第78話 どうなることやら

 



「じゃあ行くよ? 現金」

「はい」


「次はーアクセサリー」

「はい」


「腕時計」

「はい」


「キーケース」

「はい」


「財布」

「はい」


「指輪」

「はい」


「小旅行」

「はい……」


「土地」

「……桐生院先輩?」


「ん? 次はマンション」

「もうやめてください! 理想と現実の差が激し過ぎます!」


 あのバレンタインデーから数日。俺と桐生院先輩は次の特集予定であるホワイトデー(女子達の欲しい物ランキング)の下準備をしている。


 とりあえずウェブサイトを利用し、全国各地の女性達にアンケートを答えてもらう。そしてその回答を集計しようと思った訳なんだけど……待っていたのは、微かに残っていたバレンタインの余韻を吹っ飛ばすくらいの非常な現実。


「ははっ、まぁこれは全国の10代女性の答えだからね。一概に鳳瞭学園の生徒に当てはまるとは思えないけど……気持ちは分かるよ」


 本当に10代なのか? 考えがあまりにも現実主義的なんですけど?


「そうですけど……そもそもなんでホワイトデー特集は女子の欲しい物ランキングなんですかね? バレンタインと同じ感じなら男子がプレゼントするべきお返し特集! とかになりそうですけど?」

「その考え自体がバレンタイン特集と被るからじゃないかな? それか……」


「それか?」

「その結果を元に、彩花自身が欲しい物を僕たちにアピールする目的とか?」


 はっ! 何それ!? 上手い具合に特集の内容を被らせない様にしつつ、女子=自分の意見をアンケートと称して俺達に発表し、それを半強制的にお返しとして戴く……なんて恐ろしい事を考えているんだ!

 いやいや、これはある意味素晴らしく計算された流れ? やはりヨーマ……奴の考えは色んな意味でヤバい!


「なんちゃってね、さて冗談はさておき」


 いや、桐生院先輩。あんたが言ってる事、全部本気でヨーマが考えてそうなんですけど? 具体的すぎるんですけど?


「どうしよっか。とりあえず鳳瞭学園の女子生徒にもアンケート送っちゃおうか? まぁそれで選ばれた物を無理に男子生徒がプレゼントする必要もないしね」


「そうですね……」


 ぶっちゃけ、男ならランキングで掲載された物を意地でもプレゼントするに決まってるぞ? 金額にもよるけど……気になる子へのお返しなら尚更! 改めて男女両方の性格を理解してるわヨーマって。まぁ変に内容変えてヨーマから攻撃受けたくないし……別にいっか。


「じゃあ、僕が送っとくよ。締切は大体1週間前後でどうかな?」

「それでいいと思います。最初から全女子生徒から回答もらえるとも思ってないですしね? それにその日程ならホワイトデーの1週間弱前には新聞も出来ると思いますし」

「了解。じゃあとりあえず今日はこれ位にしとこう。と言っても集計までやる事ないんだけどね?」


 確かに。今までの取材に比べるとだいぶ楽な気はする。ただ……


「ですね。まぁ、葉山先輩が途中で変な思い付きをしなきゃいいんですけどね」

「それは……あり得るよね? その辺も十分身構えておこう」


 桐生院先輩……苦笑いしてんじゃないですか! 絶対過去にあったんでしょ? そうなんでしょ? 


「桐生院先輩……了解しました」




 やはり、一筋縄ではいかないかヨーマ。

 寮に戻りいつも通りひと風呂浴びた俺は、来るべきヨーマの思い付きに恐怖を感じながらも……考えうる対策を必死に練っていた。

 ヨーマの考えそうな事ねぇ。もはやありすぎて困るんだけど? そんな時、


 コンコン


 窓を叩く音が聞こえる。ここ4階の窓を外から叩く……そんな芸当できるのは、俺の知る限り2人しか居ない。まぁ普通じゃあり得ない現象に慣れてしまっている自分もどうかしているけどね。


 さて、誰でしょうね? 

 なんて考えながら窓の方へ視線を向けると、そこに居たのは……


「蓮、すまん俺だ」


 忍さんか。


「ちょっと待ってください? よっと……どうぞ?」


 窓の外に居る忍さん見るのも、なんか慣れちゃったよ。


「すまんな。お邪魔する」

「いえいえ、それで今日は?」


 部屋に入るなり、何か深刻そうな表情の忍さん。その顔に、正直嫌な予感しか浮かばない。

 忍さんが俺の寮に来るって事は大体家族絡みの事だと思うけど……って、しっかり靴脱いでる。えっ? いつの間に? 靴はどこに?


「実はな、大変な事になった」

「たっ、大変な事?」

「その……六月の事なんだが……」


 六月ちゃん? 六月ちゃんになんかあったのかな?


「六月ちゃんがどうかしたんですか?」

「実は……」


 忍さんが何かを言い掛けた時だった、


「はっ!」


 何かを察知した忍さんが、窓の方を振り向いたその瞬間、


 ストン


「ふぅ。居た居たぁ」


 いや、確かに窓は閉め忘れましたよ? それにしたって、どうしてそんな平然と縁の所に足かけて、開いてる窓に手を掛けてるんです? 


 その声はどこか聞き覚えのある声。

 しかしながらさっきも言った通り、こんな事が出来る、しようとする人間を俺は2人しかしらない。目の前に居る忍さんに、副担任の三月先生。

 でも今窓の縁にしゃがんでこっちを見ている人は、声的にも体型的にも三月先生じゃない事は明らか。少し部屋の中に顔を覗かせた瞬間、電気の光に顔が照らされ正体が明らかになった。


「こんばんわ! 月城さん!」


 以前の恋を思い出させる髪型に、あどけない表情。その子は……


「むっ、六月ちゃん!?」

「やっぱり六月か……」


 忍さんの妹の六月ちゃんだった。


「忍お兄さん酷いよ! 待ってて言ったのに!」

「すまん、蓮にはあらかじめ言っておこうと思ってな」


 待ってて? 言っておこう? 何の事でしょう? てか、六月ちゃんも当たり前のようにここまで来れるんだ? ……烏野衆やべぇ


「あの……一体何の事やら? とりあえず六月ちゃんも部屋入りなよ?」

「じゃあお邪魔……はっ! おっ、男の人の部屋に……」


 ん? 靴脱いで片足ぶら下げてどうしたんだ?


「六月、早くしろ」

「しっ、失礼します!」


 なんでそんなに恥ずかしがってんだろ? まぁ細かい事は置いといて……


「それで? 忍さんは分かりますけど、なんで六月ちゃんまで?」

「あぁ、実は……」

「わっ、私! 4月から鳳瞭学園に入学する事になりました!」


 えっ?


「そういう訳だ。まぁ三月姉さんもいる事だし、大丈夫だとは思うが……なんせ友達も居ないから……」

「月城さん宜しくお願いします!」


 うおっ、常に忍さんの言葉に被せて来るぞ? それにしても六月ちゃんがね。前に話した時は、勉強の事とかは詳しく聞いてなかったなぁ。

 六月ちゃんと話した時…………いやいや、あれは不慮の事故だ! 一月さんの陰謀だ! 俺は無実だ! とっ、とりあえず合格する位だから良いんだろう。まぁ知ってる子が来るのは嬉しいしね。


「そっ、そうなの? おめでとう。俺で良かったら力になるから、4月からよろしくね?」

「あっ、ありがとうございます」

「はぁ……」


「忍さんどうしたんですか?」

「いや、友達も居ない鳳瞭へ来るなんて信じられなかったんだけどな。まさか本当に来るとは……」

「いっ、いいでしょ? 私は新天地でもちゃんと出来る子なんです!」


「人見知りで大人しいお前がか?」

「ひっ、人見知りじゃないもん!」


 忍さんの言う通り、パッと見六月ちゃんって大人しそうな感じだもんなぁ。まぁ、あくまでイメージの話だけど忍さんが言うんだから……その通りなんだろうな。


「まぁ、よく親父が許したもんだ」

「お父さんは関係ないでしょー?」

「はいはい」


 はは……仲の良い兄弟だな。ん? て事はわざわざそれを言いにここまで?


「あれ? もしかしてそれを言う為だけにここまで?」

「あっ、この後三月姉にも会いに行く予定なんです。でもその前に月城さんにご挨拶したくって! それなのに忍お兄さん先に行っちゃってー!」

「いいだろ? それにお前だったら俺の場所位辿って来れるだろ?」

「まぁ……ね?」


 いや、さも当たり前かの様に言ってるけど全然当たり前じゃないからね? おかしいからね? その会話一般ピーポーが聞いても意味が分からないからね?


「まぁ、こんな所だ。悪いな時間取らせて」

「あっ、いえいえ」


 ん? そういえば……海璃も受けるって言ってなかったか? そう言えば合格したかどうか頑なに教えてくれないんだよな。この感じだと落ちた感満載なんだけど……まぁ少し期待を持たせて、


「そういえば、俺の妹も鳳瞭受けるって言ってた」

「えっ! そうなんですか!?」


「うん、でも頑なに合格したかどうかは教えてくれないんだ」

「そうなんですか……あっ、ちなみに受験番号とかって分かります?」


 受験番号……? あっ、確か受験票届いたらしき日になんか画像送って来たな? なんかドヤ文章付きで。


「あっ、ちょっと待ってね? ……あった」

「教えてもらえます?」


「いいけど……A00190209だって。でも聞いて……」

「ちょっと待ってくださいね? A0019……」


 えっ? なんか目瞑ってこめかみの所トントンしてるんですけど? 


「A001902……」


 えっ、ちょっと待って? もしかして……怖いんですけど? 俺の想像してる事やってるなら背筋が凍る位怖いんだけど?


「えっと……」


 いやいや、まさかね? まさか合格発表で掲載された受験番号の記憶を呼び起こしてる訳じゃ……


「ありました!」


 えぇ!!


「月城さん、妹さん合格してますよ?」

「えっ、マジ?」


「はい! これでも記憶力には自信あるんです! 少し時間かかっちゃいましたけど……確かに合格してます」

「おっ、おぉ……ありがとう六月ちゃん」


「いえいえ、月城さんの妹さんと仲良くなれたらいいなぁ」

「あっ……ちゃんと紹介するよ」

「やった! ありがとうございます」


 いや、ホント怖いよ? これも烏野衆の力なの? 遺伝なの? 修行の賜物なの? 素質なの? やっぱおかしいわ……この一族。


 まっ、まぁ思わぬ形で海璃の合格も分かった事だし、六月ちゃんが楽しい学園生活送れるようにサポートしますか。海璃も友達居ないだろうし、同じ組になれば良いんだけどな。


「なぁ……」


 おっ? 忍さん?


「なんですか?」

「ネットで見れば一目瞭然じゃないか?」


「……」

「……」


 ネット……? ネット……? 


「……忍お兄さんのバカぁー!」


 うおっ! ものすごい勢いで窓から飛び出してった! 


「おっ、おい待て六月! れっ、蓮そういう事だからよろしく頼むな!」


 それを追いかけて行くのも速ぇー! あの何回も言いますけど、ここ4階だからね? 普通飛び出さないから?


 ……にしても、そうだよな。このネット社会の時代、合格発表位調べれば一発なんだよな? 鳳瞭がそれを採用してないとも思えないし……。


 ポチッとな


 鳳瞭 合格発表


 検索すればトップに出てくる、合格者受験番号一覧というバナー。

 えっと、どれどれ? あっ、本当だあったわ。


 ……俺ってば、なぜ考えれば分かる事を見逃していたんだろう。海璃からの教えない発言を真摯に守り、入学式まで待っていようと思ってた俺って……


 ふっふっふ、妹の言葉に疑いを持たない……俺にもそんなピュアな心があるじゃないか! 誇れ! 海璃よー!


「はっ、はっ、はぁー!」


 ドンドンドン


「おい蓮! 面白いの見てるなら俺にも見せてくれよ!」


 はぁ。いつも通りクソイケメン委員長と……晩飯でも食いに行こっ。



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