第29話 見えてるのは本当に表?

 



「って感じかな?」

「すっ、すごい」

「これは良い特集ができそうだ」

「私、なんか感動しちゃいましたぁぁ」

「ちょっとこっちゃん。でもすごく素敵なお話でした」

「すごすぎるぜ……」

「まじかよ……」


 マジか? 本当にマジな話なのか? 昔この近くの山の中に村があって、儀式が行われてたんだけどある時失敗して、それを成功させる為に宮原さんと桃野さんが呼ばれて? その人物が人物が……あぁ! もう訳が分からん。


 あのヨーマが目を光らせてるし、桐生院先輩はめっちゃノートパソコンに書き込んでるし、その他はその他で思い思いの感情にふけってるし……俺も正直自分の感情が分からない。完全に信じてなかったのに、宮原さんと桃野さんの話が余りにもリアルで、本当にその場でそんな経験をしたって信じても良いレベルだ。

 それに皆の様子を見る限り、俺だけを騙そうとしてはないっぽいし、けど、余りにも非現実的な事を信用できない自分もいる。


「ははっ、皆のそんな反応を見たらなんだか嬉しくなるよ」

「そうだね」

「でっ、でも現に桃野先輩はその出来事があったから、その……立ち直れたんですよね?」

「そうだよ? その前の自分なんてかなり酷かったと思うよ? 泣かないように自分を偽るように殻を作って過ごしてて……でもさ、そんなのふとした事ですぐ壊れちゃったんだ。そっからはもう自分の感情なんてうまくコントロールできなくて……さっき言ったように皆の所へ行きたいって最悪の選択したんだよ」


 それはさっきも言ってたな……でもそこからの流れが信じられなさすぎるんだよな……。


「でも、気が付いたら式柄村にいて、透也さんに出会って、一緒に乗り越えて、そして宮原旅館の皆にも会えて……立ち直ったんですよね? すごい……すごいですよ!」


 うわっ、こんなヨーマ滅多に見れないぞ? てか、ここに来て両先輩のイメージが変わりつつあるな。


「そうだね。これは結構奇跡に近いかもしれないかも」

「まぁ、あれだ。俺達の話は最初聞いたら本当にあり得ない事だって笑われると思う。けど、それを経験した俺達からすると……世の中には自分が想像できない事だって、有り得ないって思った事だって十分起こりえるんだ。そんな可能性がある……世の中って多分そういうモノなんだよ」


 有り得ない事、想像できない事が起こりえるか……。それに関しては、否定できないかもしれない。実際、トラウマの元凶に瓜二つな人が、遠く離れた高校でしかもクラスメイトに居るなんてあり得ないでしょ。まぁそれにしても……めちゃくちゃ濃い話だったなぁ。まだ、半分信用は出来てないけどね。




「ぐごーぐごー」


 うるせぇんだよイケメン委員長! 全然眠れねぇよ! まったく、良い雰囲気なのに台無しじゃねぇか。眠気も完全に吹き飛んだし、どうするか……あっ、もう1回露天風呂でひとっ風呂浴びようかな? よしそうしよう。こいつは良いとして、桐生院先輩を起こさないように静かに……てか桐生院先輩はよくこの爆音を横で聞きながら寝れるな。ある意味すげえよ。




 なるほど……時間も時間だし、少し薄暗くて結構雰囲気あるじゃないか。しかも玄関の所も薄っすらと電気付いてるだけか……ってうわっ、管理室みたいな所に人いるじゃん。結構高齢そうに見えるけど宮原旅館の法被着てるし……夜間の担当? でも寝てたら意味なくないか?


『夜間は一応当番の人居るけど、基本的には鍵掛けてるからぁ』


 確か宮原さんそう言ってたっけ、まぁ安全面を考えれば当然の事だよな?


「外にお出掛けですか?」

「うわっ!」


 なんだ誰だ? 

 急いで声のする方を見ると、そこに居たのはさっきまで管理室で気持ちよさそうに寝ていたご老人。いつの間に俺の隣に? そもそもドアを開ける音とか聞こえなかったんですけど?


「これは驚かせてしまいましたかな?」

「いっ、いえ……あなたは?」

「あぁ、申し遅れました。私この宮原旅館で働いておりますげんと申します。お出迎えの時にも居たのですが、皆さん何やら盛り上がっておりましたので」


 マジ? 居たのか? 全然気が付かなかったんだけど。身長は俺より少し小さいくらいだから、居たら分かりそうなもんだけどなぁ。


「あっ、そうだったんですか。俺は……」

「鳳瞭ゴシップクラブの月城様ですね?」


 えっ、なんでそこまで?


「ははっ、仕事柄1度見て聞いたものはなかなか忘れないんですよ。それに彩花様のご友人でもありますしね」


 マジ? あの一瞬で? 恐るべし職業病……。


「えっ、すごくないですか? てか、もしかしてさっきて寝てたのも?」


 まさか気配でもあったら目が覚めるとか? さすがにそれはないか。


「この年になると夜は眠くなりますのでねぇ。それでも玄関付近に人が来たら不思議と目が覚めるんですよ」


 うわっ……ヤバすぎるだろ?


「それってめちゃくちゃ凄くないですか? もはや職業病を通り越して、ある種の才能みたいになってますけど」

「50年近くこの仕事をしていれば誰でも身に付きますよ」


「50年? かなりのベテランさんじゃないですか!」

「それだけが取り柄ですから。それで? お出掛けですか?」


「あっいえいえ。外を見てただけです。露天風呂でも入ろうかと」

「そうですか。もう掃除も終わっていますし、ゆっくりおくつろぎ下さい」

「ありがとうございます」


 50年って、めちゃくちゃ長いよな……そんなに長く勤めれるほど、ここって魅力的なんだろう。それにしても、あの人もかなり凄いと思うけどね。ああいう凄い人が世の中にはポッといるんだろうな。意外と身近にも居たりして? それだったら面白いな。まぁ、そんな事を願いつつ露天風呂ー!




 ふぅ。やっぱりここの露天風呂は最高だなぁ。めちゃくちゃ気持ちいいし、現実から引き離してくれるよ。

 ……でも、よくよく考えたらヨーマに出会ってなかったら、新聞部にも入ってないし、そうなると宮原旅館にも来れなかった訳だし……その点はヨーマに感謝しないといけないのかな? 人質にされてるモノは大きいけど。


「どうだい? 気に入った?」

「うわっ! って桐生院先輩? 驚きましたよ!」

「ははっ、ごめん。脅かすつもりはなかったんだけどね」


 いやいや、全然気が付かなかったし、そもそも扉の音すら聞こえなかったんだが? もしかして桐生院先輩も気配を消せるのか? 先輩ならありえる!


「こんな夜中に露天風呂とは……眠れないのかい?」

「あの爆音の中で寝られると思います?」


「思わないね。実際僕もそうだし」

「でしょう?」


「ははっ」

「くっ、はは」


 桐生院先輩はやっぱり話しやすいなぁ。同じ男でもクソイケメン委員長とは全然違って、人の話を聞いてくれるし、人の気持ちも汲んでくれるしね。聞こえたか? 見習えよ? イビキ野郎。


「ふぅ。新聞部には慣れた?」

「んー慣れたかどうかって言われると……まだまだですかね? 葉山先輩の要望には1発で応える事出来てないですし」


「彩花の理想は高いからねぇ、逆にこの短期間で応えれたら凄いよ。それに、日城さんもそうだけど、月城君の飲み込みの速さは凄いと思うよ?」

「またまた」

「本当だよ。僕は本当の事しか言わないからね」


 嘘だとしても、嬉しいですけどね。


「それと……ありがとう」


 ん? ありがとう?


「えっ?」

「新聞部に入ってくれて」


 なんだそんな事か……。


「いえいえ。俺なんかで良かったんなら」

「ふふ。彩花も喜んでるよ」


 えぇ? 嘘だろ? あっ、イジメる奴が出来てって事か。


「んー、そうでしょうか」

「本当だよ。まず、彩花はどんな事があっても、自分の気に入った……まぁ直感らしいけどね。そんな人しか入部を許さないんだ。過去に入部希望で来た人は一杯居たけど、まぁこの現状を見れば大体は想像つくだろ? それなのに、月城君に関しては自ら勧誘までしたんだ。僕も日城さんもびっくりさ」


「それは……いじりやすかったからじゃないんですかね?」

「そんな事ないと思うよ? それに、もしそうだったとしたらそんな人をここに連れてくるかな?」


 んーこんな高そうなとこ、有り得ない気はするけど。


「この遠方取材に掛かったお金は活動費から出すからって、彩花言ってたよね?」


 確かに言ってたな。足りるか不安で聞けないけど……。


「活動費って実はそんなにないんだよ。彩花には言わないようにって言われたけど、その殆どは彩花が払ってるんだ。僕も少しは出してるけど……その殆どが彩花。そこまでして、いじるだけの人を連れてくるかな?」

「えっ? そうなんですか?」


 はっ? 確かに活動費で賄える事が出来るかって疑問だったけど、その殆どをヨーマが払ってる? しっかも桐生院先輩まで……なんでそこまで?


「ここに連れてきたのは、日城さんは勿論、月城君も気に入ったって証拠だよ? だからこそ、君たちのお友達だって一緒に連れて来たんだと思う。現にそう提案してきたのも彩花だったしね」


 まじか? 早瀬さんは分かるけど……栄人はうるさいだけだと思うんですけど。


「そうだったんですか? でもだったら尚更そこまでする理由が……」

「それは本人にしか分からないからね」


 ですよね。さすがの桐生院先輩でも分からないよなぁ、ヨーマの気持ちは。


「ただ、なんとなくは分かる気がするよ?」

「そうなんですか?」


「おそらくだけどね、僕が言ってたって言わないでくれよ? 彩花は性格的にあんな感じだろ? 自分の思った事ははっきり言う。年上とか関係なしに、おかしいと思った事も、納得がいかない事も全部ね」

「あぁ……確かに」

「そんな感じで、先輩方からの目も厳しくなっちゃってさ。でも、基本的に彩花は筋の通った事しか言わないんだ。それだけは信じてね?」


 筋の通った事か……。あれ? 例外が1つ2つ……。


「それにあの家柄って事もあって、周りの同級生は2つに分かれるんだ。その家柄に安易に近付かないようにする人達と、その家柄に擦り寄って来る人達。前者はこっちが近付いても離れてくし、後者はあくまで建前だけ。本人もその事は良く知ってるから……そんな馴れ合いからは自然と離れて行ったんだ。僕は昔からそんな彩花の姿見て来たからさ」


 昔からかぁ……そういえば、桐生院先輩とヨーマってどこから一緒なんだ?


「桐生院先輩って葉山先輩とは何処で一緒になったんですか?」

「あぁ、保育園からだよ。鳳瞭保育園からずっと一緒」


 うわ……逆に凄くね? ずっと一緒じゃん。


「だからさ、今回みたいに皆を誘うって言い出した事もだけど、部活であんなに楽しそうにしている姿見て驚いてるんだ」


 あれは……楽しんでるんですか? 別な意味でですか?


「そうなんですか? あれ楽しんでるんですか?」

「そうだよ? それに彩花はある意味口下手だからね」


 えっ? 今なんと? 口下手? 有り得ないでしょう、あんなに言いたい事ずばっと言ってんだから。


「だから、ありがとう。新聞部に入ってくれて。彩花を楽しませてくれて」

「いっ、いえ。俺は何も」

「ふふっ、君は本当に面白いよ月城君。彩花が気に入ったのも分かる気がする。なんだか、不思議な雰囲気だもんね。ミステリアスな分どんな反応をするのか楽しみだし、ミステリアスな分思いがけない行動もしてくれる」


 ん? それって褒めてくれてます? ディスってます?


「これからも彩花を……新聞部をよろしくね?」

「あっ、はい!」


 なんかよく分からないけど……ヨーマが俺達の事気にはしてくれてるって分かっただけで、少し不思議な感じだな。それに桐生院先輩がこんな風に言うって事は本当なんだろう……たぶん。ヨーマが口下手には見えないしね。でも、褒められたような気がして悪くはないかな。


 桐生院先輩、こちらこそよろしくお願いします。




「んー!」


「あっあの、先輩? なにやってんですか? そこってさっきの……」


「さすが透也さんだ、仕事が早いよね。もう取れないや。んー!」


 ははっ、桐生院先輩……曝け出すのは良いんですけど……


 イメージが崩れるので止めてください! 本当に!



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