第74話 初っ端から全開じゃないですか!

 



「ツッキー、部活行こっ!」

「あっ、あぁ」


 なんかあっという間に放課後になっちゃったけど、授業中や休み時間も特に恋に変わった様子はなかったなぁ。

 本当にいつも通りって感じ。本当に失恋したのか? いや、まだ分からんぞ? 強がって無理してるって可能性もある。過去に前例がある以上、まだ様子を見といた方が良い。


「じゃあねーこっちゃん、片桐君」


 でもなぁ。友達の接し方も見る限り普通なんだよなぁ。本当は直接本人に聞けばいいんだろうけど、それこそ本当の事言うのかって問題もある。


「ツッキー、何してんの? 早く行こっ!」

「あっ、ごめんごめん」


 結局のところ、まだ良く分からん!




「失礼しまーす」

「失礼します」

「お疲れ様。あら? 恋、髪切ったの?」

「本当だ、ずいぶんサッパリしたねぇ。今までずっと長かったから驚いた」


 やはり第一印象は皆同じなんだなぁ。ヨーマは相変わらずだけど、桐生院先輩の反応を見る限りそう思う。


「どうです? イメチェンしてみましたぁ」

「うん。凄く似合ってるよ?」

「イメチェンねぇ。てっきり失恋でもしたのかと思ったわ」


 うおっ、さすがと言うべきかヨーマ。俺が聞きたくても聞けない事をこうもあっさり言ってしまう辺り……恐ろしい。けどまぁ、今はナイスだ! どんな反応か、じっくり見てみますか?


「失恋? やだなぁ先輩までそんな事言うんですか? 友達にも結構言われたんですよ?」


 ん? 意外と普通な反応。図星って訳でもなさそうだし……表情も変化はない。


「どうせあんた誰にも言わないでバッサリいったんでしょ? 久しぶりに見た友達がロングからボブになってたら誰だって驚くわよ?」

「あっはは、言わない方がサプライズ感あっていいかなぁって」


 サプライズには違いないけど、友達の精神は一気に疲弊したと思うぞ?


「あんたは相変わらずねぇ。まぁ、その髪型似合ってるわよ? 私的にはそっちの方が好きかも」

「ほっ、本当ですか?」

「そうよね? シロ」


 いっ、いきなりボール来た! キャッチボールとは思えない剛速球来た! しかもなんで俺なんだよ? 絶対ワザとだろその笑顔! イジる気満々だろ?


「まっ、まぁそうですね」

「ツッキー反応薄いー。教室でははっきり言ってくれたのに!」

「あらそうなの? お邪魔しちゃったかしら?」


 やっぱりこいつは変わらない。新学期……いや、新年早々その毒牙に掛けられようとしている! 


「恋? シロ黙っちゃったわよ? 本当は似合ってるとは思ってないんじゃない?」

「えぇ!? そうなのツッキー? 嘘付いたの!?」


 この2人が一緒だと、一気にめんどくさくなるのも変わってないー!




 あれから数時間後。なんとか新年早々の部活を乗り切った俺は、寮に帰る為に1人廊下を歩いていた。

 くぅ。最初って事もあってかヨーマ節炸裂しすぎだろ? てか、イジリすぎだろ? 恋も恋であれ絶対狙ってるよな? てか打ち合わせしてるよな? ってくらい乗っかってたし……結構疲れたんですけど? ありゃ失恋した奴のテンションじゃないわ? きっとそうだわ。


「よう、ツッキー」


 ん? この声は三月先生? でも姿が……?

 声はする、けど辺りを見渡しても先生の姿は見当たらない。


 ん? どこだ? 外にも居な……


「うおっ!」


 横の教室にも、廊下にも居ない、もちろん中庭にも居ない……そう思ってました。

 けど、なんか視界の上に薄っすら感じる物体。木の葉っぱか何かと思っていたそれは……まったく違っていた。


「よう、どうしたんだ? 元気ないなぁ」


 それは一言で言うと、ぶら下がっているって表現が正しい。けど、その姿勢はまるで地面にしゃがんでいるかのような格好で……しかも恐ろしい事に右手で手を振っている。名付けるなら上下逆さまヤンキー座りか? とはいえ、信じられない光景で間違いない。

 いやいや、何処掴んでぶら下がってるかは知りませんけど、その格好で左手一本で体支えてるなんて怖すぎるよ!


「はっ、三月先生。そんな姿誰かに見られたら烏野衆だってバレちゃいますよ?」

「んー? よいしょっと」


 よいしょって。そんな軽い掛け声で綺麗に地面に着地されても、現実離れしすぎて反応出来ないんですけど?


「別にー? 私達隠してるつもりないもん」


 あっ、そうだった。基本、烏野衆の皆さんは忍者である事を隠してなんかいないんだったぁ……忘れてた。


「でも、他の生徒見たらびっくりしますって。さっきの登場の仕方も俺だから良かったものの、普通の生徒にやったら確実に腰抜かすか、大声で叫んで逃げますからね?」

「えぇー面白くない?」


「面白くありません」

「ぶー、ショックー」


 忍者のスタンダードは一般人にはハードなんですよ! ったく、あれ? そう言えば……


「つまんないなぁ」


 三月先生って髪の毛ショートカットだよな? 過去に伸ばしてた事とかあるのかな?


「三月先生?」

「おっ、どうした? 1週間に1回位ならやってもいい?」


 良い訳ないでしょうよ。


「それはダメです。三月先生ってずっとショートカットなんですか?」

「ダメなのかぁー。んで? 髪の毛? そうだなぁよくよく考えてみたら……今までずっとショートカットかも? 伸ばしても鎖骨の辺りまでかな?」


 ほほう、なるほど? でも、女の子が髪を切る心理ってのは分かるんじゃないか? 女性なんだし。


「それがどうかした?」

「いえ、ちょっと聞きたい事があるんですが……」

「ん? どうした。言ってみなさい」


 質問しようとした瞬間、勝ち誇った様な顔になったのはなんでだろう?


「女の子が長い髪をバッサリ切るってどんな心理状態なんですかね? どんな事が起きたとか?」

「髪ぃ? 髪ってこの髪だよな? 私自身さっき言った通りロングヘアーって位まで伸ばした事ないんだよなぁ」


 そう言いながら自分の髪を摘まむ三月先生の顔がみるみる諦め顔になっていく。やっぱり同じ女の人でも分からないもんなのかぁ。むしろ三月先生に聞いたのが……


「でも、気持ちが分からない訳じゃない」

「えっ?」

「だって、要は自分がロングヘアーでどうしたらバッサリ髪切りたいかって事だろ? んー」


 おぉ、なんだかんだ言ってさすがは教師! まさにそれですよ、俺が聞きたいのは!


「やっぱり……失恋とか振られたり?」


 んーやっぱりそれですよねー。


「あとは……」


 あとは?


「何かを決意した時」

「決意……?」


「そうね。何かを決意して自分を奮い立たせる、その意思を表す為にバッサリ髪を切るかもしれないかな?」


 決意して、奮い立たせる……その意思表示?


「じゃっ、じゃあ単純にイメージチェンジとかは?」

「あぁ、それもあるかも! でも普通の人だったら、徐々に短くしていくと思うんだよね? 前にショートカットにした事あって、自分に似合うの分かってる人ならバッサリ行くと思うけど……分からないのにいきなり短くするのって相当勇気居るよ?」


 言われてみれば確かに! そうだよ……いきなり短くするってそれなりに勇気いるよなぁ。それに恋のやつ中学校の時も髪長かったって言ってたし、小学校の時は髪短かった? でもさすがに小学校の時と今とじゃ顔とかにもそれなりに変化あると思うんだよね。でも恋ならいきなりバッサリいっちゃいそうな気もするし……んーやっぱりわからん!


 ピロン


 ん? ストメ? 


「あっ、れっちんからストメだ」


 あんたのストメか! しかもあんたら友達かよ。みつきっちにれっちんって……


「へぇー。なんか新聞部で面白い特集やるみたいね?」


 ん? あぁ、そう言えばさっきヨーマが言ってたな? 確かバレンタインに合わせて、完全必中気になるあの人を撃ち落とせ! 最強バレンタインレシピ! だったっけ? なんか色々独自にレシピを考えるらしいけど……ちなみに俺と桐生院先輩は毒見……いや、味見係らしい。


「明日から家庭科室使いたいから申請してくださいだって。そっかーバレンタインか。えっと、何なに?  ……やった!」


 ん?


「なにか良い事でも?」

「作り方とか味見もお願いしたいから、来て欲しいだって? やったね! チョコ食べ放題じゃん!」


 ははは……めちゃくちゃ楽しそうですね先生。チョコと言われれば美味しいと思いますけど、特集の内容は、必中バレンタインレシピなんですよ? あのヨーマが世間一般的に知られてる材料を使うと思いますか? 俺はそうは思いません。つまり……


 とんでも食材の可能性大!


「楽しみだなぁ、楽しみだな」


 いや待てよ? これは朗報じゃないか? 味見を全て三月先生にお願いすれば、俺達はしなくても済む? そうだ、俺はまだ死にたくはない。よし、俺の……俺達の為に犠牲になってください! これなら明日からの地獄を何とか生き延びれるぞぉ!


 それにしても、やっぱり恋の髪切った理由が気になるんだよなぁ。一般的には失恋って考えが主な原因みたいだけど、恋曰く単なるイメチェンねぇ。あっ、あとは三月先生の言ってた……決意かぁ。それこそ本人しか分からない事だよな。


 まぁ、いっか。とりあえずは……


 明日から特集が終わるまで、無事に健康で生き残れますように!


「めちゃめちゃ楽しみだなぁ」


 三月先生……今から言っとく! ご武運を!



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