第57話 君が感じる彼女の影を
「えっ……でもそれって……」
日城さんがそんな顔するのも分かるよ、だってつまり、
「トラウマ思い出すって?」
「うん……」
まぁそうだけど、
「気にすんな。言うなれば過去の事だから」
あの頃の姿が……本当の俺なんだ。
「だから、別にいい。だから、聞いて」
「……わかった。だけど無理はしなくていいから」
「はいよ」
ふぅ。じゃぁ話しますか、あの時の話。
あれ? そういえば……前に思い出した時って、確か日城さんと来た時じゃないっけ? 俺ぶっ倒れてさ、まぁ思い出したっていうより、フラッシュバックって言った方が正しいかもしんないけど。全く同じ場所で、近くにいる人も同じ……不思議なもんだなぁ。
その瞬間、俺は自然と微笑んでいた。理由は自分でも分からない。けど前と明らかに違うのは……常に苦痛に襲われるって感じじゃなくて、なんというか……
まるで昔の記憶を懐かしみながら思い出すような、そんな感覚だって事。
「ツッキー大丈夫?」
「大丈夫だよ。どこから話そうかな? じゃあ……俺と高梨凜の関係からでいい?」
「うん……」
そんな感覚を覚えながら、俺はゆっくりと思い出していく。あいつとの……高梨凜との記憶を。
「初めて会ったのは4才位かな? あいつが引っ越してきたんだ」
そう、確か4才位……近くの公園で遊んでた時に声を掛けられた。
「その時、あいつは従兄弟の2人でいてさ。年も同じだし自然と仲良くなっていったんだ。それが出会い」
それからは家も比較的近いし、気付けば一緒に遊んでて……
「そのまま、同じ保育園、小学校、中学校って通ってたんだ」
「そっ、そんな小さい時から知り合いだったんだね……」
「まぁね、そんな感じだからクリスマスとかイベント事もどっちかの家でやるってのが決まりみたいになってたし、親同士も気が合ってたみたいでさ。仲は良かったと思う」
誕生日プレゼントとかバレンタインとか必ず貰ってたし、あの時はそれが当たり前だと思ってた。だから変に意識もしなかったし、それこそ仲の良い特別な友達みたいな感覚だった。けど……
「中学校に入った時かな? 高梨って可愛いよな? あんな子と付き合いてぇーとか、デートとか誘おうかな? プレゼントとか貰いたいし! って男子の話耳に入ってさ。その時、えっ? 俺毎年色々貰ってるけど? 2人で色々遊びに行ってるけど? 凜が可愛い……? って思って、何気なく凜の方見たんだ。そしたら今までは何にも感じなかったのに、なんだか滅茶苦茶可愛く見えて……そこからかな? 変に意識するようになったんだ」
まぁ、そこから毎日の登下校とか少し恥ずかしいって思ったりしたけど、それよりもあいつと一緒に歩けるのが嬉しかった。
「でもさ、いつからかな? そんな関係はもちろん良かったけど、どこかもどかしく感じる様になったんだ。まぁ……この関係から1歩進みたいなってさ。 だから、中学3年の夏……地元の夏祭りの日……」
「告白したんだね?」
はい、正解です。日城さん。
「そう、それで振られた訳。少し位は自信あったんだけどね? そんで落ち込んだし、なんて話し掛けたらいいか分からなくて……それっきり。一言も話す事無く卒業したんだ」
「そっかぁ……」
「でも、それだけ。振られた後は、悲しくて接し方が分からないってだけで、別に女性恐怖症なんかじゃなかったんだよ?」
「えっ?」
そうなんだ。振られたのが原因じゃなかったんだよ。俺が女性恐怖症になった本当の理由は……
「噂ってやつ」
「うっ、噂?」
「振られてから俺、あいつと話出来なかったんだ。どう近付いていいか、どう話し掛けていいか分からなくて、一緒に登校もしなくなって……そんな時、栄人に言われたんだ。女子が噂してるの聞いた。お前が高梨さんに振られたって」
あの時はキツかった。冷や汗が止まらなかったもんなぁ。そして考えたんだ、どうしてその話を女子達が知ってる。それを知ってるのは1人しか居ないって。
「ツッキー? でもそれって……」
「まぁ、それを知ってるのは1人だけ。もしそれが本当だとしたら、彼女が俺を振った事を話した事になる」
「そんな……」
「そこからだった。女子全員が噂を知っている。女子が俺の方を見ている。女子が俺を笑ってる。そんな感覚でいっぱいになって、女子の事を信じられなくなった。そんな疑心暗鬼に襲われる内に……俺は女性恐怖症になったんだ」
「だったら……だったら尚更……」
その原因になった彼女に似てる自分が近付いたら、嫌な思いをさせるって思ってるのかな? ……半分は正解だったけどね。
「でもさ、今思えば本当にあいつが話したのかなって思う部分もある。実際に聞いてないし……てか話そうとすらしなかった訳だしね」
「でっでも、栄人君は聞いたんだよね?」
「あいつ意外と良い奴だからさ。女子達がしてた噂信じちゃってたのかもしれないしね? 最近あの2人登校してないらしいよー? まじ? なんかあったのかな? 振られたとか? みたいな話聞いたって可能性だってある。けどさ……当時の俺はそこをちゃんと確認出来るほど余裕なかったんだ」
「……」
「だからさ、最初恋と会った時マジでびっくりした」
しかもあの出会い方は色々とヤバかったよ。肘で胸触っちゃったし、パンツガン見だったし。
「ぶつかっちゃってごめんね? ……そっか。だからあの時パニックになって走って行っちゃったんだ」
「正解」
「やっぱりつらい思いさせてたんだね……」
やばっ、また俯いちゃったし。そりゃ最初は心臓止まる位びっくりして、同じ教室だって知った時は体が持つかチョー心配だった。けど……
「ぶっちゃけるとさ、最初は本当にびっくりして、症状も出まくりで嫌だった……」
「そうだよね? やっぱ……」
「嫌……だった……だよ?」
「えっ?」
最初は確かに嫌だったよ? でも、それが変わったのは……
「2人でここに来た時……俺さ、あいつの事思いだしてぶっ倒れたじゃん? それを恋は介抱してくれた。その時、初めて言ったんだ。家族以外に初めて……自分が女性恐怖症だって」
「あれって本当だったの!?」
嘘だと思ってたのかよ!
「当たり前だろ? その時恋は俺に言ったじゃん。女性恐怖症治すの手伝ってあげる! って……あの言葉から全ては始まったんだ」
そう。それから日城さんは俺に積極的に話してくるようになった。学級委員でも部活でも。
それに感化される様に栄人が余計うざくなったり、ヨーマが変な取材考えたり、早瀬さんと桐生院先輩に癒されたり……そしてあんな雰囲気が出来たんだ。
「林間学習に体育祭、遠方取材に烏山忍者村……そして文化祭。正直さ、半年の間で色々ありすぎてる訳。だからさ、最初は本当にキツくて疲れて……皆の騒いでる声がうるさいなて思ってた。けどさ、段々とその騒がしさが……心地よく感じて来たんだ」
「……」
「その中心に居たのは紛れもなく恋だよ。だから俺は感謝してる」
「かっ、感謝……」
新聞部も学級委員でも、真ん中に居て皆を繋いでたのは日城さんだった。と言うよりも、一歩離れた所で静観してた俺を引っ張って、皆の所に連れて来てくれてたんだ。だから……
「ありがとう」
「どっ、どうしたのいきなり!?」
「本音を言ったまでだけど? 恋は高梨凜に似てるからって、俺に対して後悔と罪悪感を感じてるのかもしれない。けど、今俺が言ったのは本音。本当の俺の気持ちだから。日城恋と高梨凜は全くの別人。声とか顔はそっくりでも、話し方とか性格は全然違う別人なんだ。だから俺は……」
「もっと皆と笑って居たい。もちろん恋も一緒にね」
そう言って日城さんの目を見た瞬間、もの凄い勢いで視線を逸らされた。
……日城さんは俺の言葉に何を感じたんだろう。何を思ったんだろう。そればっかりは本人にしか分からない。けど、自分の全てを話したのに後悔とかそんなものはなかった。だって……
これが俺の本音なんだから。
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