第45話 お前の笑顔にはもう騙されんぞ

 



「ほい、蓮」


 はっ?


「サイズもピッタリだと思うから、早速着替えてくれ」


 はぁぁ!?


 なにこれ? いやいやあのさ、俺後は任せたって言ったよな? それなのになんですかこれは? この執事の服は?


「ちょっと待て、俺は後任せたって……」

「ん? だから準備とかそこまで蓮に力入れてもらわなかったろ?」


「いや、それは……」

「当日は皆でやらないと。平等にね」


 はぁ、こいつの笑顔ムカつくわぁ。

 あの話し合いから、俺達は順調に準備を進めて来た。調理場はパーテーションで仕切り、メイドと執事の言葉遣いは動画を見て身に付けたり、確かにその辺俺はほとんど力入れてなかったけど……当日も込みで後任せたって言ったつもりなんだがなぁ。


「じゃあ早速トイレで着替えて来ようぜ。皆より早く集合したんだし、琴達も着替えに行ってる」


 はぁ、なんか上手く丸めこまれた気がするなぁ。それにサイズぴったりって、身長とか体重話した記憶ないんだけど?


 ガラガラ


「なぁ、栄人。俺身長とか体重話したっけ?」

「あぁ、なんか烏真先生が任せてって。なんか見ただけで大体分かるらしいよ。すげぇよなぁ、俺も見ただけでピッタリ当てられたし」

「まっ、マジかよ……」


 マジか? あの人見ただけでそんなのも分かるの? なんか烏野衆のポテンシャルの意味が分からないんですけど!


「よっと、じゃあ着替えようか」

「はいよ……」


 どれどれ? 一体どんな……こっ、これは! マジか? これ結構すごいクオリティじゃないか? 本当に執事っぽいっし、これを人数分用意できる妹さん方すげぇよ。しかも、よいしょっと……本当にピッタリじゃねぇか! やべぇ……すげぇ。


 本気で烏野衆恐ろしいな。まぁ味方の時は頼もしいけど、争いたくはないね。


「おっ、蓮。似合ってんじゃん」

「そうか? お前には負けるけどな」


 いやいや、こう見ると……栄人ってマジでイケメンだな。ムカつくけど、これほど執事の格好が似合う奴も居ないんじゃないか? これは女性客にウケるぞ?


「マジだって、じゃあボチボチ戻ろうか」


 ふぅ……それにしても、鏡で見てもかなりのクオリティだな。まさに栄人が良い例だよ。けど、この服装で学園内歩くのは嫌かもしれないなぁ。


 ガラガラ


「あれ、まだ琴達来てないな……」

「まぁ、メイド服だし時間掛かるんだろ?」


 ガラガラ


 おっ、来たか……うおっ!


「あっ、おっお待たせ」

「なんか違和感あるけど……可愛くない?」


 おぉ、ピンクと水色のメイド服! しかもこっちもクオリティがやべぇ、フリフリスカートにカチューシャ! さらにニーハイによる絶対領域……完璧最高じゃねえか! 生で見るのは初めてだが、こりゃ男性陣がハート鷲掴みにされるのも分かる!!


「おぉ、2人ともかなり似合ってるよ」

「本当? 栄人君」

「どう? 月城君」


 って、なんで俺に振るんだよ。まぁ確かに日城さんは顔もスタイルも悪くはないからなぁ、正直言って似合ってる。それに早瀬さんもモジモジしたギャップが最高だね。ただ、ここでキャラを崩したら元もこうもない!


「まぁ、似合ってると思うよ」

「えー、なんかテキトーじゃない? ほれほれ」


 なっ、こいつスカートチラッチラッめくってやがる! 人をおちょくりやがって……なんかムカつく。


「恋ちゃん、本当に見えちゃうから止めなって、月城君だって困ってるよ?」

「大丈夫だって、冗談」


 あぁ、早瀬さんあんたやっぱり女神様だよ、ありがとう。そして貴様、何ニヤニヤしながらこっち見てんだよまったく。


「栄人君もすごく似合ってるよ」

「そうか? ありがとう」


 ほほぅ、なんかあの一件以来ますます良い感じになってねぇか? あの二人……早く付き合っちまえば良いのにな。いや! もうすでに付き合ってるとか? 有り得る……十分有り得る。


「何見てんのー?」

「うわっ」


 はっ! いっ、いきなりなんだよ! てか、顔近いって! うぅ……一気に寒気がするから突然近付くのはやめてくれよ、日城さん!


「どうしたの? 2人の事見て」

「何でもないよ」


 くっ、下手に答えたらなんて言われるか知ったこっちゃないよ。


「そっか……」


 そっかって……なになに? なんで顔近づけてんの!!


「ツッキーも似合ってるよ」


 はっはぁ!?


「ねぇ、そろそろ下準備しない?」


 いやいや、何言ってんの? てか、あの至近距離反則だろうよ! 全然足動かなかったし……しかもツッキーって誰だよ! 今までそんなあだ名で呼んだ事なかったでしょうよ! 

 あぁ、わかった……これもプレイの一種だな? 俺をいじる為の……なんて小悪魔なんだ、さすがはヨーマの妹分だよまったく! 


「おっ、そうだなその内皆も来ると思うし、そしたら順次そこの箱に入ってる衣装渡して、着替えてもらうって感じで」

「うん。わかった」

「それじゃあ始めましょうか」


 日城さんって、あんなに明らかなイジリ方する人だったっけ? なんか最近目に見えてそんな事する様な……まぁ、何にしろまずは文化祭を乗り越える事に集中しよう。そりゃ少しはドキッとしたけどさ。




 てなわけで、カフェメニューの下準備やら、飾り付けの再確認やらをしている内に、皆ゾロゾロ来る訳で、


「おはよー、って恋ちゃん、その格好!」

「おはよう、どう? 可愛いでしょ? 皆のもあるから着替えて来て」

「うっす、うわっなんだよ月城」

「うるさいよ。お前も着替えんだからな?」


 こんな感じでクラス全員の変身が完了した訳です。




「さてと……皆ちょっといいかな? 改めておはよう。皆着替えも終わったみたいだし、様になってるよ」


 クソイケメン委員長、悔しいけどお前が1番様になってんだよ。


「じゃあ、これからメイド&執事カフェをやる訳だけど、前に決めたみたいに交代で受け持っていこう。当番じゃない人は自由に文化祭回っていいからさ。それじゃあ宜しくお願いします」


「はーい」

「了解」


「という事で、最初は俺達が中心に回していくから、後半は2人とも頼むよ?」

「うん」

「任せて」


 嫌です、と言ってもやらなきゃいけないんですよね。


 ガラガラ


「よーう、皆おはよう。準備できてる?」


 朝からこの元気な声は、1人しかいないよなぁ。三月先生……って!


「おはようご……えっ! 烏真先生?」

「ちょっと、みつきっち?」

「こりゃたまげたな」


 そりゃ驚くだろうよ、まさかっていうかなんで? って気持ちの方が強いんだが……なぜに、


「みつきっちまでメイド服着てんの!?」

「えっ? だって皆着てるのに私だけ着なかったら変じゃない」


 まさか先生自らメイドになるとは、誰も思ってなかっただろうよ。しかも、何気に似合ってるのが何とも言えない。先生意外と足細いんすね。


「烏真先生……もしかして先生も手伝ってくれるんですか?」

「もちろん。ずっとって訳じゃないけど……一応何かあった時の為にね」


 まぁ、その方が何かと俺達も安心だな。


「あと、服作ってくれた妹達も後で来るみたいだから、委員長一応お礼の一言でも言ってあげて」

「あっ、そうなんですか? わかりました」

「この衣装作ってくれた人達かぁ、どんな方なのか楽しみです」

「確かに……前に烏山に行った時は居なかったですよね? みつきっち」


「うん。2人とも大学に行ってて、今は離れて暮らしてるからね。まぁ大学からここまで近いから、誘ったらかなり乗り気だったよ? あと、自分たちの作品が客観的に見てどうなのかってのも気になるみたいだったし」


 2人とも大学生? しかも近いって……まさかお隣の鳳瞭大学とかじゃないだろうな? まさか……だよね?


「へぇー、大学生って、まさか鳳瞭大学とか?」


 日城さん、あんたももしかして人の心が読めてるのか?


「あぁ、違うよ。京南大」

「京南大!?」

「京南大学って、先生の妹さんかなり頭良いんじゃないですか?」


 おいおい、京南大って言ったら、鳳瞭大学と並ぶ有名大学じゃねえか! なに? 2人ともそこ行ってんの? やばくないか?


「んーそうかな?」


 えっ、そりゃ鳳瞭大に並ぶ有名校だし、知らない人の方が少ないんじゃないか? 


「そりゃ凄いですよ! 鳳瞭大学と並ぶ有名校ですよ?」


 さすがの栄人も驚いてるな……と言うより、本気で言ってんのかって感じの表情だ。確かに気持ちは良く分かる。


「そうなんだ。有名とかそんなの良く分からなかったよー」


 マジで言ってんのか? この人?


「だってさ……」

「私も京南卒業したからさぁ」



「えぇ!」

「えぇー!」

「えっ?」


 はっ……?

 マジですかぁ!?



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