今となっては恋しいぜ! 1年3組の連中が! 




「おい? あれ高梨さんだよな?」

「ん? だろうな?」


「桜ヶ丘の高梨さんだよな?」

「あぁ、そうだろうな」


「んで? 話した?」

「全然?」


「そうか。てっきり挨拶ぐらいしてるかと思ったわ」

「いやいや、多数の生徒に囲まれてたら話し掛けるどころじゃないだろ? 安心しろ、お前の事は覚えてたみたいだ」


「そりゃ桜ヶ丘に居たんなら大体の同級生の事位分かってるだろ? それにお前だって……」

「ん?」

「あっ、いや。なんでもない」


 ……あぁ、こいつあの噂の事まだ気にしてんのかな? まぁ俺に言った張本人だし? しかし、噂はあったにせよ誰も信じてなかったって立花から聞いちゃったんだよなぁ。

 まっ、いっか。こいつには感謝する事より、謝罪してもらいたい事の方がパーセンテージ高いから、まだ言わないでおこう。


「まっ、その内ちょいちょい話すわ」

「だな。交換学習とはいえ友達も居ない鳳瞭だと、最初は苦労するだろうし!」


 栄人よ、お前って心底良い奴だよな? 




 あぁ……なんか初日から疲れたんだけど? 午前授業で助かったわ。それにしても栄人を始め、始業式の日にも部活あるってヤバいよな? さすが力の入り方が違う。まぁそんな俺は暇を持て余して、こうしてボーっとしてるんですけど……まさか交換学習で来たのが凜だとはね? 恐ろしい。


 別に今更どうしようなんて思ってもない。あの噂は……広がってはいたものの、皆が本気で信じる程ではなかった。


 でも、悲しいかな。凜に振られたってのは事実なんですよ? それともう1つ……噂の発端。

 火のない所に煙は立たないって言うでしょ? まぁ立花的には凜の事気になる奴が流したんだろ? って話だけど、それにしてはタイミング良すぎないか? それに関しては何とも言えない。可能性もある訳で……そう、


 凜が噂を流したって可能性も。


 まぁそれが本当なら、俺は相当凜に嫌われてたのかな? もしくは調子乗って告白したから一気に爆発したとか? 俺への態度も、誰にでも優しいって凜の性格の延長線上だったとか? それなら全てが一致するんですけどね? 精神的にはズタボロになりますけど。


 そう考えると、そんな奴に高校でまた出会うなんて不運でしかない。

 まぁだとしたら無理に近寄って来ないだろうし、こっちからわざわざ近付く必要もない。前までだったら、凜に対して憎しみとか怒りとか満載だったけど……お正月辺りでめっきり薄れた。今の俺にとって、凜はただの普通の知り合い。告白して振られたなんて、過去の話。別に……気にしちゃいない。


 ふぅ。やっぱ4月の風はいいなぁ、春の匂いがする。


 ガチャン


 その時だった。不意に屋上のドアの開く音が耳に入る。

 ん? 誰か来た? こんな日にここへ来るなんて、新しい組に馴染めない奴かな? まっ、気にしない気にしない。裏側のこっちには来ないでしょ? それより、新聞部も始動かぁ……無理難題……


 俺としては、誰が来たとかそこまで気にはならなかった。

 いや。色んな事を考えていると、あいつの事が頭の中に入って来そうで……無理矢理別の事を考えようとしていた。


「やっぱり……ここに居た」


 ただ、後ろから聞こえたその声。聞き覚えのある声に、頭の中は一瞬で曇る。

 ここ1年で聞き慣れた声。けど……聞き慣れた話し方じゃない。


 良い意味で……物凄く懐かしい。

 悪い意味で……2度と聞きたくない。


 10年近く聞き続けたそれは、嫌でも頭の片隅に残っていた。


 マジかよ? 俺には近付いて来ないと思ってたんですけど? それなら俺も、わざわざ近付く必要はないなって考えてたとこなんですけど?


 まぁ、理由はさっぱり分からないんだけどさ? 


 本当に、なんでここに来たのかな?


 どういう意図で……俺に話し掛けたのかな?


 なぁ……


「久しぶり、蓮」



 高梨……凜。


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