第77話 それぞれのバレンタイン

 



 ―――早瀬琴の場合―――


 うぅ……栄人君いっぱいチョコ貰い過ぎだよぉ。これじゃ私のチョコなんて霞んじゃう。せっかく恋ちゃんと一緒に作ったのに。


 休み時間とか引っ切り無しに女子達が来るし……タイミングもない。こうなったら部活終わってからが勝負かな? 頑張れ琴!




「お疲れ琴ー」

「うん、お疲れ様」


 とりあえず部活は終わって、着替えたんだけど……確か栄人君は居残りでウェイトトレーニング練習するって言ってたっけ? まだ居るかな?


 ガチャン 


「99」


 ガチャン


「100! 終わったぁ」


 あっ、居た居た。


「お疲れ様、栄人君」

「ん? おぉ琴! お疲れ」


「居残りはおしまいかな?」

「おう、丁度終わる所」


「あんまり無理はダメだよ?」

「まぁ、怪我しない程度にな。冬のウェイトトレーニングは重要だからさ」


 栄人君はいつもそう。普段は明るくて、一見ふざけてる様にも見えるけど……練習とか真面目で手を抜かない。もちろん普段の栄人君が嫌って訳じゃないよ? むしろ両方す……


「あぁーなんか腹減ったぁ」

「お腹!? えーと」


 お腹すいた? これってチョコを渡す絶好のチャンスなんじゃない?


「チョコ……ならあるよ?」

「チョコ? いいねぇ」


「ホント? ちょっと待ってね? ……はい」

「サンキュー! ん? このチョコって……」


「ごっ、ごめん気付いちゃった? 下手かもしれないけど、私からの……バレンタインチョコ」

「マジか? ありがとう琴! 食べて良い?」


 食べてくれる? やった!


「うん、もちろん!」

「どれどれー? んっ! めちゃくちゃ美味い!」


 美味しい? 美味しいって言ってくれた?


「何個でも食べれるよ! さすが琴だな」


 栄人君の走ってる顔も、皆と話してる顔……どれも私に元気をくれる。けど……この笑って私を見てくれる顔が……


 1番好き。




「ちなみにこれチョコの他になんか味するけど、何入ってるの?」

「あぁ、それはね。プロテインのココア味だよ!」

「……マジか? 最高じゃん琴!」


 やっぱり渡せてよかったぁ!




 ―――葉山彩花の場合―――


「ふぅー、やっと終わったねぇ。とりあえず予算も去年より増額出来たし、これも日城さんと月城君が入ってくれたおかげかな?」

「まぁそれも否めないわね」


「相変わらず厳しいなぁ。2人も入部した時、狂喜乱舞してたくせに……」

「そんな事してません! 絶対に!」


「ふふふ」

「もうっ! 笑わないで」


「ごめんごめん」

「でも、今年1年でゴシップペーパーの認知度が上がったのは事実。ウェブ版も去年の3倍近くアクセスがあったし……ホントあの2人には驚かされてばっかり」


「まぁ、僕はそんなに驚きはしなかったけどね?」

「あら? どうして? その自信は何処から?」


「だってさ……彩花が気に入って連れて来てくれた2人だからね」

「なっ! あんたって良くもそんな臭いセリフ、堂々と言えるわね?」


「ん? そう? 事実を言ったまでなんだけど……」

「あぁ、もううるさいうるさい。あんたのそういうとこ苦手だわ」


「そりゃ失礼」

「まぁいいわ。今日は気分が良いから許してあげる。それと……はい」


「ん? これは?」

「チョコよ?」


「チョコ? チョコならさっきもらっ……」

「いいから!」


「あっ、ありがとう」

「不味かったら……捨てていいから」


「不味い? って事はこれって……」

「言わなくて良いから! 分かった?」


「分かったよ」

「……貴重な物よ? ありがたく受け取りなさい?」

「うん。ありがとう、彩花」



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