第44話 男女の距離が深まる行事、第2位くらい

 



「えーっと、じゃあ案としてはこの3つに絞られたけど、皆どれが良いかな?」

「喫茶店じゃない?」

「お化け屋敷でしょ」

「メイドカフェがいいなぁ」

「えー嫌だ。変な眼で見られたくないよぉ」


「困ったなぁ」


 おーい、イケメン委員長。多数決でも取らない限り永遠に決まらないぞ。

 皆さんはこの会話の流れで、大体何の事を決めてるか分かるでしょう。そう、盛大な盛り上がりを見せる文化祭……その模擬店で何をやるのかを決めております。けど……


「やっぱりお化け屋敷」

「いや、メイドカフェ!」

「喫茶店で良いんじゃない?」


 あぁもう、女子大多数による喫茶店派と、男子大多数によるメイドカフェ派、その他お化け屋敷派で見事に分かれてんなぁ。かといってイケメン委員長は多数決をとる事に否定的だし……こりゃ決まらんぞ?


「片桐君、これ多数決取った方が良いんじゃない?」

「そうだよ、このまんまじゃ決まんないよ?」


 そうだそうだー。


「んー、でもなぁ。多数決だとすぐ決まるけど、納得できない人も居るって事になるんだよなぁ」


 いや、確かにそうだが、そんな事言ってたら絶対決まらんぞ? そもそも同じ意見で統一出来るほど人間ってのは上手く……


 ガラガラ


「やっほ、決まってる?」


 人が良い事考えてる時に来ないでもらえます? 三月先生。


「あっ、烏真先生」

「その顔から察するに、決まってないみたいね? 委員長」


「そうなんです。案は3つに絞れたんですけどね……」

「どれどれ……なるほどねぇ。それで綺麗に3つに分かれてるって事か」


 あんた副担だろ? なんとか多数決やろうって流れを作ってくれよ。


「多数決は取らないの?」

「それが……」

「個人的に多数決は違うかなって、綺麗事だってのは分かってるんですけど」

「なるほどね……」


 そこをどうにかするんだ三月先生、あんたは教師なんだ大人なんだ! この甘ちゃんイケメン委員長に現実を突き付けろー!


「言いたい事はあかるんだけどね、そんなんじゃ一生決まんないよ?」


 おぉ、いいぞ三月先生!


「でっ、でも……」

「ちなみに、お化け屋敷は4組と6組でもやるって」


「えっ? そうなんですか? 先生」

「うん。ちなみに喫茶店は1組と7組」

「みつきっち、それ本当の話なの?」

「当たり前でしょ。今聞いてきたんだもん」


 おいおい、もろ被りじゃねぇか。やっぱどこでも考える事は一緒か?


「2組はたこ焼き、お好み焼きとか屋台的なフードコートで、5組は射的に輪投げとか夏祭り系だったよ」


 まじか……2組と5組は上手い事考えたな、にしてもこの状態で3クラスも同じ事やったら飽きられるに決まってんなぁ。となると残ってるのが必然的に……


「じゃあ、何処とも被ってないのは、メイドカフェ?」

「えー喫茶店と被ってない?」

「違うって!普通の喫茶店じゃないんだよメイドカフェは!」

「これは決まったぁ!」


 おぉ、なんだこれ。一気に男性陣が盛り上がって来てるぞ! けどなぁ、そうは問屋が卸さないんでしょうよ。


「いやだよー」

「メイドって、それやるの女子だけじゃん」

「あんな短いスカートとか? 無理だよぉ」


 まぁ、そうなるよね。


「まぁまぁ、皆いったん落ち着いて……」

「委員長、メイドカフェは私達も反対だよ? ねっ、こっちゃん」

「うん……あんな可愛い衣装着るのは恥ずかしいよ……」


 いや、それは見たい。てか、男性陣は皆見たいと思うぞ? それにメイドカフェやるんだったら男性陣は馬車馬の如く働きそうだけどな。


「いやだよー」

「いいじゃんかよー」


 はぁ、結局はこうなるんじゃねえか……ったく、何か解決策はないものかね。

 確かに他の2つにすれば楽なのは楽だが、2組被りはキツイ。明らかにお客は少ないだろう。その点メイドカフェとなれば、まぁ生徒会が許してくれるかはさておき、珍しさでは頭一つ抜けてるよなぁ。ただ、問題は……


「あんな衣装嫌だよ!」

「あの言葉遣いとかも恥ずかしいし……」


 特有の服装と言葉遣いか。日常的にあんな事してない限りそうなるのは当たり前なんだよなぁ。女子がメイドを引き受けてくれる条件かぁ……なにがある? 


 …………ん? そもそもメイドカフェって男をターゲットにした商売だよな? お客がご主人様の気分を味わえる、いわいる萌え萌えドッキュン的な。だったら……女をターゲットにしたカフェもあっていいんじゃね? お客様がお嬢様気分を味わえるいわいるキュンキュンドッキュン的な! その名も……執事カフェ!

 これなら男女平等に不慣れな衣装だし、男女どちらの客層もゲット出来んじゃん! 


「皆ちょっと……」


 よっし、じゃあこれをクソイケメン委員長の意見として言ってもらえば、何とかならないか?


「栄人……」

「はぁい、皆ちょっと静かにしてー。月城君がなんか妙案あるみたいだよー」


 はっ! 何を言ってんだ三月先生。 ……うわっ、めっちゃくちゃニヤニヤしてる! なに? 俺が考え付いてたの分かったの? えっ? 人の心読めるの? なにそれ烏野衆やっぱり怖っ!


「ホントか蓮!?」


 あぁ……そうなりますよね? 皆俺の方見ますよね? 注目しますよね? はぁ……最悪だよ。くそっ、三月先生め今に見てろよ。


「えっと、妙案って言っていいのか分からないけど。まず他の組の聞く限り、被りは非常にまずい。別に売り上げを競う訳じゃないけど、どうせならたくさんの人に来て欲しいだろ? だとしたら、やれるものはメイドカフェになる訳なんだけど……」


「えー」

「いいぞ! 月城」


 思った通りの反応ありがとうございます。


「はいはい、ちゃんと聞いてね。ただ、女子にいきなりメイド服とかメイドさん口調やってって言っても、そりゃ初めてだし恥ずかしいって気持ちも良く分かるよ」


「そだよー」

「恥ずかしいよ」


「そこで考えたんだけど……メイドカフェって男性客がご主人様気分を味わえる所じゃん? だったら……女性客がお嬢様気分を味わえるカフェもあった良いんじゃないかって思ったんだ」

「女の人が……」

「お嬢様気分?」


「そう、つまり……メイド&執事カフェ。これなら男女問わずお客さんが来れるし、男子も女子もどっちもやった事ないメイドと執事になるから、丁度良いんじゃないかな?」


 さぁ、反応はどうだ?


「確かにそれだったら、女子だけじゃなくてどっちも恥かしい格好してる事になるよね?」


 おっ、意外な人物が賛同したな、日城さん。


「どうなの?」

「私は……良いと思うけど。男子も執事の格好するんでしょ?」

「えぇ……なんか嫌だな執事って」

「おい、でも待てよ? 考えようによっちゃこれで女子のメイド服見れるって事でもあるんだぞ?」


 おい、最後なんか動機が不純だぞ? 思ってても口に出すんじゃないよ! 全男子、誰もがそう思ってんだよ!


「栄人、お前はどうだ?」


 お前が賛同したら、結構物事がスムーズに決まると思うんだが?


「んー。さすが蓮だよ。俺もこの意見に賛成かな。どこのクラスとも被ってないし、目立つコンセプトだし、それに男女の負担も平等。丁度良いと思う! メイド&執事カフェ」


 よしよし、お前のお墨付きがもらえて一安心だわ……。となれば、自然と皆の意見も……


「皆どうかな?」

「んーいいんじゃね? 丁度良いし」

「どっちも恥ずかしい思いするんだったらね」

「良いと思いまーす」

「同じくー」


 よっしゃ、予想通り。これで何とか決まりだな。


「じゃあ……文化祭、俺達3組はメイド&執事カフェで決まりだ!」

「はーい」

「了解」


 ふぅ、山は越えたかぁ……後は任せたぞ? 委員長、俺はもう半年分の働きはした。


「あっ、でも……そうなると衣装が必要になるよね?」

「あっ、確かに……」


 あっ、そこまで考えてなかったわ。


「買うとなると結構お金掛かるんじゃない? そうなると接客する人数も少なくなるし……」

「そうだな……」


 ちなみにこの活動費は幾らなんだ? 最悪大手通販サイトで購入……


「あっ、そういう事なら大丈夫だよ」


 大丈夫?


「大丈夫って……みつきっち?」

「私の妹達、趣味でメイド服とか作ってるから。作ってもらうよ?」


 はぁ? しかも妹達って……まだ見ぬ四女と五女の事? それとも六月ちゃん……は有り得ないか。 


「ほっ、本当なんですか?」

「うん。見る? ほら、こんな感じ」


「うわぁ! めちゃくちゃ可愛いよ! ねぇ、こっちゃん」

「うっ、うん。可愛い!」

「何なに?」

「見せて見せて?」


 おぉーい! 女子だけでキャッキャするんじゃないよまったく。それにしても、思わぬ形で服装問題も解決しそうだな。てか、趣味で服作ってるって……もしかして忍さん用とか……? あんまり深くは考えない方が良い。うん。


「蓮、サンキューな」


 おう、俺のおかげだぞ。後はお前何とかしろよ? 俺はなんもしないからな。本番もだぞ? 只でさえ不特定多数の人達が来るんだ、表舞台に立ってられっかっての。


「別にいいよ。まぁ後は全部任せるけどね」

「はは、分かったよ。任せてくれ」



 この時、俺は完全に信じ切っていた。栄人の……いや、このクソ嘘付きイケメン委員長の満面の笑顔を。



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