第46話 いっ、いらっしゃいませお嬢様

 



「いらっしゃいませご主人様」

「ご注文は決まりましたか? お嬢様」


「月城君、メイド・イン・Aセット2つお願い」

「はいよ!」


 いやいや、ちょっと待て。何だこの賑わいは! 想像をはるかに超える客数だぞ?


 開店前からそんな気配はしていた。廊下には俺達3組の宣伝チラシを持った人が待っていたし、閑古鳥が鳴くような感じじゃないって最初は喜んでいた。

 けど、正直物珍しさ目当てでその勢いは最初だけだと思っていたんだけど……その勢いは止まる事を知らない。


「明石、チーズケーキ2つ追加! あと、水はどの位残ってる?」

「水はケトル1回分位! チーズケーキもあと3個」


「マジか! じゃあ、チーズケーキ出したら家庭科室行ってケーキ持ってきて来て、不足しそうなやつも!」

「OK」


「あとは水か……あっ、柳! コーヒーは俺入れるから水持って来てくれ。残り少ない」

「ん? わかった! じゃあコーヒー頼む」


「佐藤さん、トッピングはどう?」

「今の所、何とかさばけるから大丈夫だよ」


「了解。時間掛かりそうだったら言って? 注文係に伝えるから」

「分かった」


 えっと……麗しのBセット3つ出来たな? よし。


「おい、栄人。ウルB、3番テーブルいいぞ」

「了解」


「おいおい、すごくねえか? もはや最初に用意したチーズケーキ無くなりそうだぞ」

「本当か? 最初にしても予想以上の客入りだよ。まぁでも、落ち着く時間帯はきっとあると思うから、とりあえずそれまでの辛抱だな」


「まぁな、とりあえず厄介事だけは勘弁だぞ? 持ってくのもゆっくりで良いからな」

「了解。皆に伝えとくよ」


 ふぅ。とりあえず後は佐藤さんのトッピング待ちか。それにしても、見事に客層が半々だな。こりゃ三月先生の言う通り接客のシミュレーションしといて正解だった。




『とりあえず、男女両方をターゲットにするんだから、接客も注意しないとね』

『先生ー、注意って?』


『良く考えて? メイドさんに会いたくて来たのに、席案内されたのが執事だったらどう? その逆も然り』


 確かに……可愛い女の子に会いに来たのに野郎が出てきたら嫌だな。


『ちょっと嫌かも……』

『でしょ? でも、場合によってはそうしないといけない場面も出てくると思うのよ。だからそういう時、上手く手の空いてる女子男子に案内してもらえるように、動きのシミュレーションは必要だと思うよ?』


 なるほど、一理あるなぁ。


『じゃあ……はい、工藤君やってみて』

『えっ、俺?』


『誰でもそうなる事はあるんだから、さあ。お客さんが来たと思って!』

『えぇ……、いっ、いらっしゃいませお嬢様……』

『声が小さーい』


 なんで副担のあんたが1番気合入ってんだよ!




 でも、なんだかんだでそれが役に立ってる訳か。なんかあの人、ふざけてる様に見えて的を射る事してんだよなぁ。さすがは烏野衆か。


「はぁーい。いらっしゃいませ」


 はは、まぁ1番楽しんでんのも三月先生なんだろうけどね。


「あっ、烏真先生!」

「はっ! せっ、先輩! いらっしゃいませー」

「何がいらっしゃいませだ! しかもなんつう格好!」


 ん? なんだなんだ? 三月先生やらかした? さっき褒めたのを帳消しにしないでください。って先生と話してるのは確か……ヨーマの担任の、


「どうです? なかなか似合ってますよね? 先輩もどうです?」

「いらないよ! しかも先輩は先輩だけど、ここではちゃんと名前で呼べ!」

「はぁーい、それで私に何か用ですか? 鷹野先生」


 やっぱり! 鷹野先生。しかもあの話ぶりに先輩って呼んでる辺り……2人って前からの知り合いか?


「何か用ですか? じゃないわよ、各クラスの模擬店の巡回! 昨日の職員会議でも言ってたじゃない!」

「あっ……」

「忘れてたわね?」


 忘れてたな。


「そっ、そんな事ないですよ? 今行こうとしてましたっ!」

「嘘つくな! バリバリ接客してたじゃない!」


 嘘ですよね。


「本当ですー!」

「まぁ、いいや。ほらっ、行くよ? 早く着替えな」


「えぇ、このまま行きますよ?」

「本気で言ってんの?」


 えぇ? 巡回にメイド服で行くの!?


「問題でも? 可愛いじゃないですかぁ」

「はぁ、あんたって……もう、じゃあ早く行くよ!」


 なんか……鷹野先生大変そうだなぁ。なんでだろう、すごく気持ちが分かるぞ?


「委員長ー私ちょっと抜けるねー」

「あっ、はい! 分かりました」


 なんか栄人も若干困惑してる部分あるよなぁ。いまいち性格が読めないって部分もあるし、まぁ頑張ってくれ委員長。


「月城君、メイドAセットOKだよ」

「はいよ、了解」


 俺も疲れない程度に頑張りますか。




 ふぅ。大分落ち着いた感じか?

 時間もお昼近くになり、カフェの人波も大分落ち着いてきた。この時間ならがっつり昼御飯タイムだし、デザートメインのここには自然と人も少なくなる。

 つまり、俺達の休憩タイムの到来だ。って言っても、もはや後半組と交代の時間間近なんだけどね。


「大分落ち着いたなぁ、蓮」

「確かに。だけど、ここからが本番だとも言えるぞ?」


「ん? あぁ、食後の1杯とかか?」

「正解。あとは3時のおやつとか」


「なんか、午前中より混みそうだなぁ」

「俺達だって、朝のピーク乗り切ったんだしお互い様だろ? あとは早瀬さんと日城さんに任せようぜ」


「まぁなぁ、でも俺はちょっとは顔出すよ。一応委員長だしな」

「真面目だねぇ。頑張れよ」


 こいつ本当に根は良い奴だな。時々ぶっ飛んだ発想を思い付くのはあれだが、生粋のリーダー体質。俺には真似できんわ。


「佐藤さん達も休んで。栄人、注文係の皆にも丁度良く休むように言ってくれ」

「了解」


 さて、あと少しか。後半組が来次第引き継ぎして今日は終了かな……


 ガラガラ


「いらっしゃいませ、お嬢様」


 おっ、この時間にお客さんか? えっと、女の人2人か……他のお客さんは全員もう食べ終えてる感じだから、佐藤さん達が休んでても問題は……


「きゃあー格好いい! 君似合ってるね!」

「はっ! あなた滅茶苦茶可愛い。やっぱりフリル付けて正解だったぁ」


 ん? なんか妙にテンション高めだなぁ。しかも、栄人と紋別さんを舐め回すように見てるぞ? 流石の栄人もなんか困ってるし、紋別さんは顔真っ赤だし。


「いっ、いやその、ありがとうございます」

「むむ、ナンバー10を着てるって事は君、委員長君?」

「えっ? はい、そうですけど……」


 ナンバー? しかもなんで栄人が委員長だって分かった?


「やっぱり! お姉ちゃんが言う通り、顔もスタイルもまさに王道執事って感じでいいわね」

「はっ、はぁ……お姉ちゃん?」


 ん? お姉ちゃん? なんだ、栄人の知り合いか? それにしても少し変わった人達だなぁ。


「あれ? お姉ちゃん居ないなぁ。確か午前中は居るって言ってたのになぁ」

「本当だぁ。居ないねぇ」


 ん? お姉ちゃんってこのクラスの人の事? けど、ナンバーとか栄人の事知ってたり、フリル付けて正解って言ってる辺り……はっ! 2人組? 確かこの衣装作ってくれたのは三月先生の妹……達。もしかして?


 ガラガラ


「ふぅ。やっと終わったー、お待たせみん……あっ」

「あぁ! 居たぁ」

「ひどいよ、何処行ってたの?」

「ごめんごめん、お仕事だったのよー」


 あぁ、この三月先生とのやりとり、これは間違いないかもしれないな。


「えっと、烏真先生? この方達は……」

「あぁ、委員長。丁度良いとこに居たね。紹介するわ、私の妹達で髪結ってるのが四月よつき、眼鏡掛けてるのが五月いつき。ちなみに四月がメイド服、五月が執事の服を作ってくれたのよ」


「そっ、そうだったんですか?」

「こんにちは四月です」

「五月でーす」


 やっぱりか……そんな感じしたもんなぁ。あれが烏真家の四女と五女か……。



 言われるまでもない、見る限り分かるぞ? とても普通とは思えない特殊なオーラをビンビンにね!



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