第33話 早速襲来、トラウマお姉さん
「ここって、いわゆる裏側ってやつですか?」
従来の入り口とは違う場所、その先には高く建てられた壁と所々に裏口のようなドア。それだけで、本来楽しむ場所の裏側だってのが分かる。
「そうだな、烏野衆はここを行き来している。まぁお前らで言うスタッフ用通路ってとこだな」
「このスタッフ用の通路が、烏野衆の住んでる所まで繋がっているって事ね」
「そうだ。この先に行けば……うっ!」
ん? どうしたんだ忍さん? ってまた居ない!
「えっ? 忍さん?」
「あれっ?」
「ちょっと、いきなり居なくなんないでもらえる!?」
なんだ? 女の気配でも感じたのか? でも辺りには誰も……
「……ちゃ……」
ん?
「……ちゃんー」
あれ? なんか声しない?
「なんか声聞こえません?」
「えっ? する?」
確かに……薄っすらと聞こえる……誰だ?
「……のぶちゃんー」
「ほらっ、やっぱり聞こえますよ?」
「確かに、私にも聞こえたわ」
のぶちゃん? のぶちゃんて……なんだ? しかも、女の声?
すたっ!
「忍ちゃん!」
「うわっ!」
「きゃあぁ!」
声が聞こえたその矢先、いきなり目の前に突如として現れた人影。そんな突然の出来事に、症状すら出なかった。
「あっ、あれ? 忍ちゃん来たって聞いたのにー」
髪は少し短めだけど、ショートパンツに烏山忍者村の半纏、キョロキョロ辺りを見渡すその人が烏野衆の一員(女)だってのは一瞬で分かる。
とっ、登場の仕方が忍さんと同じなんですけど! しかも女!? それが頭で理解できると、容赦なく襲ってくる寒気、そしてその距離感で声が出せない。
「あれ?」
何だ誰だ? 段々声が聞こえてきたと思ったら、突然目の前に現れたぞ!
「もしかして、忍ちゃんのお友達?」
「おっ、お友達とういうか……ねぇ、先輩」
「そうね、知り合いというか……」
「1、2、3人も! 良かった、あっちでもちゃんと知り合いできたんだ」
ん? この反応……この人忍さんの事知ってるみたいだけど、どんな関係なんだ?
「あっ、あなたは?」
「あぁ、私は烏真
おっ、お姉ちゃん? まさかこの人が忍さんのトラウマの元凶となった人物の1人か! とっ、とりあえず怪しまれないようにっと……
「ほっ、鳳瞭学園1年の月城蓮です」
「同じく2年、葉山彩花です」
「1年の日城恋です」
「そっか、忍ちゃんの働いてる学校の生徒さんか、じゃあ忍ちゃんはどこに?」
「さっきまで居ましたけど……」
「まぁた忍ちゃん、恥ずかしがって逃げたなぁ。お客さん放って置いて、仕方ない奴だなぁ」
恥ずかしがって? いや? 多分あなた会いたくないからだと思うんですけど?
「まっ、いいか。とりあえず、うちに案内するからおいで? 多分その内忍ちゃんも来ると思うからさ。じゃあレッツゴー!」
なんか……イメージと違うな。それに忍さんの言ってたお姉さんだとしても、反応の仕方に少し違和感ある。あっ、いやいや思い出せ! 忍さん言ってたじゃないか、早々に本性は現さないって! 気を付けろ、これも作戦かもしれない。
「先輩? なんか忍者ってイメージと違うような」
「えぇ、なんかイケイケって感じよね。主の命令に従う寡黙なイメージが完全に崩れたわ」
まさに、その通りだよ。それにまさか早々にトラウマお姉さんの1人に会うとは……大丈夫なんだろうか?
「はいっ! 到着。ささっ、入って入って」
「すごい茅葺屋根!」
「この辺はイメージ通り! 忍びの本拠地って感じね」
歩く事15分位、あれから少し森の中に入って行ったと思ったら、すぐに集落みたいな所に抜けて……辿り着いたのがこの家。確かに周りの家と比べて大きいし、どことなく風格があるな……これが烏野衆棟梁のお屋敷か。
「はいどうぞー」
「お邪魔します」
中も外と同じで和風だな。けど、この廊下とかの長さでなんとなく分かるよ、この家の広さが。
「とりあえず、ここで座って待ってて」
「あっ、はい」
「なんか、広いお家ですね……」
「えぇ、変に洋風とかじゃなくて良かった」
襖に畳、イメージ通りの和室だけど……なんかとりあえず通された割に結構広くない? 時代劇とかでお殿様が家臣と座ってる場面に出てくる部屋と同じ位に感じるんですけど?
「失礼します」
ん? 女の声? しかもさっきの三月さんとは違う……
「こんにちは」
そんな落ち着き払った声の元、襖の奥から現れた女性。さっきの三月さんとは打って変わったその姿は、ある意味この家に似つかわしい。
あっ、この人着物着てる。髪も結構長くて……結構綺麗な人だなぁ。でも、ここにいるって事はまさかこの人も? あっ、正面まで来た。
「遠路はるばるようこそお越し下さいました。わたくし烏真家長女の
えっ? 忍さんの知り合いだって信じてもらえんの? しかもおもてなしって……俺達そんな大層な事しに来たんじゃないよ? いいの?
「どうぞ」
「あっ、ありがとうございます……」
「あの、1つ伺いたいのですか?」
「何でしょう?」
「あなた方は本当に忍なのですか?」
おいー! 先輩直球すぎんよ! ドストレートすぎだよ!
「えぇ。私達は烏野衆でございます」
えぇ! あっさり認めたよ! てか、忍さんもチラっと言ってたよな。別に忍びである事を隠している訳じゃないって。
「忍さんの件もですけど、私達鳳瞭ゴシップクラブとして、少しここの事を記事にしたいと考えているんですが……大丈夫なものですか? それと質問とか」
「えぇ、差支えありません。個人名だけ隠していただければ。質問に関しても答えられる範囲であれば」
いいんだ、その辺いいんだ。
「ありがとうございます! 恋っ! メモの準備よ!」
「はっ、はい!」
やべぇ、ヨーマがめちゃくちゃ張り切ってる。あんな目してるの桃野さんに会った時位だぞ……。
「以上です。ありがとうございました」
「いえいえ」
長げぇ。かれこれ1時間は経ってるぞ。その間ずっと座りっ放しだったし、お茶だけめちゃくちゃすすってたわ! 8杯からは数えるのやめたけど、それにしても旨いお茶だ。
「それでは先程のお話通り、個人名等烏野衆の名前は伏せて、ここの……烏でしたっけ? ここが烏野衆の集落であることも伏せますね」
「えぇ、お願いします」
「それにしてもここまで教えて頂いて良いんですか?」
「確かに、我々としては大変ありがたいことですが……」
「いいのよ。私達別に忍びである事を隠している訳じゃないし、それに少しでも忍者村の宣伝になるなら願ったり叶ったりなのよ」
むむ、意外と現実的な考え。俺達は良い新聞記事のネタになるし、そっちは言わば無料で宣伝してもらえる、ウィンウィンの関係か。
「それにしても、すっかりお昼ですね。どうですか? 忍者村の方へ行ってお昼ご飯食べません? もちろんお代の方は気になさらなくていいですから」
「本当に良いんですか?」
「やったぁ」
おい、はしゃぎすぎだろう。俺はなんとなく怪しんでるぞ? いくら忍さんの知り合いとはいえ、こんな人達をもてなす……更にはお昼をご馳走してくれるとか、怪しすぎないか?
「ほら月城君も行こう」
「早くしなさいシロ」
「あっ、はい」
行くんですけどね。
「ふぅ。美味しかったぁ」
「恋、あんた食べすぎじゃない? そんなんじゃすぐ太っちゃうわよ?」
「そんな事ないですよ! あれは普通です。先輩が少食なだけですって!」
いやいや、明らかに俺より食ってたじゃないか。
「ふふ、お口に合って良かったです。これから皆さんどうされます? もちろん今日はお泊りになられますよね?」
えっ? 泊り?
「泊り? でも私達着替えとか……」
「問題ありません。ここでは若い子も結構いますので、下着等各種在庫の方はあります。お部屋の方も、お屋敷の方には空き部屋がかなりありますので」
まじか? あの……俺は日帰りで帰りたいんですけど。
「本当ですか? こんな古民家で宿泊……滅多にできないわ! 恋、大丈夫よね?」
「明日は特に予定もないですし、私は大丈夫ですけど……本当に良いんですか? なんか甘えてばかりな気が……」
そうだそうだ、甘えるんじゃないよ! 俺は帰るぞ!
「大丈夫です。先ほども言ったでしょう? 忍ちゃんがここへ帰って来てくれたのも、皆さんのおかげなんですもの。それにお知り合いとなれば、おもてなしするのが当然でしょう」
「ほらほら、一月さんもこう言ってるし」
「ん……じゃぁ宜しくお願いします」
結局泊まるかよ!
「月城さんも……」
「いっ、いや俺は……」
「なに? あんた帰るなんて言うつもりじゃないでしょうね」
やっぱり、そうなりますよね。そう言われますよねぇ……。
「いや、そんな訳じゃ……」
「泊まるわよね?」
なにその顔、口は笑ってるけど目が笑ってないんですよ。そういうの良くないな、良くないと思いますよ?
「シロ?」
「オトモサセテイタダキマス」
「まぁ、良かった。そうと決まれば夜は宴会ね。皆喜ぶと思うわ、若い子達は特にね」
「やった、宴会だって先輩!」
「あんた、そういう事には分かりやすい位テンション上がるわね」
ははっ……最悪だ……。
そんなこんなで、見事ここ烏山に1泊する事となり、夕方までの時間ヨーマと日城さんは忍者村で遊んで来ると行って居なくなってしまった。
俺にとってやっと訪れた安らぎの時間。そんな時間を、俺は川のせせらぎを聞きながら自然の息吹を体に浴びるのだった。
ふぅ、やっぱり自然っていいなぁ。あの2人が居たら自然の安らぎも何も感じ取れないよ全く。
「蓮」
ん? この声は……忍さん? やばい! 横に来るぞ気を付けろ!
ばしゃーん
「すまんな、居なくなってしまって」
えぇ! 嘘だろ? 川の中から出てきやがった! くそ、俺の予想を上回る登場とは!
「うわっ、なんで川からなんですか! いつもみたいに登場してくださいよ!」
「すまんな。念には念を入れてな……」
念には念をって……あっ、もしかしてお姉さんたちの事か? でもここに来た以上遭遇するのはもはや避けられないと思うんだけどなぁ。
「もしかして、お姉さん達ですか?」
「あぁ、やはり頭では分かっているんだが、いざ目の前にすると体が反応してしまう」
「なるほど、だからさっきいきなり居なくなったんですね?」
「すまん、姉さん達には会ったか?」
「三月さんと一月さんには会いました。けど、皆忍さんが来たのを喜んでましたよ?」
「いじめがいのある奴が戻ってきたんだ。喜ぶのも当然だろうな」
んーそれもそうなんだけど、けどなんか違う感じもするんだよなぁ。あっ、それにしても女恐怖症の忍さんがなんでヨーマとか日城さんと普通に話できたんだ? そっちの方が俺にとっては不可解なんだけど?
「あの忍さん? そういえばなんで先輩とか日城さんと……」
「むっ!」
ん? なんだ? 横見て……
「
六月……って、うおっ。ホントに横の方に誰か立ってる! 髪を結ってて……セーラー服? しかも名前的に考えると……
「お兄さん……?」
やっぱり! てか何人兄弟なんだよ忍さんは。
「忍お兄さぁぁぁん」
うわ。なんか感動の再開って感じで気まずいんですけど? いやいや、そんな抱擁まで!? あの……俺どうしたらいいんですかね?
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