第32話 烏の啼く処に

 



「ここが……烏山」


 人里から少し離れた……


 ≪皆様、本日は烏山忍者村へようこそ。にんにん≫


 自然豊かな……


「うおっ、何あの建物?」

「VR体験悪代官の悪事を暴け! だってよ!」


 閑静な山間部……


「お父さん早く行こうよー」

「はいはい」

「宵谷観光ツアーの皆さんー付いて来て下さいねー」


 ……なんか想像してたのと違ぁう!


 いやいや、人気なのはわかるよ? それにしたって人多くない? 忍者の世界へタイムスリップ的な大型セットはもちろんだけど、なんだよあのVR体験とか! ちょいちょいハイテクなんですけど? 


「うわぁ。やっぱり人気なんですね」

「確かに。初めて来たけどこんなにも人気とはね」


 そして、なぜヨーマと日城さんがいる? 俺と忍さんだけじゃなかったか? どうして、どうしてこうなったんだぁ! 




『って事で、今週末でなんか記事考えて取材行って来て』

『えぇ! 今週末ですか?』

『なによ? なんか問題でも? シロ』


 記事書いたばっかりじゃんか……少しは休ませてくれよ。しかも、今週末は忍さんと烏山へ行かなきゃいけないってのに。


『ちょっと今週末は予定が……』

『へぇ。暇そうなシロにも予定ってあるのね』


 暇って……確かに普段は暇ですけどね。


『まぁまぁ彩花、蓮君も恋ちゃんも夏休みにかなり記事書いてくれたんだからさ。それにストックもある程度あるし』


 おぉ、ありがとうございます。桐生院先輩!


『仕方ないわね』


 そんな感じでこれでヨーマから無事に逃げ切り……今日を迎えたはずだったのに。



 えっと、確か駅で待ち合わせって言ってたよな。


「待たせた」

「うわっ、もうその登場の仕方止めてくださいよ」


 音もなく横に現れるのは本当に勘弁! それにしても、忍さん服装は至って普通だなぁ。基本的に作業服姿しか見たことないから、なんか新鮮。


「いやぁ、すまん。ところで……烏山忍者村への行き方はわかるか?」

「はい、調べてきたので。時間は少し掛かりますけど、乗り換えは1回だけですしね」

「行き方がわかるなら大丈夫だな。俺は先に行って待ってるぞ」


 ん? なんて? 先に行く?


「えっ、先に行くって……」

「電車など密閉された空間は苦手なんだ。逃げ場がないからな」


 だとしたらどうやって? まさか走ってとかじゃないよな?


「えっ、じゃぁ一体どうやって?」

「あぁ、走って行けば問題ない。距離的に1時間もあれば行けるだろうし。お前も学園の前だと何かと都合が悪いかと思って、とりあえず駅で待ち合わせにしたんだ」


 1時間? いやいや、所要時間が電車とかとほぼ変わらないじゃん! どんだけ速いの? てか、そんな事さらっと言える忍びこえぇ!


「そっ、そうなんですか」

「まぁな、じゃぁ先に行く。待ってるからな。では」


 はぁ、当たり前のように消えてったぁ。マジであれってどういう原理なんだ?


 てな具合で結局1人で向かう事になって、


 ≪まもなく烏山忍者村行き発車します≫


 そうだ、電車からバスに乗り換えて、出発って時に……


 これで烏山まで直行だな。ん? なんか寒くね? バスのエアコンか? しかもまたバスのドア開いたし……まだ誰か乗るのか?


「すいません! ありがとうございます。」

「ありがとうございます」


 はっ! なんだ今の声……どこかで聞いたような……いやいや有り得ない、こんな所にまさかな……けど、この寒気本当にエアコンのせいなのか?


「間に合って良かったですね先輩!」

「えぇ、これ逃したら次は1時間待ちだったもの。公共機関は時間通りだけど、こういう事があるから慣れないわ。とりあえず恋、ナイスダッシュ。後で飲み物おごってあげる」


 気のせいだ……気のせいに決まってる!


「やったぁ、ありがとうございます。えっと、開いてる席は……あっ!」


 絶対違う、ヨーマと日城さんなんかじゃ……


「月城君?」

「ん? 本当だ、シロじゃない」


 本人でしたぁぁぁ。




 あぁ、それでこうなったんだ。人気スポットの見学で来た2人とバッタリ会うなんて……最悪だぁ!


「それでシロ? あんたの知り合いは?」

「人見知りな人なので、この人混みの中では現れないと思います」


 しかも女恐怖症なんだから、あんたら近くにいたら絶対出てこないよ。


「へぇ、なんか大変な人ね。それなのにこんな人混みの所に来ようっても変だけどさ」

「その人……もしかして女の人?」


 こいつ、俺が女性恐怖症だって知っててわざと言いやがって。


「残念ながら男性です」

「怪しいなぁ」

「シロにはそんな気配ないから多分本当よ」


 なにそれ、地味に傷つくんですけど? 確かに居ませんけど、居て欲しくもないですけどね!


「まっ、まぁそんな感じなんで、2人は先に中に入って下さい。それじゃあ」


 よっと、これで離れられるぞ。後は忍さんと落ち合うだけだな。

 って言ってもどこに行けば……とりあえず、あそこのトイレの横辺りにでも居るか? ここに来た人達って皆まっすぐ忍者村に行っちゃうから、あそこは誰もいなさそうだし。


「それにしても、この自然の中に見事なレジャー施設だよな。しかも経営が忍びって言うのが何とも言えないなぁ」

「蓮」


 ん? この声は……


「しっ、忍さん?」

「本当に来てくれたんだな。ありがとう」


 うはっ! だからその登場の仕方は止めてくれとあれ程……ってまあいいや。それにしてもマジで走って来たの? その割全然ピンピンしてるし。


「約束ですから。それより、本当に走って来たんですか?」

「もちろんだ。少し遅くなった」


 いや、十分すごいです。


「それよりも蓮……友達を連れて来たのか?」


 友達?


「いえ? 1人ですけど?」

「こちらを見ている人が居るぞ? 確か林間学習で見た……」


 林間学習でって事は……げっ! 日城さん! なんでこっち来てんの!


「えっ、あっ……こんにちは」

「こんにちは。蓮と一緒に来たのか?」

「いっ、いえ。そういう訳では……」


 これは面倒な事になったぞ? って忍さん何で普通に日城さんとしゃべってんの? 女恐怖症じゃないの?


「そうか……遊びに来たのなら蓮の知り合いって事で安くしてもらおう」

「えっ? そんな事……というか、あなたは一体……」


 まさしくその通りだよ。忍さん、この人あなたの素性知らないの。心を読み取るとかそういう機能、俺達一般人にはないから。それがある前提で話したら全然意味が分かんないから。


「えっと……日城さん。この人は……」




「嘘でしょ? いくらなんでも今は用務員で元忍者って……でも、本当に目の前で居なくなって、いつの間にか私の後ろにいたし」


 その反応が正解です。とりあえず忍さんの説明と、その証拠として瞬間移動を見せたから日城さんもなんとなく察するだろう


「それで? そろそろいい……はっ!」


 ん? って消えた! なに? 何で消えたの? どこに行ったの?


「また消えた!」

「ちょっとー恋? 遅いよ? あっ、シロもいるじゃん」


 げっ、ヨーマ! もしかして、ヨーマが来たから逃げたのか?


「一体どうしたの? あっ、もしかしてお邪魔した?」

「いっ、いえ」

「何でもないです」


 あぁ、またもやややこしくなるぞぉ。


「何それ? ますます怪しいんだけど?」

「こいつも蓮の知り合いか」

「えっ……? きゃあぁぁ!」


 だから忍さん、その登場はまずいって。でもヨーマの驚いた顔見れるならもっとやってください。


「誰! あなた誰!」

「先輩落ち着いてください!」


「落ち着けって、あんたねぇ!」

「日城さん説明よろしく。俺はもう疲れたよ」

「疲れたってもう! 先輩あのですね……」




「本当に? 現代に忍者って存在してたの?」


 良い反応ありがとうございます。


「そんなに珍しいのか? 忍者は」

「そりゃそうでしょ? でも、あれを目の前で見せられたら信じるしかないか」


 おっ、さすがは新聞部部長。状況を理解するのが早いなぁ。


「じゃあ、そろそろいいか? 中に入るぞ」

「あっ、すいません。普通に入り口からでいいんですか?」

「俺に付いてくればいい。葉山と日城もせっかくだ。一緒に付いて来てくれ。悪い様にはしない」


 えっ、付いてくんの? 出来れば別行動が良いんですけど。断ってくれよヨーマ。


「先輩どうします?」

「んー、忍さん? その……他の忍びの人達には会えるものなのかしら?」

「ん? あぁ、多分大丈夫だ」


 はっ? 忍びの人に会う? しかも大丈夫だって何その軽い感じ! もしやヨーマのやつ……


「恋? これはチャンスよ! 特大スクープよ」


 やっぱり。


「スクープって……まさか記事に使うんですか?」

「もちろん。忍さん! 個人名とか詳細の情報は伏せるから、少し取材して記事にしてもいいものかしら?」

「その辺りは俺じゃ何とも言えない。広報担当に直接聞いてくれ」


 うわ、さすがというかなんというか……しかも忍者なのに広報担当とかいるんだ。


「よっし、決まり! 恋行くわよ」

「本気ですか!? まぁ先輩がいいなら……」


 はぁ……最悪だ。最悪すぎる。


「よし、じゃあ付いて来てくれ」


 なんでこうなるのかな……誰もいないはずだったはずなのに、しかもなぜよりによってこの2人なんだよぉ。

 ああ、体調不良だ……頭痛に寒気が止まらないぃ。


「わくわくだわ」

「先輩はしゃぎすぎですよ? 少しは心配を……」


 なにキャピキャピ盛り上がってんだよ! こっちの気も知らない癖に嫌な奴らだ。それで? チケット売り場まで来たけど…… 


「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」

「カラス4名」


 えっ? カラス? 何言ってんの忍さん。


「……」


 ほら! 売り場のお姉さん、笑顔のまま固まってんじゃん!


「……何名様ですか?」

「カラス4名」


 大丈夫? 警備員呼ばれたりしない?


「……かしこまりました。こちらから中にお入りください」

「分かった。こっちだ」


 えっ、良いの? てか、そっち本来の入り口とは違う所なんですけど? このロープまたいでいいの? てか、忍さん早いって行くのが!


「ここって、普通の入り口とは違いますよね?」

「関係者専用って事よ」

「ほう、察しがいいな」


 そうなんですか? マジですか。


「よし、じゃあこの壁に背を向けて立ってくれ」

「壁に?」

「これは……まさか」


 忍者、壁ときたら……考えられるのは1つなんですけど?


「そんなに勢いはないが……回るから気をつけろ」

「えっ?」


 やっぱ……りー! 回ったぁ! 隠し扉じゃねえか。


「よし」

「びっくりしたぁ」

「すっ、すごい! これが本物の隠し扉!」


 本当に有るんだな……隠し扉って。すげぇや。


「ここからは、烏山じゃない。烏野衆の住処だ」


 ここが烏野衆の住処……この先に忍さんのお父さんと、トラウマの元凶のお姉さんたちが居るって事か……。


「まぁ何もないが、ゆっくりしていってくれ」



「ただいま烏。そして、ようこそ烏へ」



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