求ム！即効性のあるメンタルトレーニング〜クラスメイトがトラウマ幼馴染に瓜二つなんです〜

第79話 そんなフラグは回収したくない！

「嘘！　六月ちゃん鳳瞭に来るの！？」

「あぁ、そうみたい」

「やった！　可愛い後輩が出来るぞぉ」

　とある放課後。恋の心底嬉しそうな声が２人しか居ない部室に響く。

「絶対ストメのＩＤ交換しよっと」

　あれ？　恋って六月ちゃんとＩＤ交換してないのか？　仲良さそうにしてたからてっきり交換したとばかり思ってたけど……

「あれ？　あの時ストメの交換してなかったの？」

「あっ、うん。ほら私……って何思い出させてんの！　めちゃめちゃ恥ずかしい黒歴史なのに！　ツッキー酷い！」

「えぇ！　俺のせい？」

　まぁ確かに記憶を無くした揚句、風呂の脱衣場で爆睡。次の日は頭痛と来たら……思い出したくはないよな？

「ごめんごめん」

「にしし、冗談だよ。まぁツッキーになら見られても良かったしね？」

　はっ！　こいつ狙って言ってんのか？　ただの偶然なのか？　ちょいちょいドキッとするような事言うよな？　しかも突然。反応に困るからやめてくれ。

「とっ、ところで……恋はなんで部室に？」

「えっ？　新聞部だからだよ？」

　いやいや、そう言う事言ってんじゃないのよ？　今日は俺達男子組もアンケート待ちで休み。恋とヨーマに関しても自由行動だってのになんでわざわざ部室に居るのかって事よ？

「いや、恋達は自由行動だろ？　別にやる事ないなら部室に来なくたって……」

「だって、暇なんだもん」

　うわ！　シンプルな答え来た！

「そういうツッキーはなんで部室居るのさ？」

　おっ、なかなか痛い所をついてくるな？

「俺は新聞のレイアウトを熟考する為に来たんだよ」

「そうなのー？　やっぱツッキーってなんだかんだ言ってやる事はやるよねー意外と」

「意外とってなんだよ！」

　ガチャ

　いつもと変わらない恋との会話。そんなやり取りをしていると、開く予定もない部室のドアがガチャリと動く。

　ん？　ヨーマか桐生院先輩？　でも桐生院先輩は家の用事があるってメッセージ来てたし、だからこのレイアウト集をもらったんだけど……？　となるとヨーマ……

「おぉ、れっちんにツッキー！　お疲れー！」

　あぁ、そう言えばもう１人居ましたね？　顧問が。

「あっ、みつきっち！　聞いたよー、六月ちゃん鳳瞭来るんだって？」

「そうなんだよねー、私もびっくり。てっきり近くの高校行くと思ってたからさぁ」

「忍さんも同じ事言ってましたよ」

「でしょー？　悪いね？　奴ら２人してお部屋にお邪魔して」

「お部屋？」

「うん、昨日ツッキーの部屋に挨拶行ったみたいでさ」

「部屋に……」

「窓いきなり叩かれたから驚いたけどね？」

「へっ、へぇーそうなんだぁ」

「４階の窓の縁にしゃがむなんてあり得ないでしょ？」

「まぁ私達にとっては普通なんだけどねー」

「俺達にとっては普通じゃないんです！　なぁ？　恋？」

「あっ、うん！」

　ん？　話聞いてなかった？　反応が……

「それにしても、次の特集はどんな感じ？」

「今アンケート待ちです」

「ほほう……」

　あっ、なんか嫌な予感する。ヨーマにしろ三月先生にしろ、この微笑み方は嫌な予感しかしないぞ！

「ちなみに私は……切れ味の良い小刀とかが良いかな？」

　小刀？　なに憧れるような眼差しで言ってんだよ！

「世間じゃそういうのを銃刀法違反って言うんですよ？」

「えぇー、れっちんは何が良い？」

「えっ？　私だったら……て……」

　おっ、恋か……お返し期待してって言っちゃったからなぁ。出来るだけ本人の欲しい物あげたいけど？

「定番のお菓子系とかはないよねー？」

「あっ、そっ、そうだよね？　私だったら……そう！　美容グッズが良いなぁ」

　美容グッズ？

「美容ー？　れっちん何言ってんのーこんなモチモチ肌で？」

　そう言いながら、三月先生は恋の頬を摘まんで羨ましそうにその感触を楽しんでいる。

「ひゃめてくださいー！　もひもひなんかひゃないでふー」

　モチモチなんかじゃない……ね？　でも俺から見ても恋の肌ってかなり綺麗だと思うぞ？　でもやっぱりそれなりの努力してるって事なのかな？

「はぁ……れっちんの肌触ったら自信無くなってきちゃった」

「その腹いせに人のほっぺたで遊ばないで下さいー！」

　仲良すぎだろ？　年相応の姉妹かよっ！　でも三月先生だってまだ２０代前半だろ？　見た目的には綺麗だと思うけどなぁ……

「そう言う三月先生はなんか美容に気を使ってるんですか？」

「私？　全然」

　はっ？

「全然って……何にもしてないんですか？」

「うん」

「えっ？　じゃあ、みつきっちお化粧とかは？」

「全然！　これすっぴん」

　いや、そんな化粧してるイメージ無いから薄化粧かなぁっては思ってたよ？　でも、全く美容に気を使ってなくてしかもノーメイクって凄くね？

「いや、先生も十分凄いと思いますけどね？」

「えっ？　本当？」

「まぁ……なっ、恋？」

「あっ、うん……そうだね」

「少しやる気出た！」

　毎日やる気出してください。そんなのでテンションが変わる副担任兼顧問なんて嫌です。

「さぁて、じゃあ残ってる仕事やりに行くかなぁ！」

「仕事って！　なんで部室来たんですか？」

「休憩！」

　はぁ……この人本当に教員免許あるんですかね？

「そんじゃ、良い息抜きになったし、じゃあねー！」

　颯爽と行っちまったよ！

「ははっ、相変わらずだよな、三月先生」

「うん、そうだね？」

　それにしても、恋は美容グッズが欲しいのか。美顔パックとか？　恋のモチモチ肌には必要ないと思うけど、本人が欲しがってるならお返しはこれかな？　まぁ後はお店の人にお勧め聞いて買えばいいし。

　でもなぁこれだとサプライズ感というか……恋から貰ったチョコは梅干し入りで良い意味で驚いて、嬉しかったし、それに負けたくないんだよなぁ。なにか良い案は…………あっ！

　恋を越えるサプライズが出来るような何か……それを考えてた時だった、頭にふとホワイトデー特集をヨーマに告げられた時のやり取りが浮かんでくる。

　ホワイトデーと言えば……クッキー？　はっ！　もしかして俺と桐生院先輩が美味しいクッキー作りを！？

『シロ！？　あんたまさか美味しいクッキーのレシピとかそんなんだと思ってんじゃないでしょうね？』

『えっ、違うんですか？』

『甘い！　采！？』

『えーっと、食べ物とかじゃなく総合的に女の子が貰って嬉しい物の調査とかかな？　バレンタインでチョコレシピやったし、ホワイトデーでクッキーレシピだと特集の内容的に似た感じだしね？』

『さすが采！』

『大体、今時の男子がクッキーを手作りすると思う？　考えづらいでしょ？　だったら、喜ぶ物をランキング形式にした方がよっぽど男子の役に立つんじゃない？』

『なるほど……確かに！　でも男子からの手作りクッキーって少し憧れません？』

『恋、現実をハッキリ見なさい？　そんな男子……絶滅危惧種よ！』

『えぇ！　そんなぁぁ』

　これだ！　確かあの時恋は、手作りクッキーって憧れません？　って言ってた！　いいぞ？　六月ちゃん程じゃないけど俺もなかなか良い記憶力してんじゃん！　でも待てよ？　ついさっき定番のお菓子系とかはないよねーって三月先生の言葉に賛同してたような……いやっ！　これは誠意だ、真心だ！　気持ちがこもってたら良い……はず。

　まぁ、嫌だったら捨ててもらっても良い。とにかく、恋の記憶に残る様なお返しと言ったら、手作りクッキーが１番じゃないか？　となると、レシピはスマホで調べりゃ一発なんだけど……あっ！　作る場所の確保か！　しまった申請してもらわなきゃダメじゃん。しかも顧問……。

「ツッキー？　どうかした？　考え込んじゃって？」

　はっ！　いかんいかん、ここで恋にバレたら元も子もないぞ！　ここは一旦……退却だ！

「えっ？　あぁ、何でもないよ！　あっ、そう言えば三月先生に確認する事あったんだ！　そんで俺そのまま帰るわ。恋、また明日ね」

「えっ？　うっ、うん。わかった…‥また明日ね？」

　ガチャ

　っと！　何とか脱出できた。バレてないよな？　大丈夫だよな？　ホワイトデーまで秘密にしないと計画がパーだからなぁ、慎重いかないと。んで？　三月先生はあの口ぶりだと職員室かな？　少し急ごうか……って居たぁ！　廊下曲がった先、結構近くに居た！　ガラス越しでも分かるんですけど？　ダルそうな雰囲気が！　まぁいいや、善は急げ、さっさとお願いしよう！

「三月先生ー」

「んあ？　あぁツッキーどしたの？」

「いや、実は先生にお願いがありまして」

「お願いー？　ほほう、なんだね？」

　だから、そのドヤ顔止めてください！

「えっと、明日と明後日。後１３日の放課後、家庭科室使いたいんですけど、申請お願いできます？」

「家庭科室？　ツッキーだけ使うの？」

　おっと、理由言ったら絶対バカにされて、イジられるの見え見えなんだよなぁ。上手くはぐらかそう。

「いえ、桐生院先輩と……ほら特集の！」

「あぁ、そういう事ね？　なになに？　クッキーでも作るの？」

　ドキッ！　なんでそんなピンポイントで分かるの！　偶然だとしても驚くんですけど？　ここは冷静に冷静に！

「まぁそれも含めて、定番から変わったお菓子までリサーチ出来ればなって。ただアンケート待つよりだったら有意義でしょ？」

「ははぁー、それは確かに言えてる。」

　怪しまれてないか？　大丈夫か？

「それならいいよー、申請出しとくよ。材料費とかも必要なら言ってね？　まぁまずは葉山っちに了解取ってからだと思うけどね？」

「わかりました！　ありがとうございます」

　よっし、バレてないバレてない。これで場所の確保はＯＫだな？　後は美味しいとまではいかなくても、食べれるレベルまでクッキーを作れるように練習するだけだ！

「あっ、それとツッキー？」

「はっ、はい？」

「１３日って金曜日だよ？」

「えっ？」

　１３日？　金曜日？　どういう事？　あぁ、かのホラー映画の題名って言いたいのか？　チェーンソーをイメージするけど、実際には使ってないってので有名な！　まぁ確かにあれはイメージとして……

「つまりホワイトデーは１４日……土曜日。土日挟んじゃうよ？　まぁ渡す人が寮に住んでるなら全然ありなんだけどね？」

　土曜日？　……あっ、そういう事か別に土曜に渡せば……って！　ちょっと待って、なんで渡すの前提で言ってんの？　俺そんな事一言も言ってないんですけど？　

「なっ、なんの事でしょう？」

「それ位私だって分かるよー。　特集の為ならホワイトデーの前日に家庭科室借りる必要なんてないじゃん。ツッキー、ミスったな？」

　はっ！　たっ、確かに！　勢いで１３日もとかって言っちゃったけど……くそっ、俺とした事が！　うっわ滅茶苦茶ニヤニヤしながら見てるー！

「作り方教えてあげようか？」

「いえっ、結構です！」

「ほほう、私結構教えるの上手いんだけどな？」

「結構です！」

「いいのかな？　ツッキーが家庭科室借りてるの言っちゃおうかな？　葉山っちとかれっちんにー」

　はっ！　出た！　それとなく知られては困る人達を挙げる……計算され尽くした脅迫！

　ゴクリ。あっ……ヤバい。これは完全に追い込まれました。

「わっ、わかりました！　お願いします！　作り方教えてください！」

「仕方ないなぁ。頼まれてやるかぁテヘッ」

　なっ、何がテヘッだよ！　俺にとっての大事な局面をウキウキで見たいだけじゃねぇか！　ちくしょう！

「まぁ、やるからには最高に美味しいのにしないとね？　そんで、ツッキー的には何を作るかは決めてんの？」

「はっ、はぁ……。一応クッキーを」

「クッキーね？　了解！　ははっ！　大船に乗ったつもりで任せなさーい！」

　いやいや、三月先生……それって壮大なフラグにしか聞こえないんですけどぉ！