第28話 信じるか信じないかは……
「よっと、それじゃあいいかな?」
「えぇ」
ふぅ何とか危機は乗り切ったはず……危なかったわぁ。とりあえず、救いの神のお話でも聞こうかな?
「まず始めに、これは俺が……いや、俺達が実際に体験した事だ。よくよく考えれば信じられないような事だなんだけど、実際に経験したんだから間違いない。もちろん、聞いたら作り話だって思うかもしれないけど……俺はいたって本気だから、その辺は覚えておいてほしい」
有り得ないか……そんなに不思議な体験だったのか?
「事の発端は丁度去年のお盆辺り、あと少しで1年経つか……。林檎畑の手伝いしててな、その時山奥で洞窟を見つけたんだ」
リンゴ畑かぁ……温泉に、リンゴ畑までやってるのか。
「初めての発見だったからなぁ、テンション上がって次の日探検しようってウキウキだったわけよ。そんで次の日目が覚めたらさ、机に置いてたお守りの紐が切れてたんだ」
「あっ、そういえば透也さん腕にいつも付けてましたよね? でも今は……」
「ほれっ、なくなった。まぁ正確には、よいしょっと、小さくなってスマホに付けてる」
透明で丸いビーズ? に、立方体の木かな? 紐で繋がってキーホルダーみたいになってる。
「去年はお前達帰った後だったからな……その後にこうなった。その時点で大分嫌な感じはしたよ。紐は編み込んでたしハサミで切ったなら分かるよ? けど、切り口が力任せに千切ったようなほつれた感じでさ、それって相当力が必要だと思うのよ。それにこのお守りって言っちゃあれだけど代々受け継がれて来た物だから、家の人が安易にそんな事するとも思えなくて、まぁ……結局誰がやったとか分からないまま探検に向かったんだ」
何それ? 予想以上に不思議というか、気味悪いんですけど? 待て待て! これもヨーマが仕組んだ罠じゃないか? 宮原さんと結託して、俺達を怖がらせる為の壮大なドッキリ……有り得る!
「んで、その洞窟のとこまで来たんだけどさ、洞窟の反対側に大きな穴が開いてるのが見えたんだ。昨日来た時にはそんなのなかったし、あったら確実に気付いてるはず。それで気になって、近くまで行って穴を覗き込んだ時に……落ちたんだその穴に」
落ちた? いよいよ怪しい雰囲気になってきたぞ?
「落ちたって、足を滑らせたって事ですか?」
おっ、演出を煽るように桐生院先輩が質問し始めたぞ? 可能性は低いとはいえ、こんな大がかりなドッキリはヨーマだけじゃ無理だろ。やっぱり、この3人はグルだって考えた方がいいな。
「あぁ。信じてもらえないかもしれないけど、俺は確かになにかに押されたんだ……」
「押された……」
押された、そんな気がした……ホラーの定番だね。てか意外なのが、先輩2人と同じ位イケメン委員長含め3人も真剣に話聞いてるんだよな。もしかして、このメンバー全員グルなんじゃないか? 俺をドッキリさせる為の!
「んで、そのまま穴の中をグルグル落ちて行って、気を失った訳。んで気が付いたらそこは洞窟の中。でも驚いたね、あんなに派手に落ちたのにかすり傷1つない、それに辺りを見渡しても落ちて来たはずの穴がない。正直死んじゃったのかもって思ったけど、幸い心臓は動いてた」
はい出たー、異世界ルート! この時点でかなり有り得ない流れです、こうなったら何でも有りになっちゃうぞ?
「それって……別な所に来ちゃったって事ですか?」
新鮮な反応ありがとう、早瀬さん。いや……この反応も演技かもしれない。
「そういう事だね。見たことない所だったし、見事にリュックもなかったからね。まぁそれでも、ここに居ても仕方ないなって思って、とりあえず洞窟の続いてる方へ歩いて行ったんだ。そしたら男の人の声が聞こえた」
おいおい、冒険物のテンプレじゃねぇか。持ち物を無くすって。ますます怪しい。
「聞こえた瞬間は嬉しかった、けどすぐに現実に引き戻されたよ。その声は明らかに何かから逃げてるような叫び声だったんだ。だからさ、ゆっくりその先へと進んだ。そして、ちょうど曲がり角まで来た時、出口らしき場所が見えたんだ」
多分、ホラー的にはその出口から出たら、辺りには古い民家が広がっていたとかそんな流れじゃないかな?
「誰も居ないのを確認して、ゆっくり出口まで来た俺は、そこから外を覗き込んだ……そしてその先には」
「その先には?」
日城さんまで集中してんじゃん。てか皆前のめりになって聞いてるし、嘘だろ?
「赤い着物を着た女の人、その人から逃げるように後退りする男の人がいたんだ。ぶちゃけどうにも出来なかったよ、どこか訳が分からない場所で、目の前に着物を着た人が鎌持ってたんだ。そんな状況に驚きっぱなしでさ……」
あるある。その人が村人全員やってしまったって事かな?
「着物って……現代じゃ有り得ないよね?」
「うん。別次元に迷い込んだって事なのかもしんない」
えっ? ちょっと先輩方? 何ガチで考察してんですか? 特にヨーマ! あんたはイメージ的に幽霊とか怪奇現象否定派でしょ? はっ? なにそれ? そんなの信用できる訳ないでしょ? って言うところでしょうが。
「まぁ、結論から言うとそういう事。それに、その逃げてた男見た事あったしね。でもそれは、なんでこんな所にいるのか分からない人物だったんだ」
「誰なんです?」
「去年の今頃、家族が乗った乗用車にトラックがぶつかって逃げた……そんな事件覚えてない?」
去年の今頃? ……あっ、旅行帰りの家族の車にトラックが当て逃げしたって事件か? しかも乗ってた家族は確か娘さん以外皆亡くなったって。そしてその犯人は……確かまだ捕まってないはず。
「覚えてます。犯人は今も捕まってないですよね?」
「さすが彩花ちゃん、そういう事はバッチリだね。俺が見たのはその犯人だったんだ。有り得ないだろ?」
はっ? 有り得ないだろ、逃げてる犯人だぞ? でも妙だな……作り話にしても現実の事件を絡めてくるなんて……いやっ! ヨーマなら綿密な作戦考えても不思議じゃない。
「見間違いじゃ?」
イケメン委員長。俺も同意見だ。
「見間違いなら良かったけどな……その人、俺の目の前で喉切られたんだ。吹き出る血飛沫……それ見た瞬間、俺気持ち悪くなって気絶したんだよね」
えっ、なんかサクっと言ったけど殺された? まぁ居場所が分からない奴ならどういう事になっても矛盾は生まれないからなぁ。上手く話作るもんだな。
「殺されたって事ですか? 目の前で?」
「あぁ、逃げてるはずの犯人が目の前でな」
「かなり有り得ない出来事の様な気がしますけど……」
全くその通りだよ桐生院先輩。有り得ない事だらけなんだよ。
「まぁ、普通に聞いてたら有り得ないよな。俺だってそんな言われたら信用できないだろうし、まぁ皆の反応もごもっとも。けど、そんな体験したのは俺だけじゃないんだよなぁ」
ん? どういう事だ?
コンコン
「入ってもいいですか?」
この声は……桃野さん?
「いいよー」
スー
「お邪魔します。皆お揃いだね」
「あぁ、今日はもう終わり?」
「うん」
「なら、丁度良かった。まぁ、座って」
丁度良かった?
「この体験をしたのは俺だけじゃないんだ。隣にいる真白も一緒に経験してる」
「ん? あぁ、あの話? まぁ、皆信じられないと思うけどね」
はぁ? 桃野さんも? 一緒に経験してるって……いやっ! 桃野さんも協力しているに違いない! こうなれば皆疑うほかない。騙されんぞ? 絶対に。
「えっ! 桃野先輩もなんですか?」
ヨーマめ驚く演技が白々しいな。
「そうだよ?」
「真白。俺があそこに着いた所までは話した。そして犯人の事も。だから……」
「あっ……うん。良いよ」
「大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫」
「じゃあ……」
ん? まだ何か隠し玉でもあるのか? 早々信用しないけど?
「さっき言ってたトラックの当て逃げ、そして生き残った娘さん。その人の苗字分かるか? 彩花ちゃん?」
「苗字は確か……桃野……まさか?」
「そのまさかだよ。その生き残った娘さんてのが……真白なんだ」
「嘘!?」
「まじ?」
まじかよ? 確かに……桃野ってそんなメジャーな苗字じゃないよな? ヤバい、事件の事も言われるまで忘れてたから、まさか桃野さん=その桃野さんだなんて気が付かなかった! ん? だとしたら、それをヨーマが知らない訳なくないか? 憧れの存在、テレビの報道……再び会えた事の感動で忘れてたのか? それとも……これも計画の内なのか?
「やっぱり……そうだったんですね」
ん? ヨーマ? あれ? めっちゃ深刻な顔してる。
「あの事故が起きて、桃野先輩の事じゃないかと思いました。けど夏休みだったし、学園側だって教えてくれる訳なかった。私は先輩のご家族の名前なんて知らなかったし、きっと桃野先輩じゃないって言い聞かせてました。そして、現に夏休みが終わった後、桃野先輩は学園に来ました。普段と変わらないように笑顔で……だから私は安心してました。今日その事実を知るまでは……」
えっ? これマジな奴? なんか……泣きそうじゃないか?
「えっと……葉山さん? そんな悲しい顔しないでよ……。あの、私はご覧の通り大丈夫だから。というか、透也くんとこの宮原旅館の皆に救われたんだ」
透也さんと宮原旅館に? ヤバい訳が分からん。本当の話なのか? 作り話なのか? ヨーマも桃野さんも演技なのか? 本気なのか?
「でっ、でも……」
「そんな顔してくれてありがとう。透也くん、ここからは私が話すね?」
「あぁ、頼む」
「じゃあ皆聞いてくれるかな? 私が体験したお話。透也くんと出会った式柄村って不思議な村の話。そして、私が元に戻れた……」
「一生忘れられないお話」
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